173_真里姉と瞳と同じ色が続く世界
成長より、もはや進化といっても過言ではない変貌を遂げたヴェルを前に、私達が落ち着きを取り戻すまで三十分を要した。
冷静になり改めて見ると、本当に大きい。
六メートルの体長もさることながら、首を持ち上げると高さが私の身長の優に三倍くらいになる。
「しかし何度見ても、未だにこれがヴェルだとは信じらんねえな」
「ここまでの変化は、予想の斜め上過ぎるわね」
「さすがマリアさんの家族ですねぇ」
ルレットさんの言葉に、カンナさんとマレウスさんが同意を示す。
特に私のという辺りで、力強く。
いや、そこで納得しないで欲しいんですけれど……。
「ただこの大きさなら、卵の時にあれだけ武器や防具を食わせる必要があったのも頷ける」
「あの頃はワタシ達、毎日ヴェルちゃんのために作り続けていたものね。それが結実したと思うと……やだわ、時間差でぐっときた」
「光の中に私達が作った物が浮かんだのもぉ、心憎い演出でしたぁ」
しみじみ語り合う三人へ、ヴェルが感謝を示すように一際大きな声で鳴く。
「さて、クーガーちゃんは目的ありきで生まれたけど、ヴェルちゃんはどうかしら」
カンナさんがちらりと私に目を向けてくる。
それだけで、意図は十分に察せられた。
「ヴェルは、飛べる?」
「ピヨッ!」
「その背に、私が乗っても平気??」
「ピヨヨッ!!」
大きな翼を一振りし、力強くヴェルが答える。
ルレットさん達を振り返れば、揃って親指を立てていた。
ギルスの手を借り、慎重にヴェルの背に乗る。
念のため【大蜘蛛の粘糸】で体を固定させて……うん、これでよし。
準備を終え、私は深呼吸を一つしてからヴェルに告げた。
「お待たせ。それじゃ行こうか、ヴェル」
「ピヨヨヨッ!!!」
今日一番の元気な声を上げ、ヴェルがその場で羽撃く。
白鳥は水面で助走をつけてから飛ぶ印象があったけれど、ヴェルは違うらしい。
繰り返される羽撃きに、ヴェルの体が徐々に浮き上がる。
「「「おおおっ」」」
ルレットさん達が感動と驚きが混ざった声を漏らす中、高度はどんどん上がっていく。
樹々の高さを越え、丘を越え、やがて雲を抜けた、その先。
「うわぁ」
空が、広がっていた。
群青の空は天頂から降りるに従い色味を柔らかくし、ヴェルが飛んでいる高さでは空色になっている。
初めて海を見た時も感動したけれど、今回はそれ以上。
空に包まれるという、想像もしなかった体験。
何より、そんな場所へヴェルが連れて来てくれたことが嬉しい。
自分の無力さを嘆きながら、それでもヴェルは挫けず、ジェイドさんとの戦いでは私を守るためその身を挺した。
とても強く、勇気のある子だと思う……だからかな。
翼を広げ大空を飛ぶ今のヴェルは、どこか誇らしそうに見える。
込み上げる、喜び。
溢れ落ちる、涙。
涙は直ぐに空へ溶けたけれど、喜びは消えず、私の心を温め続けてくれた。
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