168_真里姉とおもい繋がり目覚めし力
「神と対話する場が教会だとすれば、この大星堂は己と向き合う場。新たな力を目覚めさせるため、自ら答えを出す必要のあるお主には、打って付けなのだ」
私を見据え、口を開く王様の口調は物々しい。
以前クラスチェンジした時は、新たなジョブをゼーラさんが示してくれた。
けれど、今回はそうじゃないようだね。
でなければ、ゼーラさんが黙ったままでいるはずがない。
黙っているといえば、エステルさんが静かなのも気になる。
何より、この場にいることも。
それを王様に尋ねると、
「お主達を繋げるために二人の協力が必要でな、余が招いた」
「繋げる、ですか?」
「うむ。最後に答えを出すのはマリア、あくまでお主自身。だがその過程において、家族の存在はお主の助けとなるだろう」
予言めいた言葉の意味を理解しきれぬまま、私達は大星堂の中央へ移動した。
そして王様に促され、ギルスとヴェルを喚ぶ。
見知らぬ場所で喚ばれ、警戒感を露わにする二人。
ただ状況を伝えると、直ぐに落ち着いてくれた。
意外だったのが、初めて会うゼーラさんを二人がすんなり受け入れたこと。
道化師として私の師匠ともいえる人だし、感じるものがあったのかな?
「揃ったか。では始めるとしよう。マリアはエステルの許へ、ヴェルはゼーラに、ギルスは余の前だ」
二メートルくらいの距離を空け、王様達は三角形を描くように立っている。
指示された通りに動くと、頷きを一つ見せ、王様達が唱うように言葉を紡ぎ始めた。
『尊き心を衛りしは、無垢な情愛』
『深き心を護りしは、練達な技量』
『広き心を守りしは、強靭な肉体』
二節からなる言葉の唱う手を、順々に変えて。
『高みは狭き道の果て』
『標となるは繋いだ縁』
『汝は進め心のままに』
『『『さすれば想い届かす力とらなんっ!!!』』』
最後は三人による斉唱。
それを聴き終えた瞬間、私の意識は急速に遠のいていった。
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意識が戻ると、私は真っ暗な空間に居た。
大星堂と違い、そこには光も地面もなく。
感覚は曖昧で、夜の海原に揺蕩っているかのようだった。
心細さは感じるものの、不思議と恐れはない。
ただ、困惑はある。
「待てばいいのか、何かしないといけないのか……」
しかし浮いているような状態だと、できることも限られる。
「アイテムは取り出せないし、スキルも……ダメか」
早くも途方に暮れていると、小さな光が遠くに見えた。
それは数を増し、しかも徐々に大きくなっている。
大きさの変化がこちらへ向かっているせいだと気付いた頃、光の正体が明らかになった。
「あれは……私が初めてエステルさんに出会った時の、映像?」
白黒で少し不鮮明だけれど、間違いない。
懐かしさに手を伸ばすも、光は掴めず通り過ぎてゆく。
一抹の寂しさを感じながら視線を戻すと、他の光が次々と迫っていた。
それらは全て、私がMebiusで過ごした光景。
“誓約の洞窟”で戦った場面を目にした時は胸が張り裂けそうになったけれど、不意に黄色と緑の光が現れ、慰めるように寄り添ってくれた。
「こんな形で再会できるなんて……ネロ、空牙」
涙ぐむ私の前で、二つの光が輝きを増す。
そして渾然一体となり、私を包み込んだ。
まるで、守るかのように。
「いつもありがとう……ギルス」
感謝の言葉を告げると、『気にするな』とでも言うように光が微かに明滅した。
ギルスらしい応えに苦笑していたら、光はやがてリベルタを映し始めた。
初めての海、離島での穏やかな一時、そしてジェイドさんとの戦い。
ジェイドさんへ抱く感情は複雑で、未だに心が揺れ動く。
不安、と言い換えてもいいかな。
自覚した瞬間、灰色の光が生まれ私の周りを飛び始めた。
どこか必死なその様子は、あの子の面影をちらつかせる。
「励ましてくれているんだね……ヴェル」
言葉を聞き嬉しそうに光が舞い、ギルスと同じく私を包む。
ああ、なんて心強く、温かいのだろう……。
やがて流れてくる映像の光は消え、空間は再び暗闇で満たされた。
今までが過去の断片なら、ここから先は未来なのだろう。
先のことは、誰にも分からない。
けれど私は、独りじゃない。
思い浮かべる、大切な仲間。
想い浮かべる、己の在り方。
二つのおもいが交わり、闇の中、目の前に新たな光を生む。
導かれるように光を手にした瞬間、私はそれになった。
『【マリアネーター】へクラスチェンジしました』
……ちょっと何を言っているのか分からない。
えっ、ダジャレ?
どいうことですか王様! もしくはザグレウスさん!?
心の底から叫んだものの、いつも通り返事が来ることはなかった……。