165_真里姉と緋色の繋がり
ルレットさん発案により、私達はレベル上げをすることになった。
けれど王都を離れていた分の料理の仕込みや、月下の戦いで傷ついたギルスを治す必要があるため、実施は一週間後で決定。
その中には、【羅刹天】となったルレットさんの装備を一新することも含まれている。
ちなみに装備の一新は、カンナさんとマレウスさんが強く主張した。
お祝いという言葉も口にしていたけれど、必死な表情に過酷なレベル上げを少しでも先延ばしにしようとする意図が垣間見える。
苦笑を浮かべつつ、ルレットさんは二人の主張を受け入れた。
それなら自分も一緒に作ると、楽しそうに口にしながら。
離れに消えていく三人を見送った後、私は少なくなっていた分の料理を作り、エステルさんの相手をし、エステルさんの相手をしていた。
……大事なことなので二度言ったからね?
数日かけて十分な量を作り、私は最後に託された物の確認を行った。
【天竺の糸】
願い・試し・救いという三つの意志が籠められた天上の糸。
願いにより、空間に縛られず求めに応じどこまでも伸びる。
試しにより、用いる者の資質が問われる反面、相応の恩恵を与える。
救いにより、魂が繋がるモノへ進化をもたらす。
(装備特性)空間透過、無限伸、厳恵、魂現昇華、
VIT+3、AGI+15、DEX+40、INT +10、MID+20
言葉の印象と装備特性の数からして、凄い物みたい。
説明により空間透過と無限伸の効果はなんとく分かるけれど、あとの二つは今一つ。
まあ、これは実際に使って確認しよう。
それにしても、装備特性で上がるステータスが大きい。
【龍糸】の時も驚いたけれど、およそ倍かな?
装備するのが躊躇われる程の性能に慄いていると、【龍糸】の言葉で重要なことを思い出す。
「危ない、同じ轍を踏むところだった」
気持ちを落ち着かせ、もう一度確認する。
【天竺の糸】
願い・試し・救いという三つの意志が籠められた天上の糸。
願いにより、空間に縛られず求めに応じどこまでも伸びる。
試しにより、用いる者の資質が問い続けられる反面、相応の恩恵を与える。
救いにより、魂が繋がるモノへ進化をもたらす。
(装備特性)空間透過、無限伸、厳恵、魂現昇華、
VIT+3、AGI+15、DEX+40、INT +10、MID+20
(装備条件)適正三次職
「やっぱりあったよ、装備条件……けれどSTR150以上とか、明らかに無理な条件ではなさそう」
三次職は、これから皆とレベル上げをして目指すしね。
ただ“適正”という言葉が引っ掛かる。
元が道化師なら大丈夫なのか、特定の三次職を選ばないといけないのか……。
「レベル上げが終わったら、久しぶりにゼーラさんに会って聞いてみよう」
方針を立てホームへ向かうと、ちょうど離れから母家へ繋がる扉が開き、カンナさんとマウレスさんが姿を見せた。
「出来上がったんですか?」
「ええ、とても素敵な仕上がりよ!」
「後半はルレットが本気出して、俺達はほぼ空気だったけどな」
「それは言わない約束でしょ、マレウスちゃんっ!!」
「あぷばっ」
カンナさんが両手でフックを見舞い、マレウスさんの頭がピンポン玉のように跳ねた。
クランに広まるジョブ偽装疑惑が止まらない……。
「二人のじゃれ合いも変わりませんねぇ」
くすりと笑り、ルレットさんが現れる。
新しい装備に身を包んだその姿は、圧巻だった。
服は瞳と同じ緋色の生地をベースに、縁を金糸で縫い体の線に沿うように作られている。
丈は膝上で抑えられ、浅くスリットが入り黒いタイツが覗いていた。
そのタイツは足元へ行くに従い藍色へと変化し、紺碧に染められた靴と調和している。
長い髪はサイドで束ねられ、イベントの特別報酬で得た薔薇の冠を被っていた。
厚めの生地が戦うための服だと示す一方、ルレットさんのスタイルの良さと繊細な色味が合わさり、そのまま社交場に出れそうな感じがする。
「凄く綺麗です、ルレットさん……色の組み合わせは、ひょっとして?」
こっそり問い掛けると、少し照れた表情を覗かせた後にルレットさんが頷く。
「さすがですねぇ。どうしてもぉ、あの時の光景を取り入れたかったんですぅ」
「なるほど」
緋色はルレットさん、黒と藍色は夜空、紺碧はあの人を表しているのだろう。
眼鏡が無くなっても残る確かな繋がりのようなものを感じ、私の心は温かくなった……。