152_真里姉と旅の報告
文字通り王様御用達の馬車に入ると、中は見た目以上に広かった。
横幅は三人がゆったりと座れるくらいあり、長さにいたってはテレビでしか見たことのないリムジンのよう。
椅子のあちこちに施されているのは、獅子のモチーフ。
それらも金で彩られ、床には真紅の絨毯が敷かれている。
とても派手なのに威厳を感じさせる作りになっているのは、職人の方の腕が良いからだろうね。
王様と私が前の方へ乗ると、ルレットさん達は後ろの方へ。
未だ起き上がれないマレウスさんと、昏倒したばかりのカンナさんは横になり盛大に場所を取っているけれど、王様には目を瞑ってもらおう……。
「たまにはこうして、城の外へ出るのも良いものだ。部屋に籠って仕事漬けでは気も滅入る」
馬車を囲みなおも歓声を上げ続ける住民の方に応え、王様が手を振る。
その横顔を窺うと、顔色が以前より良くなっていた。
目の下のくまは残っているけれど、化粧で隠す必要がない程には薄い。
それについては安堵しつつ、たまに外へ出るという言葉が引っかかる。
割と城の外で見ている気がするんですけれど、具体的にはホームの小部屋で……。
私が向けるジト目を、真正面から受け止め『それがどうした?』と小揺るぎもしないあたり、さすが王様なのかもしれない。
そうこうしている内に馬車は出発し、程なくして歓声も遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなった。
「さて、これで落ち着いて話せるが……」
居住まいを正し、王様が口調を変えた。
「まずは謝罪を。良かれと思いリベルタへ向かわせたが、厄介事に巻き込んでしまったのは余の手落ち。すまぬ」
「気にしないでください。それに、私が皆さんを巻き込んだのかもしれませんし」
「ジェイド、か」
「はい」
どこまで伝わっているのか不明なので、私はジェイドさんに初めて会った時からのことを、順に話していった。
「ふむ。奴隷の冒険者にして、ゼノアの者からは裏切り者と呼ばれる男か」
「なぜ裏切り者と呼ばれているのかは、分かりませんでしたけれど」
一頻り伝え、最後に残ったのはあの言葉。
ただ意味深で、話していいのか迷う。
王様は、黙って私を見詰めていた。
その目は急かすことなく、むしろ穏やかにすら感じる。
一呼吸置き、私は隠さずに告げることにした。
「ジェイドさんから、『もうこの国に関わるな。もし関わるなら、今後大きな決断を強いられる』と言われたんです」
「警告か。具体性に欠けるが、気になるのは強いられるという点。ジェイドの中では、確度の高い予想であるがゆえの言葉であろうな。加えて、直前に出会ったユダス……余の方でも探ってみよう。お主は警告通り、あまり関わるでないぞ」
「凄い念押し……私、そんなに信用ないですか?」
「最奥にて、余の制止を聞かずメフィストの用意した空間へ赴いた実績を踏まえ、再度尋ねるか?」
「……すいません」
ぐうの音も出ない。
私の中で他に選択肢はなかったけれど、それが王様の考えと一緒だとは限らないのだと、改めて気付いた。
反省する私に、しかしずっと腹に据えかねていたらしい王様は、その後当時の心情と、私への苦言を口にし続ける。
それは王都へ着くまでの間、ずっと続けられた。
私の姿勢は、途中から正座。
どの時点でそうなったかはよく覚えていないのだけれど、王都までの道のりが果てしなく遠くに感じたのは確かだった……。
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