150_真里姉と帰還の船上
遠目に映る、宮殿の中へと消えるジェイドさんの後ろ姿を見送り、私達も宮殿に戻ると、ちょうどベンさんが締めの挨拶をし宴はお開きとなった。
そして宮殿に併設された、CMで見る高級ホテルのような部屋で宿泊。
翌日は盛大な見送りの中リベルタを出航し、何事もなくカルディアへと帰ることができた。
カルディアの港街が目前となった際、カンナさんが大きく伸びをしながら零す。
「素敵なバカンスだったけど、少し後味の悪い終わり方になったわね」
視線の先には、船の手すりに体を預け、憂い気味な横顔を覗かせ遠くを見詰めるルレットさんの姿が。
「まだ、そっとしておかないといけませんか?」
「こればかりは、自分で向き合うしかないわ」
「そう、ですか……」
沈む私に、けれどカンナさんが片目を瞑り明るく続けた。
「ただ、ワタシ達にもできることはあるの。それはいつも通りでいること。でないと、ルレットちゃんも相談し辛いはずよ、助けが必要となった時にね」
「カンナさん……」
実感の籠った力強い言葉に励まされていると、
「ただ、あっちはちょっとね」
声のトーンを落とし、ルレットさんに向けていた視線を他へ向けた。
そこには周囲より重く暗い空気を纏った、体育座りをするグレアムさん。
「あれは誰かが手を伸ばさないと、立ち直れないかも」
「……カンナさん、どうして一瞬私を見たんですか?」
「気のせいよ」
うん、絶対気のせいじゃない。
その証拠に、落ち着かない様子でグレアムさんを見守る教団の人達までもが私を見ている。
あれだけ責め続けたものの、あまりの落ち込み具合に不安を覚えたらしい。
「仲間ってなんだろう……」
辞書で“仲間”と調べても、今の状況を表す説明はきっとされていない。
溜息を一つ零し、グレアムさんの許へ赴く。
脳裏に浮かぶのは、ジェイドさんとの遣り取り。
正直よくぞ言ってくれました、と思うところが無い訳じゃないけれど、想いは人それぞれだしね。
それに最後は、その想いの強さを認められていたし。
かける言葉を探しながら歩みを進め、私はグレアムさんの前で身を屈めた。
「グレアムさん」
呼びかけに、グレアムさんの体がビクッと震える。
ただ、声が返されることはなかった。
俯いた顔が、上がることも。
一呼吸置き、私の想いを口にする。
「だいじょうぶ」
ゆっくりと、その一言を。
何が、とは言わない。
心が沈んでいる理由の全てを、知っている訳じゃないしね。
伝える言葉はだからこそ少なく、けれど籠める想いは強く。
それを託したのが、だいじょうぶ。
グレアムさんから反応があったのは、その数分後。
「教祖さ……マリアさんっ!!」
顔を上げたグレアムさんは、泣いていた。
それはもう、びっくりする程激しく。
だいじょうぶの想いが、少しだけ揺らいだのは内緒にしておこう。
……本当に少しだよ?
その後、立ち上がったグレアムさんは教団の人達に囲まれ、前回とは一転、励ましの言葉を次々と掛けられていた。
何も知らなければ、近付くカルディアの港と相俟って、長旅を終え故郷を前に盛り上がる一団に見えたかもしれない。
「これ、私にとってはだいじょうぶだったのかなあ……」
その問い掛けをそっと天に向け放ってみたけれど、今度もやはり、ザグレウスさんからの応えはなかった…………。
お読み頂いた皆様、今年一年お付き合い頂きありがとうございました。
途中ものすごく更新が空きましたが、それでも再開できたのは、待ってくださった皆さんのおかげです。
重ねて、感謝を。
あと数日で今年も終わりですが、来年が皆様にとって良い年になるよう、マリア達と一緒に祈っています。