149_オーディオドラマ 真里姉と手紙へ託された想い(三通目)
(オーディオドラマ 最終夜)
https://youtu.be/jYKhsv3hHlI
「思ったより時間が掛かったけれど、では最後の手紙を……ん?」
封筒を開ける手が、思わず止まる。
「名前がない……」
これまでもらった手紙には、封筒に必ず名前が書かれていた。
返事を届けるのにも必要だから、当然だよね。
にも拘わらず、それがない。
「書き忘れ? でも病院の方や真人が、見過ごすとは思えないんだけれど……」
一抹の不安を覚えながら、封筒を開き手紙を読む。
そこに書かれていたのは、一言。
“あなたは幸せですか”
ただ、それだけ。
簡潔過ぎて、ひょっとして悪戯なのかと最初は思った。
でも力強い筆跡が、それを否定している。
むしろ山程ある聞きたいことを必死に抑え込んだ……そんな気がした。
「それにしても……」
こんな風に問われ、『はい』と直ぐ答えられる人が、どれだけいるだろう。
ネットに溢れる、苦境を訴える声。
その一方で、心無い中傷も目に付く。
私がどちらにも感じたのは、余裕の無さ。
と言っても、余裕が無かったのは私も同じだったけれど。
かつては、経済的に。
少し前までは、精神的に。
「でも今は…………」
由紀ちゃんに対し浮かんだ想いが、問いへの答えを形作る。
録音に吹き込んだのは、私も短い一言。
「幸せです」
今の私でも、応えられるものがあるから。
大切な人と、私自身に対し……。
録音を止め、私は手紙へ逆に問い掛けた。
「だから、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ? 名無しの送り主さん」
戯けながら、手紙の端をつんと指で弾く。
私は手紙を封筒に戻し、三通揃えベッドの側へ置いた。
その際、視界に入ったのが窓。
見れば雨が止み、厚い雲は風に流され、空に切れ目を生んでいた。
そこから、光のヴェールが幾重にも地上へ降りてくる。
自然が織り成す光景に心奪われていると、窓へ映る私に気付く。
その顔は、穏やかな笑みを浮かべていた…………。
いかがでしたでしょう。
楽しんで頂けたら、幸いです。
なお、コミカライズにもオーディオドラマを載せています。
内容は同じですが、高音質フルバージョン。
よろしければ、そちらもぜひ。
ではまた次週、水曜日の12時に。