14_真里姉とネロとネームド戦再び
ジャイアントスパイダー、レベルは20。
レベル的には格上で、しかも通常より強いネームドというおまけ付き。
その大きさは4mくらい。
脚が山なりに曲がっている状態だから、全部伸ばしたらその1.5倍くらいにはなりそう。
脚は細かな毛でびっしりと覆われ、全体としては図鑑で見たタランチュラに近い見た目をしている。
けれど図鑑のタランチュラとは違い、糸を使わず襲いかかってくるタイプではないみたい。
空中から降りてきたところをよく見れば、細い糸が真っ直ぐ上へと伸びているのが見えた。
その糸は、さらに木々の間に張り巡らされた糸に繋げられている。
「普段と逆の立場になってる……」
糸を使った結界は私の常套手段なのに、今は私の方が糸の結界に閉じ込められている形だった。
これだと逃げることもままならない。
諦めて戦うとして、でもどうしたらいいのかな。
「まずは……」
1本の糸を守りを固めるため木々の間に張っておき、その後ろに回る。
そしてネロはジャイアントスパイダーの背後から向かわせつつ、もう1本の糸でその脚を狙った。
避けられるかと思ったそれは、意外にもあっさり巻き付き、そして外れた!?
一瞬呆けてしまった隙に、ジャイアントスパイダーが糸を噴射してきた!
私のAGIでは避けられないくらい速い!!
けれど、予め張っておいた糸が思惑通り盾になってくれた。
危ない危ない。
目の前、私の糸にぶら下がっているのは、中途半端に膨らみかけた糸の塊。
「捕縛する感じの攻撃か」
おそらく直前でネット状に広がって、相手の動きを封じるんだろうな。
でもおかげで助かったよ。
もしクラッカーから飛び出す紙テープのように、細かな糸が何本も噴出されていたら、すり抜けられて終わっていたかもしれない。
けれど守りに使った糸はジャイアントスパイダーの糸が絡みつき、操ることができなくなってしまった。
そちらは諦め、木を盾にしながら細かく動き、時折反対方向に残った糸を伸ばし【クラウン】を発動して注意を引きつける。
そうして時間を稼いでいると、背後に回ったネロが木を駆け登り、ジャイアントスパイダーに飛びかかった。
連打される、光る猫パンチ。
「巨大な蜘蛛に小さな猫が肉球を高速で叩きつける様子って、なんか戯れてるようにしか見えないな……」
うん、ちょっとシュールだ。
けれど、この攻撃でフォレストディアも瞬殺してるからね。
ネロに注意が向けられる前に距離を取らせ、ジャイアントスパイダーのHPを見ると、微々たる量しか減っていなかった。
「うそっ!?」
糸に乗る脚元から煙を生じさせ、ジャイアントスパイダーがゆっくりこちらに向き直る。
しかし私よりネロの方を驚異と感じたらしく、攻撃の殆どはネロに向けられた。
ネロは私に似ず素早い。
木々もあるから避けるのに専念させればしばらく耐えてくれそう。
「その間になんとか対策を考えないと……」
フォレストディアに与えたダメージ量と比較すると、いくらネームドモンスターとはいえ、HPの減りが少な過ぎると思う。
ネロの攻撃に対して相性が悪いのかな?
そもそもネロの攻撃って、何だろう。
猫パンチの時に光るのもよく分かっていないし……ここはもっと攻撃させてみよう。
私は【クラウン】を連発し、ジャイアントスパイダーの注意を引きつけ、その隙にネロにさっきとは異なる箇所に攻撃をさせてみた。
1撃目は腹部、変化なし。
2撃目は胸部、変化なし。
3撃目は頭部、変化あり!
HPがぐっと減り、よく見れば8つある眼のうち、1つが閉じている。
弱点は眼か!
「ネロ!」
「!」
私の声に反応して、ネロが次々とジャイアントスパイダーの眼を狙い打ちしていく。
ジャイアントスパイダーは必死にネロを引き剥がそうとしてるけれど、小さ過ぎるネロを捉えるのにジャイアントスパイダーの巨体は適していない。
そしてさすがに糸を自分の頭部に噴出することもできないみたいだ。
4つ、5つと順調に眼を潰していき、開いている眼が残り1つになった時。
私はもう倒せる気になっていたところで、変化が起きた。
ジャイアントスパイダーが大きく身震いすると、その腹部から小さな蜘蛛が大量に飛び出してきた!
「ネロ!」
ジャイアントスパイダーの体表を這う様子に急いでネロを離れさせると、相手を見失った小さな蜘蛛は今度はこちらに向かってきた。
糸で【クラウン】を発動し注意を引いても、数が多くて誘導しきれない。
幸い糸を吐いたりはしないようだけれど、この小さい蜘蛛地味に速い!
逃げる私はあっという間に追いつかれ、あちこち齧られ始めた。
防御の薄い私では、その1撃1撃にHPをみるみる減らされていく。
慌ててポーションを飲むけれど、回復が全く追いつかない。
このままだとポーションの再使用時間までHPが残ってる可能性はゼロだ。
これはもう無理かな……と諦めかけた、その時。
ネロの猫パンチが私に向かって振り下ろされた。
ぽふん、という気の抜ける肉球の感触とは裏腹に、響いたのは”バリバリッ”とした音と光。
至近距離の光に眼を閉じた私が再び眼を開くと、そこには纏わり付いていた小さな蜘蛛達が地面の上でのたうちまわり、消えていくところだった。
あの音と光と、まとめて倒された小さな蜘蛛達。
ひょっとしてネロの攻撃って……。
「雷?」
「!」
尻尾をぶんぶん振っているのは正解ってことかな。
おかげで小さい蜘蛛を倒す算段がついたよ。
それは難しいことではなく、逃げながら小さい蜘蛛を集め、ネロにまとめて倒してもらう、これを繰り返すだけだ。
幸いポーションは十分ある。
【クラウン】と併用すれば十分ポーションの再使用時間を稼ぐことができた。
そしてあらかた小さい蜘蛛を倒し終わったあと、私とネロは再びジャイアントスパイダーに向き合った。
狙うのは最後に残った眼だ!
戦い方は変わらない。
私が注意を引き付け、ネロが攻撃。
眼の殆どが潰れたおかげでネロは楽々と頭部に飛び移り、残された眼に向かって猫パンチを繰り出した。
「ギシャアアアァァッ!!!」
断末魔の叫び声を上げ、そのHPがぐんと減る。
このままなくなると思いきや、直前で止まり、なんと胸頭部を切り離してこっちに飛んできた!
そんなロケットみたいなのあり!?
油断していた私は避ける間も無くジャイアントスパイダーに伸し掛かられた。
その衝撃で私のHPは一気に1割まで激減。
牙が覗く大きな口はもう目と鼻の先。
ネロは飛び出された勢いに振り落とされ間に合いそうにない。
美味しくなく頂かれそうになった私は、諦め……られるかっ!!
残された糸をジャイアントスパイダーの口に叩き込み、我武者らに動かした。
……我に返ったのは、それからどのくらい経った後だったのか。
目の前に、画面が起動されていた。
『ジャイアントスパイダーを倒しました。レベルが14になりました。【操糸】スキルのレベルが12になりました。【傀儡】スキルのレベルが5になりました。【クラウン】スキルのレベルが7になりました。【ジャイアントスパイダーの糸】を手に入れました』
「な、なんとか倒せた……」
嬉しさよりもまず思ったのは、すーーーーっごく疲れた! ってこと!!
「もうネームドの相手はたくさんだよ……」
そのまま倒れ込んだ私は、近付いてきたネロを抱いてしばらく起き上がることができなかった。
(マリア:道化師 Lv12→14)
STR 1
VIT 3
AGI 5
DEX 51→56
INT 4
MID 10→13
(スキル:スキルポイント+32→+36)
【操糸】Lv11 →Lv12
【傀儡】Lv3 →Lv5
【クラウン】Lv3 →Lv7
【捕縛】Lv4
【料理】Lv4
(傀儡対象)
ネロ(猫のぬいぐるみ)
いつも読んで頂いている方、ありがとうございます。
初めて読んで頂いた方、楽しんで頂けたら嬉しいです。
ブックマーク・評価、ありがとうございます。
これでまた一週間頑張れそうです。