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145_真里姉と忠告

更新が久しく空き、申し訳ありませんでした。

後書きにていくつかご報告があります。


「ふぅ〜……」


 慣れない社交により気疲れした私は、ギルスとヴェルを伴い、宮殿から直接出られる砂浜へ向かった。


 靴を脱ぎ、波打ち際をゆっくりと歩く。


 耳に響く、心地よい潮騒。


 寄せては返す、足元の波。


 くすぐったさに、頭から余計な思考も(さら)われる。


「……」


 無言で歩き続けること、しばし。


 宮殿から届く光より、月明かりの方が眩しく感じるようになった頃、不意にギルスが私の前へ出た。


 その目は油断なく、進もうとしていた先の暗闇へと注がれている。


 するとまるで幽霊のように、見知らぬ男性の姿がぼうっと浮かび上がってきた。


 身長はギルス並みに高く、光沢のある黒い毛皮のコートを着ている。


 けれど何より目を引いたのは、右手で担いだ巨大な武器。


 こちらも黒いけれど、刃の部分は禍々しさを感じる暗褐色。


 最初は鎌かと思ったけれど、それにしては刃と刃元が分厚い。


 鎌じゃなく……斧?


 数キロではきかなそうな武器を担いでいるにも拘わらず、男性はぶれることなく立っている。


 鍛え方が根本的に違いそうなその男性は、刃に劣らぬ不吉な視線を向けてきた。


「まさかこんな小娘に負けるとは……あのクソ野郎、随分とやきが回ったな」


 不躾な言い方には、隠しようのない悪意が籠められている。


「だが、実際に力はあるようだ。なら邪魔になりそうな芽、大事の前に摘んどくか」


 一歩踏み出すと同時に放たれる、震えがくるような殺気。


 即座にギルスとヴェルが迎え撃とうとし、けれどそれよりも早く割って入る人が。


「……ジェイド、さん?」


「おう、嬢ちゃんにボロボロにされたおっさんだぞ」


「いや、ボロボロになんてしていないと思いますけど……」


 あれだけギルスの攻撃を躱しておきながら、どの口が言うのだろう。


 結果的に私達の勝ちとはなったけれど、内容的には負けたと思っているのに。


「貴様……ジェイド」


 私に向かい口にしたよりも、ずっと低く暗い声音で男性が言う。


「そう殺気立つなよ。今はゼノアからのお忍びで来ているんだろう、ユダス」


「俺の名を口にするな! この裏切り者が」


「裏切ったつもりはないんだが、分かり合えないっていうのは悲しいもんだ。なあ、嬢ちゃん」


「ここで私に振らないでください……」


 そもそも、私はこのユダスさんという人をまるで知らないのだから。


 ただどうにも引っかかるのは、ゼノアから来たと思われる人が皆、ジェイドさんを裏切り者と呼んでいることだ。


 本人は笑って聞いているけれど、そこに籠められた想いは決して軽くないと思う。


 真偽はともかく、ゼノアの人達にとってはそれだけのことをされたと、そう感じているのだろうから。


「お前さんと殺り合うのは構わんが、今は他にすべきことがあるだろう? 大事とやらに備えてな」


「ちっ、いずれこの斧で貴様を両断してくれる。その小娘共々な」


 えっ、巻き添え!?


 驚愕に目を見開く私と、その言葉に今にも襲い掛かろうとするギルス。


 ただ、その場に響いたジェイドさんの声に、全てが静止した。


「そいつは許さん」


 いつもの軽い感じではなく、有無を言わさぬ口調。


 戦いの場でも見たことがない、真剣な目付き。


 私があまりの豹変ぶりに戸惑っていると、ユダスさんは逆に少しだけ表情を緩めた。


「腑抜けたと思っていたが、マシな顔もできるじゃないか。それを腕でも証明してみせろ。でなければ、さっきの言葉は現実となる」


 そう言い残し、現れた時と同じようにユダスさんが暗闇の中へ消えていく。


 完全に気配が消えるまでじっとしていると、やがてジェイドさんが口を開いた。


 また元の口調だろうと思っていたけれど、しかしそうはならず。


「嬢ちゃんはもうこの国に関わるな。もし関わるなら、今後大きな決断を強いられることになる」


 そう言って私の頭を一撫でし、宮殿へ戻っていく。


 再び足に付けられていた、鎖を鳴らしながら。


 子供扱いされたと、嫌悪してもおかしくない。


 けれどなぜかその時は、不思議ともやもやとした暗い感情が起こらなかった……。


お読み頂き、応援頂いた皆様、ありがとうございます。

諸々整理がつき、今週から連載を開始します。半年分は予約投稿していますので、毎週水曜日12時にお届けいたします。


さて、本作の商業としての旅路は、一先ずここまでとなりました。お手に取って頂いた皆様、応援頂いた皆様には感謝しかありません。本当に、ありがとうございました。

コミカイライズは最終巻の3巻が、2023年1月7日に発売されます。よろしければ皆様にお迎え頂けたら幸いです。


最後に、今までこの物語に触れてくださった全ての方へ感謝を込め、私的にオーディオドラマを作成しました。

マリアの声は高橋李依様、音響制作会社はG-angle様です。

こちらをシナリオと共に、2022年12月22日〜24日の3夜連続でお届けします。時間は22時を予定しています。

お楽しみ頂けたら、幸いにございます。



 風雲 空

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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなくジェイドさん大切な人をどこかで失ってるんじゃないかと思う(こういった言動の人は過去の後悔が傷になってる人が多い)
[一言] 本当に間が開きましたがじっと再開を待ってましたよ。 書籍が三巻で刊行が止まってしまったのは残念です。
[一言] 更新有り難う御座います。 [”ユダ”ス]なのに(?)裏切られた方なのか?
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