表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/210

144_真里姉と沈む夜

コミカライズ第2巻、皆様のおかげで好評発売中です。

綾瀬様の書き下ろしが追加された表紙と、二巻の一部を追加でお披露目致します。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)


公式サイトはこちら。

<https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757580077/>


 ジェイドさんとの戦いが終わった、直後。


 戦いに勝った実感の無い中、テラスから拍手と共にベンさんの声が降ってきた。


「さすがはカルディアの英雄殿。見事な戦い、見事な勝利。ジェイドもまた剛の者と思っておりましたが、やはり格が違いますな」


 その前のやり取りを見聞きしているため、言葉を素直に受け取る気にはなれない。


 けれど、ジェイドさんを下したことは純粋に評価しているらしかった。


 こちらを見下ろす目に、(あざけ)りの色は見えないから。


「リベルタで過ごされる最後の夜、良いものを見せて頂いた礼も兼ね、盛大な夜会を催しましょう」


 ベンさんの言葉に、へレルさんとサハルさんが指示を出し、舞台の中へ豪奢な馬車が現れる。


 疲れたので可能なら直ぐに帰りたかったけれど、最後のお務めと思い私は気乗りしない足取りで馬車へ向かった……。



 私達を乗せた馬車は、悠然と走りリベルタの街中を下って行く。


 空気に混じる磯の香りから、どうやら海の方へ向かっているらしい。


 しばらくすると、砂浜の近くに丸みを帯びた白亜の宮殿が現れた。


 馬車を降り案内されて中へ入ると、柱に彫られた精緻な植物の(つた)が目に入った。


 驚いたことに蔦の先からは水が流れ、辺りを涼やかな空気で満たしている。


 そして落ちた水は柱の下に湛えられ、床に造られた蜘蛛の巣のように細い水路を巡っていた。


「土地柄を考えると、とても贅沢な水の使い方ですね」


「それだけの()()()()と、内外に示しているんだろう。金持ちや権力者のやりそうなことだ」


「言葉に棘があるわね、マレウスちゃん。まあ、あの戦いの後ではワタシも思うところがなきにしもあらずよ」


 そう言ってカンナさんが目を向けた先、俯いたままのルレットさんの姿が。


 正直、女鏖(じょうおう)モードのルレットさんがあそこまで一方的にあしらわれるとは思わなかった。


 何か声を掛けたいけれど、言葉が見付からない。


 知らず伸ばしていた手が宙を彷徨い、見えない壁に遮られるように、先へと進まず胸元へ戻った。


「不甲斐ないなあ……」


 友達だと言いながら、なんて無力なんだろう。


 項垂れていると、私の肩に手を乗せカンナさんが首を振った。


「時にはそっとしておくことも必要よ。近くに居るだけが優しさじゃないの。マリアちゃんなら、分かるわよね?」


「はい……」


 Mebiusの世界へ触れる前の自分を思い返せば、カンナさんの伝えたいことはよく分かる。


 向けられる優しさと、それに応えられない自分。


 葛藤の中、息をするのも心苦しかった日々。


 豪勢な食事が用意されている宮殿の広間から、一人背を向けてルレットさんが外へと向かう。


「……ルレットさん!」


 しかし、それでも私は叫んだ。


 叫ばずにはいられなかった。


 続く言葉を、持たぬままに……。


 ただ、言葉にならない想いは通じたようだった。


 ルレットさんの口端が、ほんの少し上がっていたから。


「大丈夫よ、ルレットちゃんなら。ところで……ワタシとしては、あっちも気になるのだけど?」


「あっち?」


 カンナさんが目を向けるそこには、宮殿の片隅で体育座りをして消沈する、グレアムさんがいた。


 その周囲は、教団の人達に囲まれている。


 あれは、気落ちしているグレアムさんを気遣って……。


「確かに、相手は強かったですけどね団長」


「啖呵切ってあれはどうなの、団長」


「教団としての示しがつかんでしょう、団長」


 訂正、吊し上げでした。


 しかも容赦がない。


 私だって、手にした勝ちの実態は負けに等しいものだった。


 けれどここで私が行き擁護したら、火に油を注ぎそうな気がする。


 結局心の中で応援するに留め、私はカルディアの使節の方と一緒に、リベルタの方々へ挨拶して回ることにした……。


お読み頂いている皆様、ありがとうございます。

また頂いたご感想、いつも楽しく拝見しております。

次の一話にて、本章の中編を終える予定です。

間に断章を挟みますが、そちらで色々とご報告したいと考えています。

引き続きのんびりと、お付き合いくださいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます コミカライズ版遠使ったパロディに笑わせて頂きました
[良い点] 代わりにギルス君に行ってもらおう(油からガソリンになりそうなことは考えないものとする)
[気になる点] 今回の話(144話)は個人的に、 風景描写や時間軸が、説明不足で分かりづらく感じる。 いろいろ情報が足りてないような気が。 ---(個人的な行動想定)--- 想定1:使節団がコ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ