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137_真里姉と調印式

3月19日発売予定の第三巻、Amazon様にて書影付き予約開始となりました。

後書きにして、少しだけおまけ情報公開です。


 水着の動画を巡る攻防(はいぼく)を経た、二日後の夜。


 Mebiusの世界にログインすると交渉は終わっており、後は調印式を残すだけになっていた。


 王様が派遣した使節の人に今後の予定を尋ねると、これから数時間後に調印式が行なわれるらしい。


 けれどその場所はリベルタを代表する場所という曖昧(あいまい)なもので、使節の人も困惑気味だった。


「商業国家で代表的な場所……銀行か?」


「相変わらず、マレウスちゃんは発想がモテないわね」


 残念を通り越し呆れた感じで、カンナさんが目を向ける。


「そこまで酷いか!?」


「カルディアと違い王政ではないようですしぃ、議事堂とかでしょうかぁ」

 

 もし合議制を取っているなら、おかしくはないね。


 国として成り立っていることを考えれば、何かしら立派な建物がありそうだし。


 そう思い、使節の人と一緒にリベルタ側が用意してくれた馬車に乗ること、しばらく。


 向かった場所にある建物は、確かに立派だった。


 ただしその方向性は予想の斜め上を行っており、一目見て皆が首を(かし)げている。


 切り出した石材を高く円形に積み、アーチ状の入り口を多く備える巨大な建造物、それは……。


闘技場(コロッセオ)?」


 剣闘士が互いに、或いは猛獣と戦う穏やかではない(もよお)される娯楽施設だったかな。


 正直、調印式を行う場に相応しいとは思えない。


 カルディアの使節の人も同じように感じたのか、リベルタの外交担当と(おぼ)しき人に詰め寄っている。


 そこに不穏な空気を感じたらしく、


「何かまた、ろくでもないことが起こりそうだな」


「マレウスちゃんの言う通りね。さすがに襲われるようなことはないでしょうけど、狙いはやはり」


「マリアさんでしょうねぇ」


「また私ですか!?」


 流れるように断言された。


 そんなことを言われたら、不安になるじゃないですか。


 国同士の遣り取りで、以前とても辛いことが起きた。


 あんな出来事、二度と起きて欲しくはないんですが……。


「大丈夫だ、マリアにはオレ達がいる」


「ピヨッ!」


 私の不安を払うように、ギルスが力強く(てのひら)に拳を打ちつけ、ヴェルが鋭い目付きで翼を広げる。


 ありがとう、二人共。


 もっとも、ヴェルは(つぶ)らな瞳を細めると(けわ)しさより眠いのかな? と思えて微笑(ほほえ)ましかったけれど。


「教祖様に危害が及ぶことなど、()()()許しません! どうかご安心を!!」


 言葉自体は頼もしいけれど、その目はギルスを凝視している。


「……」


「……」


 無言のまま続く、(にら)み合い。


 どうして、何かと張り合おうとするのかな?


 状況的には、不安を覚える私がいますよ??


 まあ、行動に移さず留まるようになったからマシになったと言えなくもないか。


 闘技場の正門で馬車を降り門を(くぐ)ると、純白の絨毯(じゅうたん)が真っ直ぐ延びていた。


 式典に使われる絨毯といえば、赤いイメージがある。


 けれどリベルタでは、高貴な色が白なのかもしれない。


 街中を見ても、より白い建物程造りが立派だったしね。


 その絨毯が向かう先、幅広のテーブルと人数分の椅子が置かれている。


 私達を迎えてくれたのは、それぞれ白、黒、灰色の服を(まと)った三人と、背後に控える護衛と思しき人達。


 逆に言えばそれだけしかおらず、この広い闘技場に観客の姿は見えない。


 本来大勢の人で(にぎ)わう場所なのに、こうも人気(ひとけ)が少ないと申し訳なさに似た罪悪感を覚える。


 席に着く前、ここまで案内してくれたリベルタの人が私達を紹介してくれた。


 それに(こた)えるように、白いガンドゥーラ風の服を着た初老のふくよかな体型の男の人が口を開く。


「遠路はるばる、ようこそおいでくださった。私はリベルタ代表、三商(さんしょう)が一人シャヘル・ベン」

 

「三商が、一人シャヘル・ヘレルですわ」


「同じく、シャヘル・サハルと申します」


 皆シャヘルさんなんだ……兄妹かな?


 ベンさんの次に挨拶してくれた人はアバヤのような、ガンドゥーラよりもゆったりとした黒い服を着ている。


 そんな服の上からでも分かる華奢(きゃしゃ)な体付きに、良く通る声音(こわね)


 中東で見られるような、女性の肌の露出が禁止されている訳ではないらしく、厚めの唇と切れ長の目が印象的の、エキゾチックな美人さんだった。 


 最後に挨拶してくれたのは、三十代後半くらいで中肉中背の男の人。


 前の二人の言葉には、王様のような威厳(いげん)を感じた。


 けれど、サハルさんの声は優しく穏やかだった。


「そちらがカルディア国王の代理、マリア殿か。あのレギオスの女帝に一泡吹かせたと聞いた時、これ程愛らしい方だとは思いませんでしたぞ」


「別に一泡吹かせたとかではないんですが……」


 直接戦った訳ではないし、私一人なら戦っても一瞬で倒されたはず。


 それなのに、ギルスと背後のグレアムさん達が『分かってるじゃないか』と言わんばかりに、腕組みして頷いている。


 リベルタを代表される方に、その上から目線な態度はどうだろう。


 (たしな)めるべきか迷っていたら、ルレットさんがギルスの足を踏み、カンナさんがグレアムの脇腹に肘鉄(ひじてつ)を食らわせていた。


 ギルスは『むっ、すまん』という程度だったけれど、グレアムさんは体がくの字に曲がっている。


 横からの衝撃でくの字になるって、一体どれだけの衝撃なんだろう。


 以前マレウスさんの失言に拳の雨を降らせたことといい、カンナさんは本当に聖職者系ジョブなのだろうか……。


 杖の代わりに、籠手(こて)やトンファーを持ち出しても違和感がない。


 一連の遣り取りを見て、どちらが不敬(ふけい)になるのかと疑念を抱く私をよそに、調印式は淡々と進められる。


 調印式で結ぶ条約や関税については、既にカルディアから来た使節の人達が調整済。


 今は最後の確認として、相手側へ渡す文章に問題がないか、互いに精読(せいどく)していた。


 確認が終わると、先ずは私の前にカルディア側が精読した条約の羊皮紙(ようひし)が置かれる。


 予め教えられた通り王様の名前を記載し、その下に私の名前と代理であることを(ただ)し書きする。


 本来羊皮紙に書いたインクは乾くまで時間が掛かるようだけれど、この世界ではあっという間に乾いた。


 乾いたそれを交換し、今度は互いに音読する。


 最終的に条文として自国に残る物であり、念には念をという感じだね。


 音読し問題ないことが分かると、リベルタ側の署名がされた羊皮紙に、私は同じように王様と自分の名前を記載した。


 互いに書き終え、代理として任されたお役目は無事果たせたことになる。


 後は握手して調印式は終了……のはずが。


 握手し終えたところで、私達は思わぬ提案を持ちかけられるのだった。


お読み頂き、感想、応援いている皆様。

また本作の精度をあげるべく、誤字指摘くださった方(今回は大量に頂き驚き共に感謝しかありません)

いつもありがとうございます。

毎回同じ言葉の繰り返しになっていますが、正直それ以外の想いがなく、そして伝えずにはいられません。


さて、三巻の発売までいよいよ一月を切りました。

実は今回、後書きにて1〜2巻にはない試みをしています。

それは私個人からお手に取って頂いた皆様へ感謝を籠めた、贈り物になります。

楽しんで頂けましたら、幸いにございます。


広がる病だけでなく、さらに不穏な状況が世界的に広がっている昨今。

皆様の心身の平穏を願いつつ、物語をお届けできたらと思っています。


引き続き、の〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んびりとお付き合いくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「「「さあ、この踊り子の服(サイズ特注)を着ていただこう! カルディア王の許可は得ている!」」」(でもきっとそんな話) [気になる点] 殴りヒラ……。 言わなくはないのだろうけど……。 […
[一言] 更新有り難う御座います。 ……そう言えば[造幣局]は桜が有名らしいですね? (経済=貨幣と言うイメージ)
[良い点] 調印式、無事終了すると良いなぁ(´▽`) [一言] なろうの某小説で物理と言うか防御特化のステータスの僧侶さんを『筋肉僧侶』と言うらしいですが、ある意味物理攻撃型な彼女も『筋肉僧侶』ですね…
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