133_真里姉と気ままなリベルタの散策
本日10月1日から、コミカライズの連載が開始されました!
スクウェアエニックス様 マンガUP!にて、早くもデイリーランキングに載っております。
【マンガUP! 公式ツイート】
https://twitter.com/mangaup_PR/status/1443584417449054208
担当頂いた綾瀬様には、感謝という言葉しか浮かびません。
そこで、今回は漫画として描かれた本作の一端を、前書きにてご紹介させて頂ければと思います。
【カラーカバー】
【モノクロキャラ紹介】
グレアムさん達から離れた私は、ギルスとヴェルと一緒に、街の散策を続けることにした。
さっきまで街の内側へ向かうよう進んでいたので、今度は逆の方向へ。
白一色の建物の間を、当てもなく曲がっては進み、進んでは曲がる。
カルディアから輸入された物を扱うお店は多く、ただ街の中心から離れる程に、手頃な値段の物が増えていた。
穀物、加工した野菜や肉に、日用雑貨品。
加えて、リベルタ周辺のモンスターの物と思われる素材と、それを扱った品々。
珍しくはあったけれど、さっき見た大和の商品に比べれば、質が数段劣っているように思う。
武具や防具も同様で、これならルレットさん達の作る物の方が優れている。
何しろ三人共、生産職のトップだしね。
……あの商人さん、ルレットさんとカンナさんの質問責めに、耐えられているかなあ。
それを切り抜けた後は、きっと価格交渉が待っていると思うので、気を確かに持ってくださいね。
お金ならあるとルレットさんは口にしていたけれど、言い値で買うとは、言っていませんから……。
心の中で頑張ってくださいと呟いてみたけれど、どちらに対しての言葉か、よく分からなかった。
散策を続け、次第に目にするようになったのは屋台。
エデンの街では粥や肉の串焼きを出す店が多かったけれど、こちらは海が近いせいか、魚介のスープ、魚を焼いてパンに挟んだ物を売っている店が多かった。
時折風に乗って届く、香辛料の香りが食欲をそそるね。
試しにスープを買ってみると、屋台のおじさんが手際よく器に入れ、さっと出してくれた。
匙で掬い口に運べば、複雑な旨味が広がる。
「魚の他に海老や貝も入っているのかな? いい出汁が出ているなあ。それにこのつみれ、美味しい!」
魚の擂り身で作られたつみれは、タイ料理を思わせる、刺激のある香りと辛さが加えられていた。
苦手な人もいそうだけれど、現実であまり刺激のある物が食べられない私には、凄く新鮮な味。
最後の一滴までスープを飲み干し、私は大満足で器を返した。
お腹も満いっぱいになり、元気良く歩いて色んな店を見て回る。
とても楽しく、時間が経つのも忘れ……そして気付いた。
「ここ、どこだろう?」
迷子になっていました……いや、まだ決め付けるには早いね。
一先ず、落ち着こう。
自分の立っている場所が、すこ〜し分からなくなっているだけなのだし。
仮に、仮に私が迷っていたとしても、今は頼れる家族が二人もいる。
「二人共、ここがどこか」
「心配無用だ、怪しい奴はここにいない」
「ピヨッ!」
「あっ、うん……」
ありがとう、とても頼りになるけれど、惜しい。
今頼りたかったのとは、ちょっと方向が違うんだ。
そして改めて周囲を見て……ダメだ、全く分からない。
はい、認めます、迷子になりました。
いい歳になって、はしゃいで迷子とか……恥ずかし過ぎて、このままログアウトしたい気分だよ。
がっくり頽れそうになっていると、ギルスが支えてくれた。
「ありがとう……ギルス?」
お礼の言葉に反応することなく、ギルスがどこかを険しい目で見詰めている。
視線の先には店があり、その軒先に、鎖で足を繋がれた人達が並んでいた。
しかも何か作業をしているわけではなく、ただ、立っている。
諦めの混じるその表情は一様に暗く、自らを物だと思い込もうとしているようにも見えた。
恐らく、奴隷を売り買いする店なんだろうね。
ヨシュアさんと出会い、多少なりとも奴隷に至る経緯を聞いた今、何かしたいと思うけれど、私にできることは限られている。
私が買って解放しても、その後、解放された人はどうやって生きるのか。
お金を渡せばしばらく凌げるだろうけれど、根本的な解決にはならないし、何よりあの諦めた目……多分、困惑するんじゃないかな。
MWOを知る前、リハビリの成果が出ず、生きる意味を見失い掛けていた私の経験で想像するのは、失礼なのかもしれない。
それでも想いを巡らせ、考えることを止めたら、現状を受け入れるのと同じになってしまう気がする。
葛藤しその場から動けないでいると、ギルスが突然、私の手を引いて歩き出した。
「もっと海を見たい……そう、ヴェルが言っている」
「ピヨッ!?」
明らかに『えっ、そんなこと言いました!?』という感じで、慌てるヴェル。
ヴェルに構わず、店に背を向けて歩き続ける、ギルス。
握られた手に、力は籠められていない。
振り解こうと思えば多分私にもできるし、止まってとお願いすれば、ギルスは止まってくれると思う。
だから、これはギルスの気遣いなんだと分かった。
後ろから見る無言の背中は、あまり背負い込むなと言っているようで。
私はぎゅっと手を握り、今はただ、甘えて付いていくことにした。
目にした光景は忘れないよう、心に留めながら……。
ギルスに連れられるまま歩き続け、私達はやがて、海に面した一画に出た。
そこは陸から延びる桟橋のような場所で、木材で簡素に造られている。
普段、住人の方が漁へ出るのに使っているのかもしれない。
実際いくつかの小舟が、縄で繋ぎ留められているしね。
規則正しい波の音に、目の前に広がる水平線。
穏やかな一時に浸り、気持ちが落ち着くと同時に、またしても気付いた。
「迷子、深まったよね……」
もはや、街中ですらない。
途方に暮れていると、不意に近くで声が上がった。
「くあぁっ、よく寝た。船で昼寝もおつなもんだな」
小舟の一つ、男の人が欠伸をしながら起き上がる。
歳は五十くらいかな?
刈り上げた深緑の髪に、整えられた顎髭を生やしている。
欠伸と共に出た涙を拭い、その目が私達を見て、驚いたように見開かれ……。
「こんな所で、何をしているんだ?」
むしろ私が言いたいことを、投げ掛けられたのだった。
いつもお読み頂き、応援、そして感想頂いている皆様、本当にありがとうございます。
前書きにも書きましたが、この度本作のコミカライズが連載開始となりました。
担当頂いた綾瀬様あってのことではありますが、そこまでに、本作を応援頂き、また書籍を手にとって頂いた皆様のおかげだと、私は思っています。
重ねて、ありがとうございました!!
さて、今回のお話は少しだけ補足を。それは今回のシーン、実は頂いたyuuさんの感想から着想を得て描いたものになります。「迷子になって呼び出されたら面白そうw」というお言葉で、ぴんときたのですよね。
楽しんで頂けたら、幸いにございます。
………
……
…
前にもやりましたが、後書きまでお付き合い頂いた皆様には、感謝を籠め、
二巻発売時に綾瀬様から頂いたイラストを。
「二巻発売おめでとう!」という言葉がございますが、皆様には、これを「二巻発売となり、ありがとうございました!!」という私の想いに読み替えて見て頂ければと、そう思っています。
……それにしても、何度見ても絵のクオリティが凄い!!