131_真里姉と雲行きが怪しい平穏
8月19日、第2巻発売が確定し、公式ブログにて書影公開されました!
マリア達の穏やかな雰囲気に溢れる、藻様の表紙絵。
よろしければ、ご覧くださいませ。(なお今話の一番最後にもリンクがありますので、そちらからも閲覧可能です)
http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/bunkoblog/?p=40283
離島でのんびりと過ごした、翌日。
私達は希望者を募り、リベルタ本島へ向かい街を散策することにした。
本島へ行くのは私とルレットさんにカンナさん、そしてグレアムさん達。
全員じゃないのは、引き続きゆっくりしたい人もいるからで……まあ、船酔いで転がっていたマレウスさんなんだけれど。
船に乗り最初に降り立った湾へ向かい、そこから陸に上がり内陸の方へ歩くと、やがて石造りの建物が見えてきた。
建材は石のようだけれど、その外壁は白く、青い空や海と鮮やかなコントラストを描いている。
これは地中海沿岸の建物のように、石灰を塗っているのかな?
白は光を反射するため、強い日差しによって室内の温度が上がるのを防いでくれるらしい。
異国情緒ある景色に心躍らせていると、進む先から活気のある声が聞こえてきた。
「大和の国から輸入されたばかりの逸品だ! 他じゃ手に入らないよ!!」
「レギオス産の火酒が入荷! 一口飲めば喉が焼け、二口飲めば胃に火が付き、三口飲めば体が燃える極上品!!」
それ程強いお酒だと言いたいのだろうけれど、売り文句が物騒過ぎないかなあ。
一体誰が買うんだろうと思っていたら、むしろそれが良いのか、お酒は飛ぶように売れていた。
教団の人も数名、明らかに惹かれており、次々と売れていく様子をハラハラと見詰めている。
護衛役ということで、買いに行くのを我慢しているみたいだね。
私は王様の代理として来ているけれど、それは建前。
そう考えれば、護衛という役に囚われず、自由にしてもらって構わないのに。
でも厳しい目で周囲を警戒するグレアムさんの手前、勝手するのは難しいか。
それなら……。
「ルレットさん」
「分かっていますぅ、お任せですよぉ」
詳しいことを伝えるまでもなく、ルレットさんは一人抜け出し、残り僅かになっていた火酒を買って来てくれた。
「あの言葉だけで、よく分かりましたね?」
驚きと共に嬉しくなってそう尋ねると、
「マリアさんの考えそうなことですからぁ」
と、素直に喜んでいいのか微妙な答えが返ってきた。
私ってそんなに分かり易いのかなあ。
でも、私もルレットさんの考えること、少しは分かるようになったんですよ?
私の意を汲んでくれたのとは別に、ルレットさんもお酒が欲しくて買いに行った、ということを。
ルレットさんが手にしていた火酒は三本だったはずなのに、私がお金を払い受け取ったのは二本だったからね。
まあ、美味しく飲む分にはいいと思う。
酔ってギルスや教団の人と、取っ組み合いを始めなければ……。
私は受け取った二本の内、一本は料理の際、火を付けて香りを移すフランベ用のリキュールを作るために仕舞った。
そして残った一本を、火酒が売り切れて落胆している教団の人に手渡す。
「教祖様?」
「物語で、結構ありますよね。道中、護衛してくれる人にお酒を振る舞う場面。街中なので、ちょっと場違いかもしれませんけれど」
「あっ、ありがとうございます!!」
素直に受け取ってもらえたあたり、よほど欲しかったんだろうね。
喜んでもらえて何よりと、そう気分良く終わる……はずが。
「まさかお前一人で飲むなんて、あり得ないよな?」
「教祖様が手ずから下賜された物だぞ。それだけでどれ程価値が上がったことか」
「全くだ。プレミアが付いたどころか、それはもはや別物。蒸留酒の語源からすれば、正に“命の水”と言えるだろう」
あの、言えませんからね?
「教祖様の属性を考えれば、むしろ“聖なる水”といった方が……ん? 聖なる、水……つまり略すとそれは!?」
ん? 略すとなんだろう??
「「「!!!」」」
騒然となる、教団の人達。
置いてけぼりの、私。
理由は分からないけれど、知らない方が幸せだと、私の直感が過去最大級の警告を発していた。
うん、ここ私も素直に従っておこう。
なお混沌とした状況は、カンナさんの『そんなに欲しければワタシのをあげるわよ』という謎の言葉により、落ち着いた。
謎の言葉が何を意味するのか、詮索するようなことはしませんとも、ええ、決して……。
更に奥の方へ進んでいくと、少しずつ上り勾配になっていった。
そして高い位置にある建物程、建材に使われている石自体が白くなり、立派な造りをしているように見える。
それだけではなく、並んでいる商店の品揃えもより高価な物を扱うようになっていた。
さっきまではリベルタを選んだ冒険者も見掛けたけれど、この辺りでは殆ど見ない。
実際、それだけの金額をする物ばかりで、MWOを始めた頃の私なら、うっかり壊して弁償、なんてことにならないよう、即座に回れ右していたに違いない。
もっとも今は、掲示板を介した料理の売り上げと、食事処での売り上げでだいぶゆとりがあるのだけれどね。
ただそれでも唸るくらい、良いお値段をしている。
並んでいる物には王都の物が多かったけれど、見たこともないモンスターの素材も並んでいた。
どれも相当な値段で、第二陣の冒険者が手を出せる物ではない。
中でも大和で作られたと思われる武具や防具には、びっくりするような値段が付いていた。
それに強い興味を示したのが、生産トップの二人。
「作り方が見当も付かない程、物としての質が高いなんて……それにこれだけの装備特性、やるわね」
「効果が高く未知の物も多いですよぉ。私達も負けていられませんねぇ」
どうやら二人の目から見ても、相当な物らしい。
私の知る中で、ルレットさん達以上の腕を持った職人さんはいないと思っていたけれど、上には上がいるらしい。
住人の方が作る物の中には、珍しい装備特性が付いていたり、特化した性能において二人でも及ばない物も少なくないとのこと。
闘志を燃やしじっくり眺める二人に、声を掛けに来たのは店主さん。
「いかがですか。そちらは長年交渉し、ようやく取引が許された物なのです。よろしければこの機会に」
最後まで言い終わらせず、
「これと同等な物、全部見せてちょうだい! あと素材もあるならそれもよ!!」
「お金はありますから心配要りませんよぉ!!」
勢いよく詰め寄られ、店主さんは笑顔は崩さず、けれど体は仰け反っていた。
これぞプロ根性と褒めるべきか、そのプロ相手をたじろがせる二人が凄いと思うべきか。
きっと両方なんだろうね。
そして店主さんは、これから質問攻めに遭うんだろうなあ。
私は店主さんにそっとエールを送り、二人には気が済んだら伝えてくれるようお願いし、散策を続けることにした。
「グレアムさん達も、気になるお店があったら覗いていいんですよ?」
「いえ、お気になさらず。私達の任務は、教祖様の護衛ですから!」
キリッといい笑顔で言ってくれるのは嬉しいけれど、声が大きくとても人目を集めている。
護衛する人が対象を目立たせてしまうのは、どうなのだろう。
若干どころでなく、本末転倒な気が……。
ちなみに、今の私はフードを被りちょっとした変装をしている。
日差しが強いせいか、同じような人も多く、浮いてはいないと思う……私は。
「いいか! 怪しい者を教祖様に近付けてはならんぞっ!!」
「「「りょうかいっ!!!」」」
繰り返すけれど、浮いてはいないと思う、少なくとも私個人は…………。
いつもお読み頂いている皆様、読んでる私まで楽しくなるような感想をくださっている皆様、ありがとうございます。
今回新たに11件の感想を、34人の方から有り難い評価を、そして十数人の方からお気に入りに登録頂けました。
本当にありがとうございます。
前回は誤字脱当等がなかったようで、密かに安堵いたしましたが、もし気になる点がありましたら、ご指摘のほど、よろしくお願い致します。
前書きでも触れましたが、この度第2巻の発売日が8月19日に決定し、公式ブログにて書影が公開されました。
サブタイトルに相応しい、のんびりとした雰囲気をご堪能くださいませ。(リンクは一番下に貼ってあります)
今回は電子版にのみ、特典SSが付きます。書籍版含め、Amazon様等、一部のサイトにて予約可能となっております。ご無理のない範囲で、お手に取って頂けたら幸いです。
またコミカライズの方は順調に進んでおりますので、こちらの情報はもう少し後に、お伝えできるかと思われます。
最後に、今回更新がかなり空いてしまったこと、申し訳ありませんでした。
まだ公にはお伝えできない事情により、しばらく新しいお話をアップできるのは月に1度か2度という状況が続きそうです。
引き続きのんびりと、お付き合い頂けましたら嬉しい限りにございます。