129_真里姉と水着といえばアレな海
前話で水着回を予告した後、コミカライズをご担当頂く綾瀬様からマリアの可愛らしい水着姿を描いた、
ファンアートを頂きました!(感涙)
後書きにて記載しておりますが、本文すっ飛ばしても構いませんので、よろしければ是非!!
航海が終わりを迎える頃、船の行く先に陸地が見えてきた。
その陸地は海が大きく入り込むような形で湾が形成され、何隻もの船が行き交っている。
ぶつかったりしないのかな? と心配していると、湾の奥から小型の船が来て先導してくれた。
おかげで私達の船は無事に着岸し、埠頭から投げ込まれたロープを掴んだ船員さんが、流されないよう船を固定している。
その後、出港した時と同じように幅の広い板が掛けられ、その上を歩いて船を降りると、一様に白い服を着た人達が整列していた。
白い服というと、ザグレウスさんの纏っていたトーガを思い出すけれど、こちらはより体型に沿っている。
中東の方が着る、ガンドゥーラという民族衣装に似ているかな?
ただ帽子はかぶらず、よく手入れされた黒髪を晒している。
「カルディアの皆様、ようこそリベルタへ」
胸の前で掌を私達に向けたまま重ね、軽く頭を下げられる。
「出迎え、感謝致します」
交渉のために王様が手配してくれた人が、同じ仕草を返す。
これがリベルタの正式な挨拶だと教わっていたので、私達もそれに倣った。
「長旅お疲れ様でした。公務が控えておりますが、まずはゆっくりと、旅の疲れを癒してください。皆様の滞在場所は、僭越ながら既に用意してありますので」
私達は船の上で海を眺めたり、お話をしていただけなので、正直そこまで疲れているわけではない。
けれどマレウスさんだけは力無く、しかし瞳に強い意思を籠め賛成の意を表していた。
あれからずっと、マレウスさんは船酔いに苦しめられ、海に向かって撒き餌を続けていたからなあ。
船がリベルタに着いて一番喜んだのは、きっとマレウスさんに違いない。
けれど滞在先が離島と聞いて、マレウスさんの顔が青ざめた。
離島、つまり移動は船なわけで。
マレウスさんの受難は続く……。
案内された離島には、木材をふんだんに使い造られた、立派な戸建ての建物が並んでいた。
東南アジアのリゾート地で見られる、ヴィラタイプの宿という感じで、木材の茶色と、植えられた草木の緑が品良く調和している。
「「「おおぉっ」」」
その光景に、マレウスさんを除く全員から感嘆の声が漏れる。
移動の途中に聞いた話だと、この離島はリベルタが国として所有しており、普通は立ち寄ることもできないらしい。
そして今、この離島にいるのは私達カルディアから来た人達だけ。
立派な宿というだけでも気後れしそうなのに、加えて離島の貸切……あまりの待遇に目眩を覚える。
宿は数人で使うことになり、私はルレットさんと二人で使うことになった。
正確にはギルスとヴェルもいるので、四人だけれどね。
室内は天井が高く解放感があり、飾られた色取り取りの花や絵画、彫刻が豪華な空間を演出していた。
部屋の真ん中には天蓋付きの広いベッドが置かれ、私の体の大きさなら五人くらい余裕で寝られそうだった。
……それくらいベッドが大きいだけだからね?
私の体が小さいことを強調したわけじゃないからね??
荷物はアイテムボックスに入っており、片付けの必要はない。
さて、これから何をしたらいいのかな……。
そう思っていると、おもむろにルレットさんが扉に鍵をかけ、さっとカーテンを閉めた。
窓から差し込んでいた光が遮られ、薄暗くなる室内。
その時、狭まる光の中でルレットさんの眼鏡が妖しく光ったように見えた。
カーテンを閉め終え、何かを手にし、ゆっくりと近付いて来るルレットさん。
不意に走る、悪寒。
「あの、ルレットさん……?」
無意識に後退りながら問い掛ける私に、しかしルレットさんは答えない。
ただならぬ様子にギルスが間に入ってくれたけれど、ルレットさんはなおも歩み続け、止めようとしたギルスの腕を掻い潜り懐に入ると、その耳元で何かを囁いた。
瞬間、“ボンッ”と音がしそうな感じでギルスの首から上が真っ赤になり、そのまま動かなくなってしまった。
「ギルス!?」
「ピヨヨッ!?」
ヴェルも驚き、小さな翼でギルスの頬をぺちぺち叩くけれど、一向に反応が無い。
困惑していると、ルレットさんは既に私との距離を詰め終えていた。
掴まれる、両手。
「ま〜り〜あ〜さ〜ん」
「な、なんでございましょう?」
混乱に拍車が掛かり、バイトで習った言葉遣いが出てしまった。
ルレットさんの口角が、穏やかに微笑むいつもの高さから、女鏖モードの時に見た高さまで上がっていく。
「せっかく海に来たのですからぁ、おきがえ、しましょうねぇ?」
私は咄嗟に脱出を試みた。
高めの器用さが今こそ本領を発揮し、縄抜けのようにするりと! ……いかなかった。
実にあっさりと、ルレットさんの力の前に敗北。
そしてルレットさんの両手からは、“逃がさない”という強い意志のようなものが感じられた。
ああ、これは抵抗しても無駄なやつだね。
すぐ諦めと共に悟った私は、切り替えスキルに磨きがかかったと思う……望んだわけではないけれど。
その後、ちょっと口にはできないあれこれを経て、私の着替えは終了。
ギルスが私に背を向けてくれていたことだけが、唯一の救いだった……。
部屋から一歩外へ足を踏み出せば、そこはもう砂浜。
空には太陽が輝き、照り付ける日差しがとても眩しい。
気温は高いけれど、海から吹く風は湿気が少なく、思いのほか涼しかった。
日陰にいて風を受けていると、肌寒く感じるくらいに。
そう言葉にできるのも、私がヤシの木陰に隠れ、ずっと日差しの中に出ていないからだ。
それもこれも……。
「ほらマリアちゃん。いつまでもそんな所に隠れていないで、早く出ていらっしゃい」
降り注ぐ陽の光の下、カンナさんが手招きをしている。
カンナさんはワンピースタイプの水着に、腰のあたりでパレオを巻いていた。
風を受けひらひらと揺れるパレオは大人の雰囲気を醸し出しているけれど、その色が凄い。
水着もパレオも蛍光ピンクで、直視するには目が痛い……決して、痛々しいという意味ではないので、勘違いしてはいけないよ?
「でも、こんな姿を晒すなんて……」
「大丈夫ですよぉ。この状況においてぇ、マリアさんよりその水着が似合う方はおりませんからぁ」
ヤシの実のジュースを片手に、ビーチチェアに横たわったルレットさんが笑顔で言ってくる。
そんなルレットさんは、緑色のビキニを着ていた。
その布地面積は大胆に狭められ、伸びやかな手足と、メリハリのある体を惜し気も無く晒している。
胸の谷間は深く、同性の私でもじっと見てしまう程だった。
一方の私は、自分の胸の辺りから下へ目を向けると、遮るモノは何もなく、足先まで視界は良好。
ある意味深いのかもしれないけれど、谷間というより崖として深いところが致命的に違うところ。
世の中、スレンダーという表現があることは知っている。
ただ私の場合、色気の無さといい、体の大きさといい、幼児体型の一言に尽きると思う。
ぐっ、自分で言ってダメージが……。
でもでも、それは少なからず自覚していたことだから、まだいいんだ。
ただね? どうして用意された水着が紺色で、上半身をぴったりと覆うタイプなのかな??
いやもう、この際濁さずにはっきり言おう。
「なんでスクール水着? しかも何年前のやつですか!?」
おまけに胸の辺りには白地の布が縫い付けられ、黒く太い字で“まりあ”と書かれていた。
“マリア”ではなく“まりあ”であることに、妙なこだわりを感じるのは気のせいだろうか。
肌を露出するだけでも恥ずかしいのに、これはどんな虐めだろう……。
助けを求めようにも、マレウスさんは日陰に運ばれたまま、競りにかけられるマグロみたいに、ゴロンと転がったままピクリとも動かない。
ギルスは私の側にいるけれど、必死に私の方を見ないようにしている。
ちなみに、首から上は赤いままだ。
では護衛として来たはずのグレアムさん達はというと……。
「教祖様の水着姿……しかもスク水、だと!?」
「名前の部分は雑に手書きしたように見えて、実はあれ、ああいう風に見えるよう作り込まれているんだぜ」
「なんという再現度だ。しかも片仮名ではなく平仮名な点。分かっていると賛辞を贈りたい!」
「目が、目が! 幸せで潰れる!!」
「素晴らし過ぎる! 俺達の幸せは、確かにここにあったんだ!!」
滝のような涙を流し、叫んでいた。
感動しているのは分かるけれど、欠片も理解したいと思えない私を、誰が責められるだろう……。
そんな光景にくらりとしながら、水着に書かれた名前に触れると、確かに凹凸が感じられた。
よく見れば黒い糸で隙間無く丁寧に、けれど文字としては拙く見えるよう細心の注意を払って刺繍されている。
こんな技術の無駄遣いをする人は……。
ビーチチェアの方に目を向けると、ルレットさんが良い仕事をしたと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべていた。
着替えさせられた時点で、薄々勘づいていましたけれどね?
たくさんの装備特性が付いていたし、何よりサイズがぴったりだったから。
けれど、私はこう言っていいと思うんだ。
ルレットさん、あなたもですか、と。
あれ? なんだか今の言葉、凄い既視感が…………。
*** 綾瀬様が描いたマリアの水着姿ファンアート ***
公式FAN BOXにて書籍記念イラストやラフ画もありますので、よければぜひ!
https://ydc01ltd.fanbox.cc/posts/2248854
さて、いつもお読み頂いている皆様、想いの丈を感想として綴ってくださっている皆様、ありがとうございます。
今回新たに13件の感想を、33人の方から有り難い評価を、そして数百人の方からお気に入りに登録頂けました。
また誤字の訂正を2件頂き、修正致しました。毎度のことではありますが、本当にありがとうございます!
これからも気になる点がありましたら、ご指摘の程よろしくお願い致します。
前書きにも少し触れましたが、前話で予告した通り、今回は「水着回」となりました。
ええ、誰が何と言おうと水着回なのです……正確には水着姿が登場した回、ですが。
水着姿で楽しく遊ぶお話は、次話になります。
はい、文字数が超過したという、いつものあれですね。
さてさて、普段ならここで皆様への一言を添え終わるところですが、普段後書きまで読んでくださっている方向けに、今話に関わる番外編を後書きにて記載します。また綾瀬様のファンアート(縮小していない版)も掲載します。
日頃の感謝を籠めまして、お楽しみ頂けたら幸いです。
*** アレな水着が生まれた経緯(ルレット目線) *********
「リベルタに行くなら、やっぱり水着は必須よね! ルレットちゃん、ワタシの水着を作ってもらえないかしら?」
ログアウトすべくホームの二階へ向かう途中、カンナからそう声をかけられた。
「構いませんよぉ。私も新調しようと思っていたところですしぃ」
「デザインは任せるわ。ルレットちゃんのセンスに、間違いはないもの。ただ色はピンクで、目が覚めるようなのでお願いね!!」
「はぁ……」
デザインを信頼してくれるのは嬉しいけど、カンナにピンク。
しかも感じからすると、どピンク。
一瞬他の色を提案しようとして、やめた。
本人が強く望んでいるのだから、それを止めるのは野暮というものだろう。
「そうだ! ワタシ達が水着を作るなら、マリアちゃんにも作ってあげましょうよ!!」
「それは良い考えですねぇ」
マリアさんは、あまり自分の物を買ったりしない。
特に実用的ではない物は尚更で、水着自体を持っていない可能性は十分にあり得る。
「どんな水着がいいでしょうねぇ。やはり可愛い感じでしょうかぁ」
以前、生産の合間の気分転換に描いていた水着のデザインを、スケッチブックを取り出し見せる。
実はこれ、最初は水着だけを描くつもりだったのだけど、それを着たマリアさんの反応が脳裏に浮かび、気付けばかなり描き込んでいたものだ。
でもその分、マリアさんの描写も含め我ながら良くできていると思っている。
「可愛いわね! でもせっかくなら、マリアちゃんにしか着こなせない物がよくないかしら?」
「と言うとぉ?」
カンナの言うマリアさんしか、という点を上手く解釈できずにいると、
「ずばり、スクール水着ね!」
力強く断言された。
スクール水着……学校指定の水着、という至極真っ当な意味ではないのだろう。
何しろ、今時学校が特定の水着を指定することはないからだ。
つまりカンナが言うスクール水着とは、コスプレ等で見る、古いタイプの、けれど一部の人が未だ並々ならぬ熱意を持っている水着のことを指しているに違いない。
デザインも色も瞬時に浮かんだけど…………うん、やばい。
何がやばいって、カンナの言葉を否定できない程、マリアさんにスクール水着はハマる、ハマり過ぎると言っても過言ではない。
ただ、これではマリアさんの求める大人っぽさとは真逆に……。
「ルレットちゃん。ワタシ達創り手は、誰が何と言おうと、創らざるを得ない時があるものよ」
まるで私の葛藤を見通していたかのように、カンナの悪魔めいた囁きが。
カンナはその後も、スクール水着とマリアさんの相性について持論を展開し続けた。
途中『できれば王様にもぴちっとした紺色の短パンを』と言っていた気がしたけど、華麗にスルー。
そして気が付けば、私は顧客の希望に寄り添うというスタイルを曲げて、マリアさん用のスクール水着を作っていた。
ごめんない、マリアさん。
でも似合うのは間違いないんです。
そう心の中で謝りながらも、スクール水着を作る手はこれまで以上に早く、繊細に動いていた……。
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