125_真里姉と自分で蒔いていたフラグ(後編)
【お知らせです】
この度、本作のコミカライズが正式に確定しました!
配信はスクウェア・エニックス様のマンガUP!にて、秋頃に配信開始予定です。
コミカライズを担当頂くのは、綾瀬様!!
小説版の本作は4月19日(月)発売ですが、第1巻の発売に伴いPVが公開されました。
ナレーションはプリキュアにも出られている声優、河野 ひより様です!
後書きの下の方に、綾瀬様のツイッターの宛先と一緒にリンクを貼ってありますので、
宜しければご覧ください!! また、リツイートキャンペーンで河野様のサイン色紙もあたるようですよ。
「しばしの間、リベルタへ行ってみぬか」
王様からの、唐突な提案。
「リベルタですか?」
確か大和の商品を扱う人が所属している、海に囲まれた商業主体の国だったかな。
その首都は海都と呼ばれ、カルディアとは船で行き来していると、以前聞いたことがある。
「リベルタとは古くから貿易を行い、定期的に関税や扱う品を見直し、それを反映した上で契約を更新しておる。調印の場は、両国が交互に設けることが慣わし。今回はリベルタが主催であり、その時期も近い。しかし先のレギオスとの一件がまだ尾を引いておってな、余が出向くにわけにもいかぬのだ。そこでお主らに、余の代理としてリベルタへ向かってもらいたい」
「代理とはいえ、重要な役だろう……務まるのか?」
マレウスさんの言葉に、私は全力で首を横に振った。
項垂れたり横に動いたり、今日の私の首は忙しい。
そんな大それた役、私には荷が重いどころの話じゃないからね。
「代理といっても、余の書状を相手に手渡すだけでよいのだ。交渉ごとは別の者が担う故、心配要らぬぞ。普段の交渉ならそれ程長く掛かることも無いが、最近ちと気になるモノが、余の国で見受けられるのでな、少し長引くやもしれん。だが案ずることは無い。その間、お主らには何不自由の無い日々を約束するぞ」
「それなら、尚更私達でなくても……」
「マリアちゃん、ここは有り難く受けておいた方が良いわよ」
「カンナさん?」
王様が側にいるのに暴走することも無く、その口調はむしろ穏やかだった。
「これは王様からの気遣いなの。しばらく他国でゆっくりしてこいと、ヨシュアちゃんのことも釘を刺しておく、というね」
「王様……」
カンナさんに言われ改めて王様を見ると、肩を竦めながらも否定はしなかった。
「マリアよ、お主も余の民の一人であることに違いは無い。不甲斐ない王ではあるが、このような時くらい、王らしいことをさせてはくれぬか」
そう言って、王様が小さく笑う。
私は頭を下げ、有り難くその厚意を受けることにした。
その後、お城から騎士の方々が来てくれて、ホーム前の騒ぎはひとまず治った。
私達が旅立っても巡回してくれるらしいので、隣の教会を含めひとまず安心かな。
ホームの一階はカスレの作り置きが無くなり次第、思い切って閉めることにした。
その間、レイティアさんとライルもお休み。
もちろん、有給でね。
ただでさえお世話になりっぱなしだから、二人で楽しめるよう、日頃の感謝を込めてボーナスも出すことにした。
最初は受け取ろうとしなかったレイティアさんだけれど、
「第二の街の人達へ、カボチャのケーキでも」
と言って渡したら、凄く驚いていた。
第二の街から王都に移り住んだ人達に、レイティアさんが声掛けしていることを教えてくれたのは、カスレの常連客であるシモンさん。
以前ライルと出会った時、私達冒険者に傷つけられたレイティアさんは、高価なポーションか魔法でしか治せない、酷い怪我を負っていた。
私が念のため持っていたそれを渡した時、ライルは言っていたんだよね、『誰も助けてくれなかったのに』って。
それなのに、レイティアさんは第二の街の人のために動いている。
本当に、強い人だと思う。
だから、これは私からの応援。
私では……私達ではできないことを、レイティアさんは行っているのだから。
それに比べれば、私がカボチャのケーキを食べる機会がまた遠退くなんて大したことは無い……うん、無いったら無い。
半ば強引にお金を受け取ってもらうと、レイティアさんは深く頭を下げ、そしてこう言ってくれた。
「ありがとうございます、マリアさん。代わりじゃないですけど、いつでもカスレが作れるよう、準備しておきますね。さっきの騒ぎのせいで、大和の調味料を扱う商人さんと、仕入れについてのお勉強もできていませんし」
そう言って、レイティアさんは強かな笑みを見せた。
うん、やっぱり色んな意味で強い人だね、レイティアさんは。
安堵していたかもしれない商人さん、ごめんなさい。
やっぱりレイティアさんからは、逃げられないようですよ?
炊き出しは、教会に行って必要な材料やお金をエステルさんに預け、私が不在の間お願いすることにした。
最初『本来それは私達の勤めです』と受け取るのを断られたけれど、これは私が勝手にやっていることだからね。
レイティアさんと同じく半ば強引に受け取ってもらい、それから今度は私が付け加えた。
「それに、これを頼めるのはエステルさんしかいませんから」
王様に頼んでしまうと、お金を受け取ってもらえないだろうし。
何より、意味合いが違ってしまうと思うんだ。
あの王様なら『やはり国として行うべき』とか言い出して、大事になりそう。
そんな確度の高い予想に遠い目をしそうになっていると、ふと見ればエステルさんが『私にしか、私にしか……』と呟きながら、頬を気持ち赤く染め、瞳を潤ませていた。
おやぁ、この反応はどういうことかな?
「マリア姉様からのお願い、この私がしかと承りました。全てお任せください」
片膝をついて首を垂れるエステルさんに、なぜか参列していた人たちも一斉にその場で同じ所作をした。
「ちょっ、エステルさん!? 皆さんも頭を上げてください!!」
結局その場が収まったのは、三十分も後のこと。
どっと疲れた気がするけれど、私とエステルさんの遣り取りを聞き、エステルさんを手伝いたいという人が出てくれたのは助かった。
私はスキルがあるから楽だけど、無いと大変だろうしね。
ちなみにその日、教会への寄付金はいつもよりぐっと多かったらしい。
具体的な金額は聞かないようにした。
聞いてはいけないと、私の心が囁いていたからだ。
ありがとう、でもどうせならそういう事態になる前に囁いて欲しかったなあ……。
リベルタへは、王都の南東にある港街から船で向かうことになった。
向かうのは王様の選んだ人達に、私達とその護衛役としてグレアムさん達。
この目で見たことのない海に想いを馳せ、私は密かにワクワクしていたのだけれど、その様子をばっちり周囲に見られ、物凄く微笑ましそうな顔をされていた。
密かにという部分があっけなく破綻しただけならまだしも、この気恥ずかしい気持ちを、どうしたらいいのだろう……。
しかし、そんな気持ちも吹き飛ぶ遣り取りが、私の耳に届いた。
「海を楽しみになさる教祖様……萌える」
「ああ、これはしっかりと護衛せねば」
「そうだな。何しろ舞台は海。海で着る物といえば……」
「各自、データを保存する容量は限界まで空けておくように! 予備としてクラウド上にも確保だっ!!」
「「「はいっ!!!」」」
この旅、大丈夫だろうか……色んな意味で…………。
前書きにも書きましたが、本作小説として発売される前にコミカライズ確定となりました。
またPVも作成頂き、公開されています。
ここまで物語として広がることができたのは、ひとえに読んで頂いた皆様、感想頂いた皆様(よく頂いている方はお名前把握していますからね、ええ、貴方様ですよ)のおかげです。
これから先、どこまでいけるかは分かりませんが、これからも皆様に楽しんで頂けるよう、一話一話、丁寧に紡いでいこうと思うのです。最後に、万感の想いを籠め、改めて。
「本当に、ありがとうございました!!」
……最終回みたいな感じになってしまいましたね。
続きますよ、ちゃんと、ええ。