124_真里姉と自分で蒔いていたフラグ(中編)
レイティアさんに連れられホームの中へ戻ると、騒ぎを聞いたギルスが、ヴェルを肩に乗せたまま駆け付けてくれた。
慌てた様子の二人だったけれど、簡単に状況を説明し、ひとまず落ち着いてくれるかと思いきや……。
「マリアは見せ物では無いのだぞ、馬鹿共がっ!!」
「ピヨッッ!!」
荒ぶっていた。
私が【モイラの加護糸】から【供儡】に切り替えないと、自らの意思で突撃しそうなくらい、荒ぶっていた。
しかもヴェルまでやる気を漲らせ、ギルスの肩で翼をパタパタしている。
本人的には“バッサバッサッ”と音を立て、怒りを表しているつもりなのだろうけれど、明らかに可愛い……じゃなくて。
どうしてヴェルは、これ程好戦的になってしまったのだろう。
……あっ、屋上で私とネロと空牙の、かなり盛られた活躍を聞いたからか。
ギルスと一緒に『やっつけてやる!』という強い意思を抱いているのを、ひしひしと感じる。
うんうん、その想いは嬉しいよ。
ただ、少し落ち着こうね?
指先で頭を撫でる私に『なにをするんだ!?』と言いたげな顔を向けてきたけれど、気持ち良さに負け、すぐ目を細くしてしまう。
ネロなら、きっとゴロゴロ鳴いているところだ。
小さい子はこれでいいとして、問題は大きい子。
スキルを切り替えたこともあり、なんとかじっとしてくれているけれど、もしグレアムさん達を押し退け彼等が入って来たら、私はギルスを抑えきれる自信が無い。
そのくらい、ギルスの想いも理解しているつもりだからね。
ただ、そんな私の心配は杞憂に終わった。
「いけませんよぉ。一番心を痛めているのはマリアさんなんですからぁ、落ち着きましょうねぇ」
救世主が、ポンとギルスの肩に手を置く。
「しかしっ!」
「お・ち・つ・け ましょうねぇ?」
少しだけ眼鏡を外し、ルレットさんが言う。
「……」
「……」
あまりの迫力に、思わず私まで沈黙。
その言葉には、かつてイベントで聞いたカンナさんの地声に通じる凄みがあった。
いや、あれ以上かな?
ギルスの肩の上で、ヴェルが目を見開いたまま固まっているし。
ついでに言うと、ルレットさんが置いた手の下で、ギルスの体から“ミシミシッ”という不穏な音が聞こえたような気もする。
「ほらほら、そんなにギルスちゃんを怖がらせてはダメよ」
「まったくだ、お前が一番落ち着け」
続いて現れたカンナさんが嗜め、マレウスさんが指先で押し込むようにして、ルレットさんの外れかけた眼鏡を戻す。
「ここじゃ落ち着いて話もできねえ。情報共有も兼ねて、ちょっと場所を変えるぞ」
おお、マレウスさんが頼もしい!
……という風に感じてしまった私は、すっかり周りの人に染められたのだろうか。
私達が場所を移したのは、ホームの一階にある小部屋。
なぜこの部屋なのか疑問に思ったけれど、それはレイティアさんが説明してくれた。
「国王陛下が度々来られるということで、お城の魔道士様がこの小部屋に厳重な結界を張られていきました。マリアさんが認めた人以外は入れず、その強度は城壁に匹敵するとかなんとか……」
遠い目をして言う、レイティアさん。
聞いている私も、思わず遠くを見詰めてしまった。
しかし王様、ここは一応私達のホームだということを、忘れているんじゃないかな?
この部屋に続く地下通路を作られている時点で、今更だけれど。
というより、お城から来た人も王様の命令に従っている場合じゃ無いと思う。
だって、王様の脱走を自ら手助けしているのと同じ……。
そこで私は、真実に辿り着いた。
…………諦めちゃったんだね。
だから私も、この件についてこれ以上考えるのは諦めることにした。
王様によって豪奢に設えられた小部屋に移り、さてこれから話し合いというところで、レイティアさんは一人カウンターの方へ戻って行った。
念のため、ここにいてはと勧めたのだけれど、
「もし無遠慮な方々が入って来るようなら、沢山買って頂けるよう準備しておかないといけませんから」
微笑みを浮かべ、平然と言い切るレイティアさん。
あれは失礼なお客さん相手に、ギリギリまで搾り取る時の顔だ……。
今のところ、あの微笑みを受けてお財布が軽くならずに済んだ人を、私は知らない。
逞し過ぎるレイティアさんの背中を見送っていると、カンナさんが生産連盟から数人呼んでいると耳打ちしてくれて、私はひとまず安心することにした。
「情報共有と言ったが、今起きていることは何も難しいことじゃねえ」
椅子に座り、マレウスさんが口を開く。
「PVの影響が表れた、それだけだ」
「やっぱり……」
自分で蒔いていたフラグとはいえ、意識の彼方に飛ばしていたことをはっきりと突き付けられ、私はがっくりと項垂れた。
「二陣でカルディアを選んだ方は多かったようですからねぇ。というよりぃ、多過ぎて規制がかかったとかなんとかぁ」
「規制!?」
一体どれだけの……ううん、ダメダメ、考えちゃダメ。
項垂れた首が、戻らなくなっちゃうからね。
「二陣ちゃん達もしばらくエデンにいたけど、レベルが上がってようやく来られるにようになったってところね。そのピークが今……だと良いわね」
「そこはもうピークだと言い切ってくださいよ、カンナさん!」
「PVの再生数が恐ろしいことになっていたからな。有名税と思って諦めろ」
「有名税って……あれはPVの出来がいいのであって、なにも私に会いに来る必要は無いと思うんですが」
言った瞬間、マレウスさんとカンナさんは溜息を吐き、ルレットさんは苦笑していた。
なぜそんな反応が返ってくるのだろう。
私と会ったからといって、特に楽しいことも無いと思うのだけれど……。
「お前は自分の影響力をもっと自覚しろ」
「ワタシもマレウスちゃんの指摘に同意ね」
「マリアさんはSNSをやっていないでしょうけれどぉ、もしやっていたらぁ、今頃とんでもないことになっていましたよぉ」
ちなみにルレットさんの思う“とんでもないこと”を聞いたら、本当にとんでもなかった。
具体的には、予想される膨大なフォロワーさんの数、話題にされる件数、その内容……。
うん、私はやっていなくて本当に良かった。
「ある意味やっていないからこそ、こうして押し掛けられている気もするけどな。しかし今でこの騒ぎか……落ち着くのか、これ?」
「……」
「……」
「あのルレットさん、カンナさん? そこは何か言ってくれないと、物凄く不安なんですが……」
こういう時、どんな対処をしたら良いのだろう。
ログインせず、ほとぼりが冷めるのを待つ?
でも、それにはどのくらい掛かるのか。
なまじ、相手が現実の人だけに困る。
これが住人の方だったなら、それこそ王様の鶴の一声でなんとかなるかもしれないけれど……。
その時私は、無意識にさらなるフラグを立てていたことに気付かなかった。
「話は聞かせてもらったぞ!」
どこからともなく、覇気のある声が響いてくる。
「こっ、この声はまさかっ!?」
いやカンナさん、明らかに誰か分かっていますよね?
声の感じといい、ここに居ないのに声がしてくる人といえば……。
部屋の隅に目を向けると、そこには何度も使われたせいか、毛足がくたびれ使用感が出ている絨毯が。
「そんな困っているお主らに、余からとっておきの提案がある」
この流れ、ヨシュアさんの時にもあったなあ。
そんな既視感に苛まれている私の前で、絨毯の下、もはや隠し切れていない扉を勢い良く開け、王様が現れた。
どこか得意気な王様の表情を見ると、気に入ったんだろうね、タイミングを含めて。
私が不用意に立てた二つのフラグは、王様の登場とその提案により、思いがけず回収されることになるのだった……。
いつもお読み頂いている皆様、個性ある感想と言う名の作品をくださっている皆様、ありがとうございます。
なお、活動板ではスピンオフ的な物語の連鎖が生まれ、非常にカオス……楽しいことになっています。
もし、ご興味ある方は、ぜひ一度覗いてみてください。私の求めるもう一つの世界が、そこにあります。
今回新たに11件の感想を、9人の方から有り難い評価を、そしてお気に入りに登録頂けました。
また誤字脱字の訂正を1件頂き、反映致しております。本当にありがとうございます!!
これからも誤字脱字等、気になる点がありましたらご指摘の程、よろしくお願い致します。
更新遅くなり気味ですが、まだ情報をオープンにできないこともあり、ご容赦頂けると幸いです。
ただ、次話アップ時には書籍化について新しい情報をお届けできると思っています。
引き続きのんびりと、お付き合いくださいませ。




