119_真里姉と過保護? なレベル上げ(中編)
休憩を入れグレアムさん達の回復を待った後、“大魔の樹海”でようやくレベル上げを行うことになった。
戦うことが久しぶりで緊張したけれど、私の肩の上で円な瞳を細め勇ましく身を乗り出すヴェルの姿が微笑ましく、余分な力が抜けていく。
ヴェルにみっともない姿は見せられないからね、頑張ろう。
念のため最初はいつもの三人と一緒にパーティーを組んで戦い、問題がなければ効率的なレベル上げのため、私とギルスとヴェルだけで戦うことになっている。
その間グレアムさん達はPKを警戒し、過剰にモンスターが来ないよう調整してくれるらしい。
とてもありがたく信用もしているのだけれど、道中の行いのせいで色々と台無しですよ?
そのせいか、私が口にしたお礼は若干棒読みになっていた気がする。
「教祖様!」
と、そんなことを思っている間にモンスターが一体、こちらに近付いてきた。
丸太のような棍棒を手に持ち、筋肉質で厚みのある体を緑色の皮膚で覆ったモンスターの名前は、オーク。
見るからに力がありそうで、私が攻撃を受けたら吹き飛ぶのか、もしくは爆ぜるのではないだろうか。
「壁役は俺がやる。カンナは支援、攻撃はマリア達。ルレットはひとまず様子見だ」
テキパキと指示を出すマレウスさん。
普段は作業着だけれど、今は頑丈そうな金属製の鎧を身につけ剣と盾を手にしている。
そういえば、マレウスさんって騎士系のジョブだったっけ……わ、忘れていた訳じゃないよ?
弄られっぷりが板に付いて、私よりある意味道化師しているなあなんて、思っていないんだからね??
前に出たマレウスさんが左手で盾を構えると、オークが手にした棍棒を勢い良く振り下ろした。
盾と棍棒がぶつかり、甲高くも鈍い大きな音が鳴り響く。
驚きを露わにしたのはオークの方で、マレウスさんは微動だにせずその場で受け止めていた。
さらに右手に持った剣で攻撃し、ダメージを与えながらオークの注意を引きつける。
凄い、マレウスさんが本当に騎士っぽい。
「ボサッとしてんな! さっさと攻撃しろ」
マレウスさんの言葉にはっとした私は、ギルスに向けていた【モイラの加護糸】を【供儡】と【纏操】に切り替えた。
即座にギルスが【魂の継承】を発動し、ステータス的に万全な状態になったのを確認すると、軽い助走から一気にオークの懐に潜り込み、左の拳を振り抜いた。
その拳はマレウスさんに注意が向いていたオークの顎を下から捉え、“パンッ”という破裂音と共に消し飛ばす。
頭部を失ったオークは仰向けに倒れるのと同時に、その体も光の粒子となって消えた。
「うわぁ……」
帝国の冒険者を圧倒したギルスだからこの結果も予想していたけれど、改めて目にするとやっぱり驚くね。
目だけをこちらに向けるギルスに、私が胸の前で小さく拍手を送ると、誇らしそうに口の端を上げていた。
「マリアから聞いていたが、とんでもない攻撃力だな」
「武具を使わずにあれだもの、マリアちゃんが託した【龍糸】を装備したらヤヴァいわね。想像しただけでワタシ、ゾクゾクしちゃう」
カンナさん、そこで体を抱き締めて身悶えするのは止めましょう。
むしろカンナさんの方がヤヴァそうに見えて……ってほら、教団の人達が物理的に引いているじゃないですか。
「この様子ならぁ、マリアさん達だけでも問題なさそうですねぇ」
ルレットさんが冷静にそう言うと、組んでいたパーティーを解除した。
ルレットさん達は素材集めのついでにレベル上げもしていたらしく、私とのレベル差はそれなりにある。
レベル差がある状態でパーティーを組みモンスターを倒すと、レベルの低い人にとっては逆に効率が悪くなるらしい。
ということで、改めて私とギルスとヴェルでのレベル上げ。
先程のギルスの戦いっぷりから、今度は一度に三体のオークを相手することに。
それでもギルスは臆することなく、颯爽とオークに立ち向かう。
その頼もしい背中と動きに、私はネロと空牙の姿が重なって見えた。
これは負けていられないね!
私は意気込んで糸を操ろうとして……あれ?
「扱える糸の余裕がない……」
そういえば、ギルスが全力を出すために必要な糸の数は、私が扱える上限と等しかったっけ。
イベント後も料理を行い【操糸】のスキルは上がっていたけれど、扱える糸の数が増えるまでには至っていない。
このままだと私、ただのお荷物というか要らない子では……せっかくヴェルもいるのに!
心の中でさめざめと泣いていると、前を向いたままギルスが言った。
「気にするな、オレがマリアの力だ」
まるで自らの言葉を、私の力であるということを証明するかのように、ギルスが三体のオークを瞬く間に叩き伏せる。
淡々とした言い方だったけれど、謙遜とか気負う感じはどこにもない。
思ったままを……ううん、思うこともなく口にしているんだろうね。
だからかな、どうしようもなく頬が緩んでしまう。
その頬に、ヴェルが『ピヨッ』と鳴いて自分も忘れるなといわんばかりに顔を擦り付けてきた。
よしよし、ヴェルのことも忘れていないからね?
ヴェルは【モイラの加護糸】のままだけれど、レベル上げが一息ついたら【供儡】を試してみようかな。
その時が来るの楽しみに待とうとした……はずが。
「なかなかやるじゃないか、ギルス君」
そう言って立派な弓で矢を放ちオークを倒すのは、グレアムさん。
その数はギルスが倒したのより多い、四体。
「しかしレベリングはこれからが本番。辛くなったらいつでも言うといい」
幻聴かな? 気遣う言葉なのに、ギルスを挑発する響きが混ざっているように感じるのは。
私のこれまでの経験が『気をしっかり持て!』と囁く。
「要らぬ世話だ。お前達はマリアを守ることに専念していろ。いざという時『油断していました』では話にならんからなっ!」
教団の人達が作る陣の中に誘き寄せたオークだけでなく、その外にまで踏み出し五体のオークをギルスが倒す。
いやいや、まだレベル上げは始まったばかりだし、陣の外に出てまで倒す必要はないと思うんだ。
「油断? 違うな、これは余裕というのだよギルス君っ!」
何かのスキルを使ったのか、放たれた矢が空中で分裂し、六本の矢となり同じ数だけのオークの急所を貫くグレアムさん。
一体ずつ倒す数を増やしているあたり、明らかに張り合っていますよね?
それはギルスもそうなんだけれど、ギルスと違いグレアムさんはレベル的にここでオークを倒す利点が殆どないはずなのだけれど……。
「余裕があるというには、随分必死そうだぞ冒険者」
「獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くすという言葉を知らないようだな。ああ、人のことわざは難し過ぎて理解できないか、人形には」
「……」
「……」
表面上続いてた冷静な? 遣り取りは瞬く間に剣呑さを増し、ついにその時は訪れた。
「「貴様ごときに負けるかっ!!」」
冷静さをかなぐり捨てた二人が暴走し、片っ端からオークが駆逐されていく。
なんでこうなるの!?
でも大丈夫、囁きのおかげでまだ気をしっかり持てているよ!
今のうちにできることを……そうだ!!
「ルレットさん、あの二人を止め……」
「随分楽しそうなことをしていますねぇ。私も交ぜてもらいましょうかぁ」
振り返ったそこには、眼鏡に手をかけ、とっても素敵な笑みを浮かべるルレットさんがいた。
あっ、これダメなパターンだ。
助けを求めてカンナさんとマレウスさんを見ると、揃って首を横に振られた。
その時点で私は止めることを諦めた。
これも成長というのかな……。
その後、三人の暴走により辺りからオークが一掃されてからは、より強いモンスターを求めさらに樹海の奥へと進むことになった。
オークはハイオーク、オークリーダー、オークジェネラルと名前と共にどんどん強くなっていく。ギルスも途中からは素手で戦うのが辛くなり、【龍糸】を使い始めていた。
縦横無尽に走らせた【龍糸】の威力は凄まじく、オークを武具や防具ごと両断し、上位のオークが持つ【再生】のスキルですら意味をなさない速度で切り刻む。
中距離から仕掛けているため、苛烈な攻撃を加えているにも拘わらず、ギルスの動きはまるで楽団の指揮者のように見えた。
グレアムさんも途中から教団の人達と連携し、個々の力を束ね、高め、数で勝るオーク達を圧倒している。
放流されたルレットさんは相変わらずの強さだったけれど、その分フォローするカンナさんとマレウスさんは死にそうになっていた。
あの、今回の目的ってレベル上げですよね?
効率というかモンスターを倒す速度を考えたら、必ずしも間違ってはいないのだけれど、“これじゃない”感が拭えない。
結局、最後はギルスの負け? という形で幕を閉じた。
強さがモンスターに対し追いつかないとか、そういう理由ではなく、ギルスを支える私のMPがなくなったせいだ。
何度かMPポーションは飲んだけれど、途中から明らかに消費の方が多くなっていたからね。
逆に言うと、私がしたのはそれだけ。
短時間でレベルが四つも上がったし、感謝しかないのだけれど、私の思っていたレベル上げとはだいぶ違うのは……うん、考えないようにしよう。
あれ? この流れなんだか既視感が……。
(マリア:マリオネーターLv20→Lv24)
カルマ(王都) 170,000
カルマ(帝都) 70,000
ステータスはDEXが良く伸び、スキルレベルもそれなりに上がった。
STRは相変わらず死んだままだけれど、今更なので問題なし。
そんなことより、カルマの数値が変わっていなかったことにほっとしたのはここだけの秘密。
『ほっとしていい数値なのか?』というツッコみは、してはいけません。
いつもお読み頂いている皆様、とても個性的な感想をくださっている皆様、本当にありがとうございます。
今回新たに9件の感想を、7人の方から有り難い評価を、そしてお気に入りに登録頂けました。
また誤字指摘を1件、より良い表現としての指摘を2件頂きました。
伝える語彙が少なく恐縮ではありますが、重ねて、ありがとうございます。
誤字脱字のご指摘はいつでも歓迎ですので、気になる点がありましたら、よろしくお願い致します。
引き続きのんびりと、お付き合いくださいませ。