118_真里姉と過保護? なレベル上げ(前編)
あけましておめでとうございます、というには穏やかではない状況が続いておりますね。
そんな中、新年一発目の投稿に登場するのが彼等でございます。
ピヨコ……もとい、ひよこのヴェルという新しい家族を迎えた後日。
私達は私のレベル上げとヴェルの力を確かめに、王都カルディアの東に広がる“大魔の樹海”へ向かっていた。
“大魔の樹海”はカルディアとゼノアを隔てる樹海で、樹海の奥へと進むほど大型で強力なモンスターが沢山現れるらしい。
ただあまり奥に行かなければそんなに強いモンスターは出ず、レベル上げにちょうど良いという話だった。
もっとも、そのレベル上げにちょうど良いのは私だけで、他の皆には効率が悪いようだけれど。
レギオスとの一件以来、私は一つもレベルが上がっていない。
……ごめんなさい、嘘ではないけれど正しくないことを言いました。
レギオスとの一件どころか、前回のイベントが終わってから一つもレベルが上がっていないが正しいです、はい。
ス、スキルレベルとかは上がっているよ? 上がりまくりだよ!?
ただ私自身のレベルはというと、戦う機会がなかったり他にやることがあったりで……。
とこれまで放置していたのだけれど、ヴェルが生まれたことに加え、“誓約の洞窟”での一件を踏まえもう少しレベルを上げるよう、ルレットさん達に言われた。
特に強く勧めてきたのが、グレアムさんを筆頭とした幼聖教団の人達。
グレアムさんが言うには、私の安全を高めるためにも是非レベルを上げて欲しいとのことだった。
あの一件で私が家族を失ったことにグレアムさん達は責任を感じていたらしく、戻ってからずっと鍛錬を重ねていた。
気にしなくていいと言ったのだけれど、『教義に反します!』と教団の方全員に声を揃えて力説されては止めることもできず…………あれ? というか教義って何ですか。
いつの間にできたのか、そもそもその教義は何を教えているのか……あっ、これ深く考えたらダメなやつだ。
レベルの上がった【切り替え】スキルにより、私は心のダメージを最小限にすることができた。
ふぅ、危ないところだったね。
因みに団員の中にはバルトさんもいて、表向き馴染んだ様子だったけれど、時折どこか遠い目をしていた。
私と一緒ですね……な、仲間ができたなんて思っていないよ?
そういった事情とヴェルの力を確かめるという理由に外堀を埋められ、私達は“大魔の樹海”へ向かうことになった。
一緒に行くのはギルスとヴェル、ルレットさん、カンナさん、マレウスさんにグレアムさん達。
ヴェルは私の左肩に乗り、歩く際の揺れに耐えるよう一生懸命掴まりながら、それでも頑張って周りを警戒していた。
そんなヴェルをギルスが満足そうに眺めつつ、いざとなったらすぐに助けられるよう身構えているのを私は知っている。
しっかりお兄ちゃんしているね。
右隣にはルレットさんとカンナさんに、マレウスさん。
そして私の前にグレアムさん、後ろにバルトさんがいる。
これだけなら四人パーティー二つで、レベル上げにいく構成としてはおかしくない。
でもその外側に、幼聖教団の人達が数十人で展開しているのはどうかと思う。
これ、ただのレベル上げだよね?
まだレベル二十の私が行く程度の、強くないモンスターがいる所だよね??
ボスを倒しにいくとかじゃないよね???
そんな私の疑問を感じ取ったのか、グレアムさんが声をかけてきた。
「相手がモンスターであれば、正直私だけでも良いのです、むしろ私だけが良いとさえ……げふんげふん」
うん、聞かなかったことにしておきます。
あとグレアムさんが今の一言を溢した瞬間、一斉に殺気が飛んできた……団長目掛けて。
この組織、本当に大丈夫なのかな。
「これは用心なのですよ。敵はモンスターだけではありません。あの戦いで教祖様を狙うPKが一掃されたとは限りません。むしろあの戦いにより、新たに狙う者が出てもおかしくはない。もう二度と、我々はあのような目に教祖様を……少なくとも、我々が何もできずあのような目に遭わせてしまうことは、絶対に避けたいのです。我々の教義と矜持にかけて」
「グレアムさん……」
「そのために我々は、PK共にも負けないようレベルを上げ、御三方にも協力頂き装備を充実させたのですから」
公式イベント時のレベル上限は三十、その後五国の実装により四十に、そして第二陣の参入により五十に引き上げられている。
第二陣の参入からまだ然程時間が経過していないにも拘わらず、グレアムさん達のレベルは四十後半。
普段の言動がアレだけれど、ここまでしてくれているグレアムさん達の厚意は疑いようもない。
「私のために、ありが……」
そう感謝しようとした矢先。
「十時方向、索敵に反応あり!」
「α防御態勢! β索敵継続! γ殲滅!!」
「「「了解!!!」」」
「一片の容赦無く一切の躊躇無く遂行せよ、全ては教祖様のために!」
「「「教祖様のために!!!」」」」
……厚意だよね、本当に?
早くも前言を撤回し感謝の言葉を途切れさせた私を、誰が責められるだろう。
いや、誰もいないに違いない。
それにこの人達、笑みさえ浮かべ明らかにノリノリなんですが。
ノリノリで、魔法やらスキルを連発している。
おかげで私には幾つものバフがかけられた。
バフは物によって打ち消しあったり、上書きされたりするのだけれど、パッと見そんなことはなく。
誰が何をいつ担当するか、予め決めてあったのかな?
その連携力は素直に凄いと思うけれど、かけ過ぎだと思う。
それは攻撃においても同様で、飛んでいった無数の魔法とスキルにより地形が変わる程の爆発を引き起こしていた。
どう見ても過剰な攻撃だよね。
だいたい、ここに出現するモンスターってまだレベル二十かそこらのはず。
索敵しているようだから大丈夫だと思うけれど、仮にPKが散発的に攻撃してきたらどうするのだろう。
MPポーションが出回るようになったとはいえ、まだ高価で数も少ないはずだし……。
因みに彼等が全力で防御し、全力で倒したのはレベル21のモンスターが一匹だった。
倒されたモンスターもびっくりだよね。
うん、私もびっくりだよ。
モンスターに同情しつつ心の中で手を合わせ、私は進んだ。
その後たっぷり通常の数倍の時間をかけ“大魔の樹海”に着いた時、グレアムさん達の少なくない人がMP枯渇気味になっていた。
いや、ほんと何をしているんですか?
グレアムさんの言う矜持に物凄く不安を覚えながら、私のレベル上げは始まるのだった。
…………いや、まだ始まってさえいないのでは? とか考えてはいけない。
私だって考えないようにしているんだから。
いつもお読み頂いている皆様、また感想という作品をくださった皆様、どうもありがとうございます。
今回新たに9件の感想を、24人の方から有り難い評価を、そしてお気に入りに登録頂けました。
重ねて、ありがとうございます。
年末年始の休み明け、憂鬱な一時にふっと脱力頂けたなら幸いです。
誤字脱字のご指摘はいつでも歓迎ですので、気になる点がありましたら、よろしくお願い致します。
引き続きのんびりと、お付き合いくださいませ。




