104_真里姉と”彼女らしい”広場での一幕
私事になりますが、この度「ノベルアッププラス 第二回小説大賞」にて、
本作が大賞に選ばれ、書籍化されることとなりました。
これまでお読み頂いた方、応援頂いた方に、心から、心からの感謝を……。
本当に、ありがとうございました!!
ヨシュアさんが落ち着くのを待つ間、私は【大蜘蛛の糸】を取り出し、【操糸】で布を織った。
”誓約の洞窟”の最奥での戦いを経てスキルレベルが上がったのか、ギルスに【纏操】と【供儡】を使っても、私は一本だけ自由に糸を操ることが出来るようになっていた。
複雑な物を織るでもなく、マフラーくらいの大きさの布なら、そんなに時間もかからない。
昔弟妹に頼まれ、当時人気だったキャラクターの絵を織り込んだ時に比べれば軽い軽い。
出来上がった布を鎖ごとヨシュアさんの足元が隠れるように被せると、呟きが止まった。
「…………なぜ」
代わりにヨシュアさんが口にしたのは、短い疑問の言葉。
感情が動いたのか、瞳が少し収縮したような気がする。
その瞳が『なぜこんなことをする?』と、そう続けているように思えた。
どこか既視感があると思ったら、ライルと初めて会った時もこんな感じだったね。
傷ついたレイティアさんへ、ライルに高級ポーションを渡した時のこと。
あの時もライルから『なんでお前はそんなにしてくれるんだよ』と言われたっけ。
なんだか懐かしいな。
昔語りをする程の時間は経っていないはずだけれど、ずっと一緒にいたような気がする。
今や二人も、私にとって大事な人だ。
特にレイティアさんは、暴走しがち……暴走する仲間を止められるという、私にとって非常に有難いスキルを持っているしね。
レイティアさんがいなかったら、私の魂は今頃どこを彷徨っていたことか……。
はっ!? 危ない危ない。
そんなもしもを考えただけで私は魂が飛びそうになってしまったけれど、その間ヨシュアさんはじっとこちらを見続けていた。
疑いと、ほんの少しだけ期待が込められた眼差し。
だから私は、あの時と同じ言葉を返そうと思う。
「どうしてでしょうね? 私にも良く分かりません」
私はただ、思ったままに行動しているだけだからね。
小さく笑ってそう言うと、ヨシュアさんは初めて私を同じ人として見てくれたように思う。
見開いた目を閉じ、しばらく俯いていたかと思うと、ゆっくり顔を上げヨシュアさんは自分のことを話してくれた……。
ヨシュアさんの話は途切れ途切れだったけれど、大まかに奴隷となった経緯やゼノアのこと、リベルタとの関係を聞くことが出来た。
色々気になる点はあったけれど、落ち着いて話をする場所ではないし、そろそろ移動しよう。
それにギルスに注目を集めるようお願いしたけれど、さすがに限界があるでしょう……し?
私がギルスの方に目を向けると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
自分の目がおかしくなったのかと思い、目を閉じてごしごし擦ったけれど、再び目を開けてもその光景が変わっているなんてことはなく。
錯覚だったらどれ程良かったかなあ……。
最初、広場には十人もいなかったはずなのに、今や百人以上の人が集まり、ギルスの周囲を幾重にも囲んでいた。
「これは……」
いや、原因は私が頼んだことだろうけれどね?
ただ、これだけは言わせて欲しい。
「どうしてこうなったの!?」
とにかくなんとかしないといけないと思った私は、恥ずかしさを我慢し大声で叫んだ。
「ギルス!」
名前を呼んだ瞬間、人垣を一気に飛び越えギルスが私の前に着地した。
あの人混みと喧騒の中で良く聴こえたなと思いつつ、十数m以上ある距離を飛び越えるってどんな身体能力をしているのだろう。
「どうしたマリア!」
「いやどうしたって、それは私が聞きたいんだけれど……あの人達は?」
「ん? マリアに言われた通り、道化を演じていたら勝手に集まっただけだぞ」
何も悪いことはしていないと、真面目な顔でギルスが言う。
悪いことをしていないのはね、最初から疑っていないんだよ?
ただこれまでの経験から、悪いことの基準がズレている場合が多いんだよね、主に私と私の周囲の人達との間で。
そこで詳しく聞いてみると、糸で描いた鳥を飛ばしていたら観客が増え『次はこれをやって!』とお願いされるようになり、言われるままに応えていったらしい。
そうこうしているうちに人はさらに集まり、そんな中『尊いものを!』というお題が出され、ギルスは私を描いたとのことだった。
その結果、一目見ようとこれまで集まっていた人の何倍もの人が押しかけ、あの状態になったと。
「……ちなみに、どんな風に私を描いたの?」
つい聞いてしまったけれど、私はすぐに後悔した。
「実際の万分の一も伝えきれんが」
そう言ってギルスが【魔銀の糸】を操り描いたのは、教会で見た私に似せて作られた御神体。
その姿は糸のせいか銀色に輝いており、そして御神体とは違いなぜか背中に翼が生えていた。
私、絶句。
もしスキルに【絶句】があったなら、私のスキルレベルはかなり高くなっていると思う。
その高いスキルレベルのせいでまたも魂が家出してしまっている間に、集まった人達の注目は私達に向けられるようになっていた。
「あれって幼聖食堂の」
「聖母様だ!」
「御神体と教祖様のツーショットだと!? なんと尊いその幼姿……記さねば、同胞である世界中の紳士淑女のために」
訂正、私に注目が集まっていた。
ところで、前二つの発言は諦めと共に許容するとして、最後に言ったのは誰ですか?
絶対教団の人ですよね??
そしてさらっと世界中の紳士淑女とか言ってますけれど、それはどこの世界を指していて、どこまで広がっているんですか!?
ヨシュアさんに向けられる視線を逸らすことに成功はしたけれど、最後は私が一番注目されるという……。
心の中でそっと涙しながら、私達は逃げるように広場を後にした。
ちなみにその後、ギルスから注目を集めている間に貰った投げ銭を手渡されるのだけれど、額の大きさに私の【絶句】スキルはまたも上がるのだった。
いくらでも感謝の言葉が溢れそうなので、後書きは自重します。
前書きに、全てをこめました。ありがとうございました!