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秋葉原ヲタク白書22 邪馬台国は青森だった

作者: ヘンリィ

主人公は、SF作家を夢見るサラリーマン。

相棒は、老舗メイドバーの美しきメイド長。


このコンビが、秋葉原で起こる事件を次々と解決するという、オヤジの妄想満載な「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第22作です。


今回は、元カノのメイドカフェで青森で発掘された三内丸山遺跡の円筒印章が展示されますが、ソレが実はパラレルワールドへの旅の始まりで…


お楽しみいただければ幸せです。

第1章 エリスの超古代デー


"Aomori tower, JAS1201 on final"

"JAS1201, Cleared to land, r/w 18, wind 210 at 7"

"Thank you"


僕を載せたJAS1201便エアバスA300-600Rは陸奥湾上空での旋回を終えて着陸態勢に入る。

青森空港からの意外に強い横風情報に今頃コクピットには軽い緊張が走っているコトだろう。


僕は、36Bシートで短い脚を長く伸ばし、非常扉の小さな窓から眼下の津軽平野を見下ろす。

海岸線近くに小さな森が3つ並んでいるのが見えて、おや?と思う間もなく上空をフライパス。


ソレが僕と青森ミステリーとの最初の遭遇。

未だ青森線がJASのドル箱だった頃の話だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕は、サラリーマンライターなワケだけど、何回か会社の都合で地方に赴任をしている。

その何回目かが青森だったけど、当時は新幹線が未整備で、空路を多用した記憶がある。


すっかり青森便の常連となった頃、青森県から目をつけられ文化観光大使を打診される。

喜んでお受けし、雑誌に記事をとか言われ「青い森の白い雪」を上梓したのがこの頃。


まぁ当時からライター志望だったワケだね←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「で、その『青い森と白い雪』って、ナンナンですか?テリィ様初の短編SF?」

「うーん既にSFと逝うジャンルを完全に超越し宇宙と人類の関わりの全てを神の視座から俯瞰する、と逝う実に壮大なスケールの一大叙事詩なんだ」

「でも(原稿用紙)10枚でしょ?どう考えても短編ですょね?」

「だ・か・ら!ホントはもっともーっと超大幅に書き足しまくる予定だったんだょ」

「何で書かなかったんですか?」

「時間がなくなったんだ」

「何で?」

「君に夢中になって」

「まぁ」


マンザラでもなさそうな顔のミユリさんと、暗い階段を地下室へと降りる。

ソコはエリスの御屋敷(メイドカフェ)"ノーシグナル"でたちまちケータイは圏外になるw


ところで、いつもは薄暗くて謎めいた御屋敷(メイドカフェ)なんだけど、今宵はヤタラと明るく賑やかだ。

マスコミの取材が入ってるようでライトに浮かぶキャスターをカメラクルーが撮影してる。


狭い地下室は、バブルの頃のディスコ並みの人混みで身動きもままならないw

余りの混みようにドン引きスル僕達の下へと人混みカキ分けハゲ頭が近づく。


「テリィさん!お久しぶりですねぇ!知事が寂しがってましたょ?」

「わぉ、ハゲ頭観光部長!いやぁ青森ミステリーフェア、大盛会ですねぇ!」

「秋葉原の有名メイドカフェとコラボというのがウケました。新作アニメを売り出す手法だそうですが、観光フェアでも大当りですっ!」


コレは、青森県庁プロデュースのミステリーイベントで大入り満員に彼はホクホク顔だ。

あ、県庁の観光部長の名はハゲ頭じゃナイし僕も実名で呼ばれたけど、このママで逝く。


ところで、青森県は、キリストや仏陀の墓にピラミッド、遮光器土偶や三内丸山遺跡、火の玉ツアーなど「古代ロマン系」の宝庫(ショーケース)なンだ。


コレらを慎重に観光資源化して古代ミステリー系の町おこしを図るのは観光政策の柱。

今回は青森市内で発掘された円筒印章を県立美術館で展示するためのPRイベントだ。


この円筒印章は、三内丸山遺跡と同時期のモノと逝うのが県立美術館学芸部の見解だ。

表面の模様はメソポタミアの楔形文字に似てる気もするがマァ文字かも怪しいレベル。


その円筒印章が何と今、エリスの御屋敷(メイドカフェ)に持ち込まれ、真ん中に置かれた展示台に鎮座している。

真上からピンスポットが当たって茶色っぽく見える円筒印章は、意外に小さくて掌に乗るサイズ。


メイド長のエリスが、いつもの焦点の定まらない不思議な目つきで僕達に挨拶する。


「ミユリさん、ごきげんよう。ラッツもこういうイベントだと来てくれるのね」

「大入り満員だね、エリス。御屋敷にTVを入れるのも@ポエム以来のコトじゃないか?…それから、もうラッツじゃないから」

「ごきげんよう、エリスさん。今は『私の』テリィ御主人様なのょ。よろしくね」


珍しく僕に腕を絡めて来るミユリさん。

元カノのエリスを牽制してるみたいだ←


と、その時!


「全員、動くな!両手を上げて壁際に並べ!我々は"超古代解放戦線"だ!この円筒印章は我々が頂き、母なる大地に返す!」


な、なんだ?


ヒステリックな女の声がするが、背が低いらしくて誰が何を逝っているヤラわからないw

もしかしてジョーク?演出カモ?と思ってハゲ頭部長を見やると本気で泡を噴いている。


会場のガードマンが一斉に動き出し一角では乱闘も起きたようだが相変わらず状況不明←

しかし、てっきり何かのコスプレだと思ったらホンモノのガードマンだったとは驚きだw


「彼等は青森の武装NGO"超古代解放戦線"です。古代の遺物は全て大地に埋め戻せ!というのが彼等の主張で。しかし、まさか秋葉原まで邪魔しに来るとは!」

「なんと…そんなテロ組織みたいなNGOってアリですか?」

「アリもアリ、大アリでいく先々で県のイベントを妨害スルんです。リーダーのディープブルーは、三内丸山遺跡の完全埋め戻しを求めて、県庁ビルの爆破予告を皮切りに遺物の窃盗密売容疑もあり、青森県警から全国指名手配されています」


居合わせた県庁の職員が教えてくれる。

全く世の中色んな過激派がいるものだ…


さらに一段と甲高い非常ベルの音が響く!


「あ!テリィ様!どうしてそんなモノを…」

「え?え?わっ!なんなんだー」

「どうして何時も勝手に触るの?!」←


何故だかは自分でもわからないが、僕は傍らにあった円筒印章を手にしてるw

いや!全く悪気はなく、ましてや何チャラ解放戦線のシンパでもナイのだが…


とにかく!僕が展示台から円筒印章を持ち出すや非常ベルが鳴り響き、今度こそ御屋敷(メイドカフェ)はパニックに陥り阿鼻叫喚の修羅場と化す。


円筒印章を掴んだ僕は、後ろから激しく突き飛ばされ、誰かが出て来てちょうどドアが開いた女子トイレへ頭から突っ込んでしまう。


すると、僕の後から続いて巨大な光が…光り輝く「蒼い彗星」が女子トイレに入って来て眩い光を放ちながらグルグルと回転を始め…


そして…僕は気を失う。


第2章 扉は開いた


暫くの間、僕は女子トイレの中で便器を抱くようにして気を失っていたようだ。

ようやく意識が戻り、ヨロヨロ立ち上がって女子トイレの扉を開けて外へ出る…


ソコに薄暗いエリスの御屋敷(メイドカフェ)をイメージしてたが、あり得ない景色が広がっている。

清潔でシンプルな内装、天井にはファン、リノリウムのフローリングには観葉植物。


ココは…80年代のカフェバー…か?


「開店5分前!さぁ、みんな!ガッチリ稼ぐわょ!ヲタクを見たらバブルと思え!ハイ、みんなで!」

「ヲタクを見たらバブルと思えっ!!!」

「その調子よっ!」


エリス…なのか?


真っ赤なボディコンにワンレン&ピンヒールで整列した女の子達に檄を飛ばしてる。

あの病弱で薄幸?なエリスの面影が微塵も…ってかそのデカい肩パット何とかしろw


「あ、アンタ!もうすぐ開店だから!邪魔なのょ、店から出てて!ミユリ!ウチの人をサッサと連れ出して!」

「え?え?開店?御屋敷(メイドカフェ)の開店か何か?」

「何ょそのメイド何チャラって?さぁ!万世橋(警察署)の手入れが入るまでガッチリ稼ぐわょ!サーファーガールキャバクラ『オン・ザ・A(アキバ)ビーチ』開店!ヲタクを見たらバブルと思えっ!」


スゲェ気炎だっ!


目を覚ましたら、エリスが何だかスゲェ女になってるんだけどコレは何?

これじゃまるで風営法のスレスレゾーンで荒稼ぎするヤリ手ババァだょ←


裏でストリップバーとかも経営してそう。

一体、眠ってる間に何が起きたのだろう。


そして、僕は…


「テリィさん、お出掛けしょ?」

「えっ?…あ、あ、あれ!ミユリさん?!」

「えへっ。今宵は逃がさないぞ、この海辺の浮気者め!ウーォンテッド!」


僕に腕を絡めて来たのは、間違いなくミユリさんなんだが…わぉサーファーガール?

さっきエリスがサーファーキャバとか逝ってたが確かにお店の子は全員サーファーw


「早く早く!お出掛けしょ?いくらヒモさんと逝ったって、エリスさんのお店の邪魔をしたら、私まで怒られちゃうw」

「ええっ?誰がヒモだって?ぼ、僕はエリスのヒモなのかっ?!」

「何、眠たいコト逝ってるの?今日はどっちにする?島?リンゴ?」


呆気にとられる僕を地上へ連れ出して、いつもより少し頭が弱そうなミユリさんが誘う。

僕は全く話について逝けナイが島or林檎って何?アキバに2軒あるスロット店のコトか?


「じゃ、近い方の(アイランド)で」

「オッケー!もちろんお泊まりょね?」

「え?そんなにやるの?」


すると、サーファー姿のミユリさんは、僕が何かトンでもないジョークを逝ったと思ったのかパーツ通りの真ん中で大爆笑する。


御機嫌になった彼女は、僕に腕を絡め夕暮れのメイド通りを踊るようなステップで逝く。

次の角を曲がれば、もう(アイランド)だけど、今更ですけど僕はスロットって実はやったコトが…


あ、あれ?(アイランド)が…ラブホになってるw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕の横でミユリさんが寝息を立てている。


大乱戦の果て彼女は万歳した姿で寝てるが…この世界?のミユリさんは凄いグラマラス←

ナイスバディに滋養を喰われたか?心ナシか頭が弱そうにも見えるが天は2物与えズか?


しかし、タフだったな←


そんな彼女を何とか仕留め、フラつきつつ彼女のsurfaceを出しネットに接続してみる。

真っ先に現在日時を確認するが、過去でも未来でもなくタイムトラベルした形跡はナイ←


となると…ココってパラレルワールド?

あの「蒼い彗星」が何か関わっている?


早速「蒼い彗星」「円筒印章」「パラレルワールド」で検索してみる。

何件かヒットした中から、地元ミニコミ誌の「萌えマガ」をチョイス。


編集長のスズキくんとは旧知の仲。

珍しく彼が署名記事を寄せている。


内容は大体こんな感じだ。


青森県立美術館は、三内丸山の遺物フェアに先立ち、PRキャンペーンを秋葉原の有名メイドカフェ"ノーシグナル"とコラボ開催。


目玉は、青森市大森山で発掘された円筒印章で「蒼い彗星」と呼ばれる超古代の隕石から作られ、従来のスキャンでは解析が不可能。


ところが、円筒印章は"ノーシグナル"でのキャンペーン中に白昼盗まれ同印章を神々への扉と信じる神秘主義者が犯行声明を出す。


我等"超古代解放戦線"、蒼き彗星を率いてアキバの野に降り立つべし、失われし夢を紡ぎ、遂に人々を妄想の国へと導かんw


この声明を受け"ノーシグナル"経営のエリスさん(22)は新たにサーファークラブを開店する、エリスさんコメント「絶対来てネ!」←


誰が22才だって?笑


まぁ最後まで読めば、エリスが仕組んだ新しい店舗の提灯記事じゃナイかとわかる笑。

やり手ババァと化したエリスが色仕掛けで書かせたンだろうが実に嘆かわしい内容だ。


しかも…薄々「赤い彗星」のパクり臭いと思ってたが、まさかナウシカまでパクるとは…


しかし、一方で僕は円筒印章に触れた者としてフト頭をヒネる。

さて、この世界は、僕のどんな望みがかなった世界なのだろう?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


先ず、この世界では、僕は"地下鉄戦隊メトロキャプテン"の仕事をしていないようだ。

となると、アキバの日々は無為に過ぎ物書きの世界で僕は全く成功してないコトになるw


いや。このグラマラスなミユリさんとの乱戦に日々ウツツを抜かしてると逝うコトか?

でも、ソレが僕の「夢」だったのか?僕が望む「夢の別世界」って、コレだったのか?


何となく、軽いショックとやり切れなさみたいな苦い思いが僕の胸をよぎる。

その時、フト彼女のsurfaceに"青い森の白い雪"と逝うファイルを見つける。


僕が青森時代に描いた"一大叙事詩"のタイトルと同名のファイルをクリックして開く。

ソレは、彼女が青森旅行した時の写メやメモのファイルで、何と僕の写メも何枚かある。


僕の"一大叙事詩"は僅か原稿用紙10枚の小品だが、この長さはオカルト雑誌"ミュー"のショート×2大賞の応募規格に準じている。


惜しくも大賞は逸したが、県の観光大使が、宇宙の創造主と三内丸山に集う超古代人類の対話を描いた作品は青森県庁の好感を呼ぶ。


トントン拍子に観光パンフレットとしての発行が決まって、青森市内の老舗百貨店ナカサンでサイン会まで開かれるコトになったが…


ソレに、ミユリさんが来ていたとは!

僕のサインを求め東京からはるばる?


恐らく居合わせた県庁職員に撮ってもらったのだろう僕の下手なサイン入りのパンフを手にして誇らしげに微笑むミユリさんがいる。


さらに、サイン会場での僕とのツーショットとかに加え、短編の舞台となった青森市内の大森山頂で撮ったと思われる写真まである。


あぁ大森山って私有地なんだw

恐らく無断で登ったのだろう←


しかし、ミユリさん、君は僕のファンだったんだね、この世界でも。

そして、僕を訪ね、はるばる来たンだね"青い森と白い雪の国"へ。


第3章 青い森と白い雪


その後、青森勤務を終え東京に帰った僕は、アキバの仲間達とも涙?の再会を果たす。

その間、エリスは失踪し、ミユリさんと出会い「メトロキャプテン」を描き今宵に至る…


と逝うのが、僕の世界の話だ。

ところが、コチラの世界では…


「ネットが大炎上する『青い森の白い雪』バッシング騒ぎがあって…『ミュー(オカルト雑誌)』誌上で叩かれて、心に傷を負って青森から戻ったテリィさんのコト、私、見てられなかった」

「ええっ?『青い森と白い雪』ってバッシングされたの?でも『ミュー』なんかモロ手を挙げて喜びそうなネタなのに」

「ホント、私にとってもアキバで1番辛い季節(シーズン)だった。でも、私に出来るコトと逝えば貴方を慰めるコトだけだもの。だってソレしか出来ないんだもの。胸が大きいだけが取り柄の私には」


ココは、ミユリさんに連れて来られた場所ナンだが、とあるビルの外付け階段の踊り場。

実は、僕と女サイバー屋のスピアがキスした踊り場でもあるんだけど、ソレはナイショ。


だって"異次元"のコトだからサ、アレは←


「私、今のイメクラ系のエスコート嬢のマンマでいいのかなって、疑問に思うの。ねぇテリィたんを、もっともっと癒すためには、私はどうしたらいいのかな?テリィたんは…アキバで私なんかと出会わズに作家業に専念してた方が良かったって…ホントはそう思ってルンじゃないの?」

「ええっ?エ、エスコートコンパニオンだったの?ミユリさんって。コ 、コレってプレイなの?ってかコレ、もしかして何かのオプションなのかな?」

「はぃ?ま、まさか…私のコト…デリ(ヘル)かなんかだと思ってる?」笑


アキバでも風俗のオプション合戦は苛烈で今や裸エプロンなんて無料が当然の世の中だ。

あ、いや。コレはモチロン聞いた話で、しかも、まぁ、僕のいた世界の話なんだけどサ←


で、目の前にいるミユリさんは、いつになく真摯な顔つきをして僕を見上げている。

似合わない濃いアイメイクの奥の瞳が濡れている…ソレさえも営業なの?それとも…


僕は告げる。


「どんな出会いにも意味がある。君との出逢いは、必ず僕に影響を与えて、あらゆる形で僕を変えてる。もしかしたら、少々わかりにくいかもしれないけどね」

「ネットで初めて『青い森の白い雪』を読んだ時、私、心が震えた。だから、青森まで作者に逢いに逝ったの…そうしたら、貴方は思った通りの人だった。でも、バッシングの後でアキバに戻った貴方は、ただのセックスだけが取り柄の…」

「情けない姿を見せたのなら、僕は謝る。でも、どんな世界にいようとも、どんな君に逢おうとも、もっといいライターに僕はなる。前の世界でも、この世界でも。ヲタクの世界でも、リアルの世界でも」


頭の弱そうなミユリさんの顔がパッと輝く。


「私の…大好きなテリィたんだ」


彼女の黒い瞼に、ドッと涙が溢れ出す。

わんわん泣きながら僕の胸に飛び込み…


ええっ?もう1回w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ハイ。化粧の崩れた彼女はいつものソイラテをエクストラホットで。ソチラの買い物上手な旦那にはアイスでリストレットショートの2%ラテ」

「ユーリさん、今宵の私はお持ち帰りじゃないの!彼はリアルよっ」

「じゃ奢ってもらいなょ、彼氏サンならさ」


僕とミユリさんは、昭和通り沿いにいる移動販売のバンでコーヒーを買う。

何と店長は、マチガイダ・サンドウィッチズでは店長だったユーリさんだw


この世界では、彼はキッチンカータイプのバンでコーヒーの移動販売をしているようだ。

あの美味いチリドッグを食べれナイとは、何と味気ない世界だとは思うけども仕方ない。


「今にしては思えば僕は…」


ミユリさんとコーヒーを飲みながら、話していた僕は、突如視界がゼロになる!

頭からズタ袋を被せられ、そのまま何者かに引っ立てられて車に押し込まれる!


コ、コレは誘拐かょ!

背中の感触は…拳銃?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「我々は超古代解放戦線『チームオリオン』です。テリィ大使、御安心を」


全く"御安心"出来ないよっ!


頭のズタ袋が取られると、ソコは何処かの地下室らしくて、僕はイスに座らされ、何と結束バンドで両手を後ろ手に縛られている。


傍らに同じく縛られたミユリさん。

取り囲む男女がチームオリオンか?


「やっとお会い出来ましたね、大使。私達は"超古代解放戦線"の精鋭部隊です。やっぱり秋葉原でお会いするコトが出来ましたね」

「何だょそのやっぱり秋葉原って?一応、昼はサラリーマンやってんだ!働いてんだょ!」

「我がチームは、テリィ大使がお唱えになった邪馬台国青森論に心酔した者のみによって結成されており、全員が志願兵です。今こそ学会の常識を覆し古代三内丸山帝国の真価を世界に問いましょう!」


彼等が逝う邪馬台国青森論とは、邪馬台国は青森にあった、と逝う一種のネタで発表した仮説だがマジで信奉してる人がいるとはw


と逝うコトは…もしや武装NGO"超古代解放戦線"の思想的バックボーンって僕なの?

あぁあの善良なハゲ頭観光部長や県庁のみんながコレを知ったら僕は殺されてしまうw


何とかしなくちゃ!


「し、しかし"解放戦線"の同志諸君、よーく考えてみれば、やっぱり邪馬台国って九州だょね?畿内って何か中途半端だし…ましてや青森って少し寒すぎないか?」

「大使。この際、邪馬台国はどーでも良いのです。今宵は"解放戦線"が大きな犠牲と引き換えに奪還した円筒印章の件です」

「ええっ?結局、君達は円筒印章を盗んだのか!なんてコトを…じゃなかった、でかしたぞ、同志。さぁ、君達のドクトリンに従って元の場所に埋め戻そうょ明日にでも…ね?」


すると、リーダーと思しき男(今気づいたが全員遮光器を着けてる!サイクロプスかょw)が、無造作にポケットから円筒印章を出す。


「そんなコトより大使、この円筒印章の使い方を教えてくれませんか?時をかける『蒼い彗星』を呼び寄せると逝う、この円筒印章の使い方を貴方なら、きっと御存知のハズだ」

「え?え?時をかける、と来たら普通は少女だろ?何でソコに円筒印章を持って来るかなー。座りが悪過ぎでしょ。ソイツはないなー」

「この円筒印章は、よく古代宇宙人の遺物とか量子異常の産物とか言われているが、(いにしえ)の言い伝えに拠れば、コレは異次元への扉だ」

「そりゃあタイヘンだ。扉は開けたら閉めよう。閉めたら開けちゃダメだょ。中に誰か入ってるカモょ?トイレみたいにさ」

「我々のいる縦横高さの3次元に『夢』を加えた4次元、即ちドリームワールドへの扉の鍵がこの円筒印章なのです。そして、さっきから電波な言動を繰り返す大使、貴方は、ホントにイカれてるのでなければ『夢』次元から来たお方に違いない。全ての謎を解く鍵、電波な貴方はキーパースン、貴方こそがドリームワールドへのゲートウェイなのだ!」

「次元が増えたせいか、近所の駅名が"高輪ゲートウェイ"になっちゃって、もはや開いた口も塞がらナイんだけど、人のコトを捕まえて、特にテロリスト風をビュービュー吹かせるみなさんからだけは、電波、電波と逝われる覚えは僕的に全くnothingなんだょな」

「Arbert Einsteinの相対性理論に拠れば、次元を貫くモノは重力とされているから、即ち縦横高さに続く第4の軸である『夢』にも重力があるというコトになるのです…ところで、テリィ大使、ホントはアナタは円筒印章の使い方を御存知ナイのでは?」

「モチロン存じません」

「いや、知っているが、どうしても喋らないツモリ、と逝うコトかな?」

「ハイ」

「キフネ、大使の膝を撃て」

「えっ!」


キフネと呼ばれた背の低い女が太腿のホルスターからワルサーPPKを抜く!

ほとんど同時に隣で縛られてたミユリさんがイスごと僕の方へ倒れて来るw


次の瞬間、銃声と硝煙と反響の中で、僕の足元にイスごと転がったミユリさんの白いブラウスに見る見る赤い染みが広がって逝く!


何もかもが凍りつく瞬間。

最初に沈黙を破ったのは…


「…やっとテリィたんのお役に立てたね。おバカなミユリも」


そんな言葉を口にし僕に微笑みかける。

ズルいだろ。ソレはナイょミユリさん。


「◉✖︎あ△λΘηうΟπ!」


言葉には出来ない叫びを上げる僕。

後ろ手に縛られたまま立ち上がる。


信じられないコトにアッサリとイスが壊れて砕け飛び、自由になった僕はミユリさんを抱き上げるが、その視野の隅でリーダー格の手の中にある円筒印章が光り出すのが見えて、さらに驚くべきコトに彼の背後のドアが開き、巨大な光が…そう、光り輝く「蒼い彗星」が入って来て眩い光を放ちながらグルグルと回転を始め…その一方で、僕の腕の中でミユリさんの唇が…力なく動く…


あ・り・が・と・う


僕は彼女の名を叫ぶ。


第4章 邪馬台国は青森だった


「ラッツ!ラッツ!大丈夫?」

「だから、その名前じゃ起きないから!テリィ御主人様、起きて!」

「う、うーん」


目覚めたら、セミロングの大好きなツインテ美女が2人揃って僕の顔を覗き込んでいる。

片や焦点の定まらない目をしたエリス、片や(胸は薄いが)理知的な顔つきのミユリさん。


ココは?僕の世界…だ。

ああっ、と逝うコトは!


「テリィ様は、女子トイレの中で気を失っておられたのです。でも、何で女子トイレ?」

「ウチの女子トイレ、好きなの?変態なの?」

「とにかく、通報をありがとな。お陰で"超古代解放戦線"の精鋭『チームオリオン』を一網打尽だ」


あ、最後の台詞は万世警察の鮫の旦那だ。

ココはエリスの御屋敷(メイドカフェ)"ノーシグナル"。


散乱するイスやテーブルを避けるようにして"チームオリオン"の3人が連行されて逝く。

先頭のリーダー格に続く背の低い女(恐らくキフネ)の太腿のホルスターは…空だw


しかし、新橋から転勤以来、鮫の旦那も手柄が続いて結構なコトだ。

そのほとんどは僕達が通報したお陰なんで、ソコのトコロよろしく。


「自由ジョーモン、バンザイ!」


背の低い女(恐らくキフネw)が叫ぶ。

僕達は一斉に中指を立てて応える←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


さて、何から話そうか。

先ず、邪馬台国青森論。


魏志倭人伝には、邪馬台国の位置が記されているが、方位か距離かどちらかが怪しい。

方位が変と思う人は邪馬台国は畿内と信じ、距離が妙と思う人は同じく九州と確信する。


ところで、僕が青森の観光大使だった頃、県立美術館にフェルメールの名画が来県する。

写実的な彼の絵の背景には、よく地図が描かれるが実は南北が逆転しているものが多い。


地図の上が北になったのは、つい最近のコトでフェルメールの頃は上は南だったんだね。


中には世界地図もあって東の果てに描かれている日本も見事に南北が逆転している。

この南北が逆転した日本地図で魏志倭人伝のルートを辿ると何と青森に邪馬台国が!


フェルメールの絵に隠された邪馬台国の秘密!

何とも日本人好みのミステリー風仮説になる。


もちろん、魏志倭人伝とフェルメールでは、時代も全然違うんだけど「っぽい」だろ?笑

早速、青森デビュー作「青い森の白い雪」の中で僕はミステリー仕立てで仮説を御披露。


そのお陰?か県立美術館のフェルメール展は成功し連日お客が絶えない大当たりを取る。

あ、あと「青い森の白い雪」には「青森のオリオンミステリー仮説」も盛り込んでいる。


オリオンミステリーとは、エジプトのギザのピラミッド他の3ピラミッドが、オリオン座の三ツ星と似た配置だと指摘する仮説だ。


僕が機上でこの本を読んでいる時、ちょうど眼下に青森市郊外の大森山、観音山、貴船(キフネ)山の3山がオリオンの三ツ星のように並んで…


コレが「青森のオリオンミステリー」の全貌だ(因みに貴船山が1番低い)。

超古代解放戦線の連中は、ココから精鋭チームの名を取ったに違いない。


でも、いいかな!念のために逝っておくけどコレ、みんなネタだから。

良い子は本気にして武装NGOとか作って蜂起しちゃダメだぞ!約束だ←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌日の夜(と逝うか、もう朝だw)、御屋敷(メイドバー)を閉めてから僕はミユリさんとアフター。

あ、アフターと逝うのは、閉店後の店外デートのコトだけど逝き先はファミレス。


だってココはアキバ。

銀座じゃナイからね。


結局、僕は僕の身に起こったコトの全てをミユリさんにだけは包み隠さず話してみる。

彼女は、モッツァレラトマトドリアを食べながら、僕の(バカげた)話を聞いてくれる。


彼女は、話を聞き終えてから、ニッコリと微笑んで1つだけ質問をしたが、それ以来、その夜の出来事に僕達が触れるコトはない。


僕は僕で、誰かに話せて気が楽になったからマァいいや、と思ってルンだが、その過程で実はウッカリ彼女に吐露(とろ)したコトがある。


ソレは、僕自身が、現実の世界から逃げ出したくなって、実は自ら進んで円筒印章に触れてしまったと逝うコトだ。


今の世界に奴さえいなければ、アレさえこうなっていれば!

僕達は、いつもそんなコトばかりを考えて生きているょね?


でもさ、そんな時に、もし僕達の目の前に、あの円筒印章が現れたとしても、別の世界に逃げたいとか"一瞬"でも考えちゃダメだ。


だって、今の世界でやれないコトなんかないし、どんな困難に見えても、必ず何かを成し遂げられるからね。諦めさえしなければさ。


ソレが僕がこの次元?旅行で学んだコトだ。


え?ミユリさんの質問?あぁソレはね…毎度ながら、彼女は鋭いトコロを突いて来るw

そもそも、ミユリさんが微笑みつつ小首を傾げた時は要注意なんだが…彼女は聞くのさ。


向こうの世界でも、私はお気に召しましたか?



おしまい

今回は、青森で発掘された三内丸山遺跡と同時期の円筒印章をめぐり、それを展示する青森県庁の役人、妨害する過激な環境NGOのテロリスト、パラレルワールドでそれぞれ性格が真逆になっている常連の登場人物などが登場しました。


青森県の文化観光大使を拝命し、当時、県庁の方々と「超古代ミステリー系の観光おこし」を議論した内容が題材となっています。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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