神子と教会④
教会に捕まって数日、夜毎にラフィスタ家の誰かが来て話をしていった。
マリアベル姉様、レイン、ゴードンさん
夜の会話が無かったら私はきっと取り乱していた
生活に不足はない
真っ白なシーツ、暖かいベッド、豪華な食事、柔らかいソファー。
でも部屋からは出られない
誰も信用出来ないし、必ず一日に一回大司教が来て話をしていく。
「神子様、貴女は世俗に毒されている」
「聖国へ行き、神に仕えるべきだ」
何もしていないのに疲れていた
大司教の言う事は嘘だらけだ
世俗に毒されていると言いながら、貴方の指にある宝石のついた指輪は何?
神に仕える? それを言う貴方は心から仕えているの?
聖女アリスさんのように正面から私を嫌う人は居た。
領地で家族を亡くした人が、神の子なんだから生き返らせて、と嘆きをぶつけられた事もあった。
全部を理解出来るとは言えないけど、何となく共感は出来る
仲良くなれる人、そうでない人
大事な人が死んだら、どうにもならない気持ちを吐き出したい、生き返らせたいと思う。
私だってお父さんとお母さんを生き返らせたいと何度思ったか・・・
なまじ時間があるからあれこれと益体のない事をグルグルと考えて鬱々としていた
散歩も出来ないし、本をただ眺めるだけの日々
自由が全くない事で多分イライラしていたんだと思う
一度無理矢理外へ出ようとした事があった
シスターが部屋に入って来るのを見計らって廊下へ飛び出した。
勿論そこには神殿騎士が三人、大人しくしていた私が突然出て来て驚いたのだろう、口を開けて捕まえようともして来なかったから、そのまま歩きだした。
「お、お待ち下さい神子様!」
慌てた様子の騎士が進行方向を塞ぐ
神子の私に触れていいものかと立ち塞がっている
後ろも同じく塞がれた・・・
結局シスター複数人が呼ばれて部屋に連れ戻された
大司教が部屋に来て説教をする
「神に仕える事の何が不満なのです!」
「私は教会に入るとも神に仕えるとも、一言も言っていません」
「神子様、貴女はどれだけ恵まれた立場か分かっていない」
「恵まれている事は理解しています、しかしそれはラフィスタの地が与えてくれたもので、貴方や教会から戴いたものはありませんよね、まるで教会が与えたような言い方は心外です」
ラフィスタ領民の税金で今の私は暮らして来た
教会からは何も受け取っていないし、贈られても返している、寧ろ領内で言うなら孤児院に寄付をしているのだから
関係としては逆だ。
私は聖女アリスとは違って賄賂は受け取っていない。
「ぐぬぬ・・・」
「私だってやりたい事があるし暇でもないんです、早く出してくれませんか」
「いいえ!いいえ!神子様には明後日、神婚の儀を受けて戴きます!」
大司教は名案だとばかりに、苦渋な表情から一転、笑いながら言った。
「神婚の儀?」
「ええ、ええ!そうですとも、神に嫁いで貰いますよ!」
「嫌ですが」
「貴女の意思など関係ない、これは決定です」
「婚約者居ますし、断ります」
「ははは!婚約者? 神子様は何も分かっていない! 教会が認めない限り婚姻は結べません」
・・・言われると思った。
婚約は家と家の契約で王家の承認によって成る。
婚姻はその上で教会の承認を得られないと成らない。
そんな事は分かってた
神子の私を欲する教会が、私の婚姻に許可を出さない事ぐらい。
でも、それも解決している
領都にある教会のおじいちゃんなら、と手紙を送った結果
「良いよ、ウチで許可出すから」
と返信があったのだ、
想いを交わしている幸せな男女の婚姻を妨げるなんて、それこそ神罰を下されてしまう。
孫のように思っていたマリアちゃんも結婚か・・・
などと、親身になって協力を約束してくれたから
今更大司教に「婚姻の許可は出さない」なんて言われても困らない。
て言うか、後ろに数人のシスターが控えているのに大司教様ともあろう人がそんな事言って大丈夫なの?
神子は教会に入らないと言っているのに
それを強制
しかも、婚姻の許可を教会都合で出さない、なんて
教義の詳しい内容は知らないけど、明らかにシスターさん達の顔色が変わったんだけど。
「そもそも、顔も知らない、会ったこともない相手と結婚する訳ないじゃないですか、プロポーズされても無いし、まあされても断りますけど」
私の言葉に静かに控えていたシスターの誰かが「確かに・・・」と小声で納得していた
大司教は顔を真っ赤にして言う
「な!神に対して不敬な!」
「そんな不敬な神子は神には相応しくありませんね?」
また「確かに・・・」と言う声が聞こえた
うん、イライラしていたから言い返していたけど、少し楽しくなってきた。
や、そんな状況ではないんだけどね?
「あと親と結婚する訳ないですよね」
「は?」
私の言葉に大司教もシスター達もを丸くして驚いた
「私の立場は神の子なんですよね? なんで親である神と結婚なんですか? 普通に考えてしませんよね?」
結婚の邪魔をする存在が神なんて言えるのですか?
私の幸せを邪魔するのが?
そこまで言うと大司教は顔を真っ赤にして部屋を出て行った、シスターも思う所があったのか暗い表情で居なくなった。
次の食事からロールパンひとつと少しのスープだけになったけど、元々食事は喉を通らなかったから大して気にならない。




