神子と教会②
シスターが部屋を出て行って30分、戻って来ない。
ガチャリ
漸く話が出来ると開いた扉を見ると、同じシスターが食事を用意し始めた
「あの、話は」
「食事後においでになると・・・」
お腹は空いている
駄々を捏ねても今すぐは来ないのだろう、大人しく従うしか無かった。
並べられた朝食は豪勢な物だ
質、量、共に貴族の食事と言って差し支えないもの
飲み物も水、果実ジュース、ワインまで用意されて至れり尽くせり
だけど楽しくない
一人で食べるのは何時以来だろう
味気無い。
結局、箸が進まずパンを一つとスープだけ口にして食事を終えた。
閉じ込められた状況で食事を楽しむほど、私は図太くない
食事からたっぷり1時間以上空いて、その人は現れた
「はははは!神子様御機嫌よう」
大司教だ、それはもう上機嫌の様子でソファーにどっかり座り話し始める
帰りたいと伝えても、それは出来ないの一点張り
なんと現在王都内に魔物が侵入していて、その為に国王陛下が外出禁止令を出しているらしい。
神子様の安全の為にこの部屋から出す訳にはいかない
この部屋は奥の院、特に厳重な場所で教会関係者でも極一部しか立ち入り出来ないから安全だ、と言う。
ならばと、ラフィスタ家に連絡を
かしこまりました。
手紙も出したい
紙とペンを用意させましょう。
といった具合にこちらの要求を聞くものの
部屋からは出られないし、連絡も手紙も私から先へは届くかどうかも不明。
ううん、きっとラフィスタ家に届く事は無い
この人を信頼なんて出来ない
王都に魔物が入り込むなんて有り得ないし
そんな状況ならゴードンさん達は必ず最優先で私を保護する
元々教会とは距離を取ると言っているので、緊急時の保護と言っても朝イチで迎えに来る筈なのだから。
結局暖簾に腕押しで、どうにも出来なかった・・・
大司教の目的も分からず、部屋に一人残される
仕方ないから現状を紙に書き出した
私は教会に閉じ込められている
外の状況は分からない、連絡も取れない
目的が分からない
・・・・・・以上。
魔物やら、外出禁止令の話は本当かどうか確認出来ないので除外
ここまで隔離されると、そもそも私を保護したと言うのも怪しく思える。
出来ることは、無い・・・
ただ待つしかない、そう思ったけど意外にも事態が動くのは早かった。
その日の夜、状況が状況でそんな簡単に眠れる訳もなく
枕を抱きしめてベッドの上に座っていると・・・
「(マリア様)」
「えっ!?」
小声で私を呼ぶ声、周囲を見ても人は居ない
当然だ三階の密室に出入り口は固められているんだなら人なんて・・・
フワッ、・・・トン
居た。
屋根裏からレインがいつもの侍女服を纏って静かに舞い降りた。
「ッレ」
「シーー」
ついレインの名を叫びそうになったけど、寸での所で抑えられた。
口の前に人差し指を立てたレインに、私はコクコクと頷いた。
寝室からリビング、廊下へと続く扉には騎士が居る
私達は声を抑えて話し始めた
「マリア様、お怪我は」
「大丈夫、レインは?」
「マリア様に治していただいたので大丈夫です、それより手短にお話させていただきます」
「うん」
レインの話によると、今の状況は全て父様とシロさん、国王陛下の手の上らしい。
襲撃も予期されていて、あの襲撃は教会の一派が画策した
私を保護という名の監禁をしているのもその一環。
ガウェインさんも離脱時に掛けたヒールが効いて怪我は完治、ゴードンさん達に怪我人は居ない。
唯一の誤算は私とガウェインさん、レインの怪我だった
護衛を襲撃するのは当然、身の回りに居た人間も、というのは分かる。
そういった意味では二人の怪我は可能性として考慮していた、でも私に関しては攫いに来ているのに中規模以上の魔法を直撃させて来るとは思っていなかったらしい。
捕まえた魔法使いの話によれば
手元が狂った、との事だ
嘘みたいに聞こえるけど、神子様に怪我をさせてしまったと顔面蒼白で祈り続けているから本心らしい。
「マリア様、窮屈かと存じますが今暫くお待ち下さい」
「う、うん、それは大丈夫だけど」
「長くても1ヶ月、恐らくは1週間の間に事態は動きます」
レインの話し方だと何か起こるのは確実
「これから教会でとある儀式が行われます、その時シルヴィー様が助けに参りますので、マリア様は信じて受け入れて下さい」
「うん? 何もしなくていいの?」
「はい、詳細はちょっと」
私は内容を知らない方がいいみたいだ
外ではラフィスタ家から教会に対して、私の身柄を返すようにと再三の申し入れをしているが
神子の私を危険に晒した家には預けておけないと突っぱねているらしい。
そもそも私はラフィスタ家に籍を置いているから、滅茶苦茶な理論だ。
力づくで取り返す事は容易だけど、それでは後々にまで禍根を残す。
その為、今後二度と教会が私とラフィスタ家に関わらないようにする計画を実行中なのだとか。




