騎士、神子の部屋に入る。
侍女に案内されマリアの部屋に通された。
部屋にはマリアの姉マリアベル嬢も居たが
「マリア、後で話を聞かせてね」
と言い残し、こちらを見てニコリと笑って出て行った。
部屋は彼女の印象に近い
淡いピンクが要所に散りばめられていて可愛らしくも落ち着いた様相だった
そう言えば令嬢の部屋に入るのは初めてだな・・・
そんな事を考えている内に、侍女は紅茶を置くと部屋を出てパタリと扉も閉めて行った。
待て待て待て
未婚の女性の部屋に、異性と二人きりは有り得ない
必ず誰か立ち会うか扉は少し開けておくのがマナーだ
これでは密室で何をやっているのかと思われてしまう
試されているのか?
「——なんですけど、ガウェインさん?」
「ん?」
しまった、聞いてなかった
「あの父様はなんて・・・」
「大丈夫許しは貰った、これからは婚約者として宜しく頼む」
「———! はい、宜しくお願いします」
本当に嬉しそうに笑う彼女はとても眩しい
特にいつもとは違って、少し肌を出している服装は家に居るからなのか、肩出しのワンピースは目の置き所に困る
レース編みの肩がけを羽織っているが透けている。
「くっ」
「ガウェインさん??」
今更彼女の女性的な魅力を意識してしまうなんて
いや、伴侶として望んだのだから何れは・・・、って俺は何を考えているんだ!
「あーっと、マリアはこれからどうするんだ?」
わざとらしく振った話を気にした様子もなくマリアは話した。
今後は魔法だけに頼らず薬師としてやっていきたいのだと言う
元々ラフィスタお抱え薬師の元で回復薬を製作していたが時間を見付けては勉強を重ねて来た
その薬師からの推薦状とこれまでの回復薬と霊薬提供の実績を以て、近く薬師資格の申請を行なうと彼女は語った。
彼女のそういった姿勢がラフィスタ辺境伯領の医療の向上の一端を担っているのだろう
優しい・・・、いや慈愛の心を持つマリアにピッタリの仕事だと思う。
逆に俺は一度騎士を辞めてラフィスタ家の世話になるのだから
母の言った「マリアちゃんに捨てられないようにしなきゃね」といった言葉は、ある意味で的を射ている表現だ。
ガウェインさんは? と聞かれたので、今後騎士団を辞めてラフィスタ家に入る事になると言うと、やはり彼女は申し訳なさそうに謝った。
騎士、しかも副団長までなった人を振り回してごめんなさい、と。
「マリア」
俺は立ち上がり、彼女が座る横に腰掛けると肩を抱いて言い聞かせる
「マリア、俺は騎士団は辞めるが騎士を辞めるつもりは無い、いいか?騎士とは在り方だと俺は思っている、これまでは国を守る為、これからはマリアだけの騎士になる」
「私、だけの?」
意味を捉えかねているのか首を傾げているマリア
「ああ、俺は君だけの騎士、だが世間ではもっとわかりやすい言葉がある」
「え?」
「夫婦だ、夫として妻を守らせてくれ」
「あ、うう・・・」
自分でも恥ずかしいことを言っていると思うが、マリアが笑ってくれるなら俺の恥などどうでもいい。
見えている肌を全部赤く染めた彼女は「はい・・・」と小さく頷いて微笑んだ。
いつの間にか唇を重ねていた
ドレスの様にコルセットを締めているわけでもなく、乗馬服の様に革を使っているわけでもない
部屋着に近い薄着の彼女から甘い香りと温もりが伝わって来て俺はやられてしまった。
止め時が分からなくなって何度も何度も啄むようにしてしまう
「ん・・・、ん・・・」とマリアから漏れる甘い声が更に理性を溶かしていった。
トントントン
言葉のなかった部屋にノックが響き渡った
マリアは「ひゃいっ」と小さく飛び上がり、ソファーに置いてあるクッションを抱きしめて顔を埋めた。
「お待たせしました、旦那様と伯爵様の話が終わ・・・」
「・・・」
「・・・」
マリア専属侍女のレインさんが呼びに来たのだ
クッションをギュウギュウ抱きしめて顔を伏せている真っ赤な果実、マリアを見て「ああ・・・」と1人納得した様子の彼女は黙ってぬるめの紅茶をいれ、5分後にまた来ますと言って部屋を出て行った。
今度は扉を少し開けて
騎士団で鍛えられた精神は女性の前では脆く儚いものだった
何本も何本も撚りあわせて作り上げた理性という名の糸は、残り1本の繊維を残してブチブチと引きちぎられた気分だった。
その夜ガウェインは落ち込んでいた
我欲に負けて押し倒さんばかりに婚約者に手を出してしまったと。
そして、騎士のお悩み相談室の開催が決まった。




