神子と湖畔の町②
「う、わあ・・・、綺麗」
目の前に広がる湖は、想像より遥かに大きく透き通った水を静かにたたえていた。
サアア・・・、ひんやりとした風が頬を撫でる
湖畔公園は殆ど人の手を入れていないらしい
ただ、町には定数の騎士団が常駐していて安全を確保している。
「いい所だろう?」
「はい!」
湖の縁をゆっくりと移動する
ポクポクとエルネーが歩く足音と、吹き抜ける風、小鳥の囀りくらいしか音がない、とても静かで長閑だった。
ラフィスタ領を思い出す
「あそこが丁度良さそうだな、そこにしようか」
並木道から少し外れた一本の木の下まで来ると
エルネーから下りて、載せて来た敷物を敷く。
町で購入した食べ物と飲み物を詰め込んだバスケットを置いて準備完了だ!
ガウェインさんは愛馬エルネーの手綱を外して放った
なんと指笛ですぐに帰ってくるとか。
シルヴィーも一緒に駆けて行った
シルヴィーならお腹が空けば帰ってくるし、いつも持っている犬笛でも帰ってくるから心配は要らない。
ブーツを脱いで座るとガウェインさんも隣に腰を下ろした
特別口を開く事もなく肩を並べて風に身を任せる
気まずくもない、静かに一緒に居るだけでも心地いい。
王都の様に賑やかな所を見て回るのも楽しいし、どちらかのお屋敷でお茶をするのも良い
ダンスのお誘いはまだだけど、その内・・・
「少し早いけど温かい料理もあるし食べようか」
「そうですね」
療養地、別荘地だけあって町で売られていたのは果物や消化に良さそうな料理が多い
堅めに焼かれたパイ生地を器に、具材をトロトロに煮込まれたシチュー。
水筒に入れられたハーブティー、茶葉を練り込まれたパン
肉汁タップリの串焼きは申し訳程度の香草が添えられているけど、まあ健康志向の食事ばかりでは楽しくないしね。
いただきます!
食事はとても美味しかった
特にシチューは舌の上で具材が溶けていく程の柔らかさでまた食べたい。
こういうピクニックみたいに食べる時の美味しさって格別だよね。
少し休憩をして腹ごなしに湖沿いを歩く
水は本当に透明で底まで見えた
ガウェインさんと手を重ねてジャリジャリと砂と小石の地面を踏み締める。
ぽつぽつと話す、騎士団の事、家族の事、これまでとこれからの事。
「マリア、この間の事なんだが、」
「この間?」
「城の薔薇園で」
「あ、はい、そう言えば話の途中でアリスさんが来て、聞けませんでしたね」
庭園で薔薇の花束を渡された時にガウェインさんは何かを言おうとしていた
横からアリスさんが抱き着いて来て会話は途切れ
私はシルヴィーに足を掬われて転びそうになった所をガウェインさんに支えられて、何故かお姫様抱っこで運ばれる自体に・・・
あの時は確か「マリア、良ければ俺とこん・・・」
と言った所で邪魔されたんだ。
こん、てなに?
繋いだ手とは別に空いている手を持ち上げられる
ガウェインさんの両の掌の上に私の両手を重ねた状態になって、正面で向き合った。
「マリア」
真剣な声色、眼差しとぶつかった。
「俺では不足かも知れないが婚約を結んで欲しい、君のことが好きなんだ」
「——————!」
婚約っ、こんって、婚約を申し込もうとしてたのっ!?
わ、わ、それに好きって・・・
顔が、体が一瞬にして熱くなった、私今真っ赤になってるよね、返事しなきゃっ
「はい、あの、私もガウェインさんの事が好きです、宜しくお願いします」
私の返事にガウェインさんは真剣な面持ちを崩した
真剣というよりは強ばっていたと言うのが正しいかも知れない、いつもの暖かい笑顔になって手を引かれ、逞しい腕の中に閉じ込められた。
「あ」
「マリア」
胸元から顔を上げると間近にガウェインさんの顔があった
何も言わずとも雰囲気を感じて私は目を閉じる。
唇に柔らかい感触、幸せを感じた。