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辺境の神子は静かに暮らしたい。  作者: EVO
第三章 平和、そして2度目の王都。
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閑話 聖女、そして大司教。

「神子様、先日お忍びでデート為さったそうよ」

「知ってる、第一騎士団のガウェイン様とでしょ?」

「はー、やっぱりデビューの日に神子様のお世話をした侍女の話は本当だったのねえ」


城に勤める侍女の情報は早い

何故なら彼女たちは貴族だから

恋人や婚約者の居る相手に近付いて、知りませんでしたは通らないと知っている。


結婚適齢期で城の中でも優良物件の騎士ガウェイン

その相手と目される人物が天上人と言っても過言では無い存在、神子ともなれば余計に。


「で、で?」

「ガウェイン様から髪飾りを贈られたそうよ、瞳の色の宝石の・・・」

「まあ!」

「神子様はどうなさったの?」

「毎日、身に付けているそうよ」

「素敵な話ねえ、私も素敵な恋人が欲しいわ」

「婚約は?」

「まだだけど、時間の問題でしょうね」



キャッキャッと使用人専用の食堂で

今注目のカップルの恋バナに興じるのは数少ない娯楽だった。

少し興奮して声が大きくなったのも仕方はない。





通り掛かった聖女アリスが聞いていたのは


「何なの!神子神子神子神子っ」


成人を祝うデビューの舞踏会、あの日は神子もデビューすると毎年行われていた規模より遥かに豪華なものだった。


舞踏会の日の午前中、偶然廊下で出会った神子はどこにでも居る日本人だ、黒髪黒目。

自分は母親が外国人だった事もあって色素が薄く、黒くはない、たったそれだけの差でここまで対応の差が出るのかと嫉妬していた。

同じ日本人、聖女召喚なんてラノベなら成功者の代名詞なのに。


町娘が着るような大して上等でもない服で城に来ていたマリアを馬鹿にして溜飲を下げたつもりのアリス


だが、舞踏会の会場には入らなかったものの玉座の脇までは来て神子と呼ばれる存在がどういった盛装に身を包むのかは興味があり、近衛騎士団長に我儘を言って見に来ていたのだ。

そこで見たのは、

聖女と持て囃される自分でさえも数える程しか「見る」事しか出来なかったレベルのドレスにアクセサリー

それを身に付けた神子マリアだった。





ズルイ





あれは王妃クラスでないと手に入らない

特に、あのティアラだ

銀? いやプラチナ? それに大きなダイヤモンドをふんだんに使ったあれは・・・

自分の時は聖女専用の立派なアクセサリーがあったけど、あのティアラを見てしまうと完全に色褪せてしまう。

ドレスも同様だった



アリスは召喚されてから自分に都合のいい話ばかり聞くようになっていた。

思春期である15歳で召喚、両親からの小言を煩いと思っていた矢先の出来事。

反抗期、普通に人生を送っていればなんて事ない時期に

王侯貴族並みの処遇は彼女が歪むのに十分な誘惑だったのだ。

窘めようとする者も居たが、何も知らないアリスを利用しようとする侍女の言葉はアリスにとって都合が良かったので、そちらを疑うことなく受け入れた。


結果、彼女に真に寄り添う友人は居らず、毎月貢いでくる教会と懇意になっていく

本来なら世話人の第一王子コーディーが教会との線引きをすべきであったが、アリスに一目惚れしたコーディーは甘やかすだけ甘やかしてしまった。

当時15歳で優秀()()()第一王子は、見る間に身持ちを崩した

女に溺れるなんてありふれた話、国王王妃共に何度となく王子に言い聞かせたが改善される事はなく23歳になっていた・・・



「あ」

アリスは先程侍女が話していた内容を思い出した

神子は第一騎士団のガウェインと付き合っているようだと


彼女の口が歪んだ、その顔は凡そ聖女と呼ばれる存在がしていい顔ではなかった。


アリスは第一王子コーディーに会いに行き、言った

「ねえコーディーお願いがあるの、第一騎士団の———」




——————————————————————————



「何なのだ!あれは!」


教会の奥の間、迎賓室で大司教は荒れ狂っていた

怒りを露わに机に手を叩きつける様は神の教えを説く大司教とはかけ離れた姿である。



神子マリア・ラフィスタ

報告では穏やかで善良、分け隔ての無い心根で平民貴族関係無く扱う少女。

貴族のような権威を匂わせる振る舞いは殆ど確認されていない、そして感情は基本的に分かりやすい

詳細はラフィスタ護衛の結界に阻まれて調べ切れていないが

彼女自身は異世界で平民として生きていたと聞いていたので、少し黄金の輝きでも見せてやれば簡単に靡くだろう聖女のように・・・



などとマリアを安く見積っていた大司教

今日唐突に教会に現れた神子に慌てたが、元々いつでも都合の良い時に来て良いと手紙を送られていたので大きな問題は無かった。


だが実際に会った神子は情報とは掛け離れていた

挨拶をしても目どころか顔も合わせない

緊張? または引っ込み思案なのかと見るも、それも違う

意図的に視線を外されている

差し出した手も一瞥して握手さえ出来ない


事前の情報では町娘と言って差し支えない人物だと思っていたが

目の前の少女は間違いなく()()であった

感情を抑制し、口にはしないが友好を深めるつもりは無いと完全に拒絶した態度。



場所を変えようと提案しても神の前で言えないのかと問われれば、そんな事は無いと答えるしかなかった

黄金を見せて、何とかとっかかりを得ればと目録を出しても一蹴

まだ「この程度では足りない」と言われた方が余程取っ付きやすかった、この目録だけでも並の貴族の資産は超える額だが、倍を払ってもすぐに取り返せる目算があったのだ・・・


それを「不要」と言い切った少女

この時点で薄々思い始めていたが、教皇様からの指示と考えれば引くことは出来なかった。


どうにか言い募って護衛の男が受け取った

ホッとしたのも束の間、よりにもよって司祭に寄付として預けてしまった、くそっ!!!

それは我ら聖女派の物だ!

だが返せとも言えない、神子様が寄付すると渡したのだからここで取り返せば神子様の顔を潰してしまうし、完全に決別してしまう。

怒りと焦りで真っ赤になっている間に神子様は立ち去っていた


しかもこの司祭

「神子様は素晴らしいお方ですね、寄付、有難く頂戴致します」

と言って笑いやがった!くそっくそっ!!



自分が今一度会っても上手くは行かないだろう

金や地位では動かない、どうする?


「あ」


そうだ、神子と同郷の者が一人居るではないか・・・

アレなら少なくともこちらの要求は聞き入れて動いてくれるだろう、それだけの対価は支払ってきたのだ。

こういう時こそ対価分の働きはして貰わなくては困る。

世界で唯一の同胞の言葉だ、無条件にとはいかないまでも楔にはなるだろう。


勝ち筋を見つけたとばかりに大司教は早速面会の手続きに手紙を書き始めたのだった・・・







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