神子の王都散策。
ガウェインさんに手を引かれて来たのは生鮮市場
王都と言うだけあって各領地の特産品を取り扱う店が並んでいる
その規模はラフィスタの領都とは比べ物にならないくらい活気に溢れていた。
領都も最近は人が増えていたけど、王都の立地は各地からの物流の中心地なので人も物も兎に角沢山集まっていた。
林檎をとっても同じ銘柄でさえ土地が変われば風味が変わる、オレンジも買って店先で切って食べた。
「甘い」
「マリア、こっちも」
ガウェインさんが横からオレンジを一欠片差し出して来たのでいただく
「ん!美味しいです、ガウェインさんもどうぞ!」
「あ、ああ、・・・うん、美味しい」
「おやおや随分仲睦まじい夫婦だね、新婚かいお嬢ちゃんお兄さん」
「ふうふ!?」
「女将、俺達は夫婦では・・・」
「おや、そうなのかい? 何処からどう見てもお似合いの新婚さんだよ?」
男女がピタリと肩を寄せあって果物を食べさせ合っていれば誰でもそう思う、と女将さんはおしぼりを渡しながら豪快に笑った。
ふ、ふうふ・・・
ガウェインさんの方を見るとパチっと目が合う
「っ!」
目を逸らされた、まあ私も逸らしたけど・・・
「つ、次行こうか」
「はい・・・」
ちょっぴり気まずくなってしまう
でも、ガウェインさんは変わらずギュッと手を握って引いてくれた。
穀物、魚、お肉、乳製品、野菜に薬草、見たことの無い物も多い
あっちへこっちへと覗いては歩く
奥の方へ進んで行くと直売所と屋台、飲食店を兼ねているお店が多くなってきた、そこかしこからいい匂いがしている。
流石にお昼までは早いし、果物を摘んだばかりなので
1度引き返して今度は小物や雑貨のお店が建ち並ぶ区域へと
来た。
貴族街だと高級品店しかないけど、此方はお手頃な物を主に扱っているようだ
「あ、これは」
「ん?」
「簪だ」
「カンザシ?」
「はい、えーっと、東の果ての国の髪飾りです」
お茶会や夜会に着けて行くにはラフ過ぎるけど
家の中に居る分には簡単にまとめられて楽なんだよね・・・
「気に入ったなら買おうか?」
「え!?いえ、流石に高くて申し訳無いですから」
簪は作りもしっかりしていて安くはない、プレゼントとして貰うには遠慮したい程にはいい値段だった。
そっと元の場所に戻す
「失礼致しますお嬢様、こちらなど如何でしょうか」
店員さんは私の髪が気になったみたいで、サッと椅子を用意。
有無を言わさず座らされて、髪を櫛で梳きながら違う簪をあてたり、他にも高そうな物をアレコレと合わせてくる
あまりの押しの強さと素早い行動に私も、そしてガウェインさんも呆気に取られた。
「綺麗な御髪ですね、やはり神子様に憧れて?」
「ア、ハイ」
本人ですけどね・・・
「本当にお美しい、どういった染料をお使いになっているのですか?」
「アー、エー・・・」
染料と言うか、自前の髪色なんです・・・
「こちらはどうでしょう? お似合いですよ」
いやいや、彫金が細すぎるしダイヤモンドとか大きいの着いてるよ・・・
寄った店で、はい買いますって代物じゃない。
押しの強さに負けそうになりながらも、なんとか断りを入れて髪紐数本買う事で抑えた・・・
隙あらばガウェインさんに買わせようとするし油断出来ない店員さんだ。
「彼氏さん、彼女さんにこちらなんて如何でしょうか?」
って、彼氏じゃないからね!? もう!
但し、店頭に並んでいたお値打ち品とは別に
奥から出して勧めてくる物はとても良い物も多い、母様も姉様も好みそうな装飾もあるし、1度お屋敷に来てもらう事になった。
決して押しに負けたわけじゃないよ・・・
「では後日お屋敷に伺わせていただきます、失礼ですがどちらの御家でしょうか?」
「ラフィスタ辺境伯家に」
「えっ」
「えっ?」
「あっ」
「・・・」
店員は店に入って来たガウェインとマリアを見て
何処か良いところの令嬢、若しくは裕福な商家の人間だと当たりをつけていた。
二人の服は庶民が着るような仕立てではない
立ち居振る舞い、雰囲気、そして腰に届こうとする長さの髪、先ず普通の労働者層ではないと。
マリアが簪を手にした所で確信した
簪は高級品である、基本的には庶民をターゲットに求めやすい価格の物を置いているがいくつか高級品も置いてある
簪もそのひとつ。
そして家名は・・・
「ら、ら、ら、ラフィスタ辺境伯けっ!?」
とんだ大物、名家の縁者が来たと飛び上がる
幸い、店内には他の客は居ないので問題は無かった
あれ?と思い直す店員
「ラフィスタ辺境伯家、の、黒髪・・・?」
思い浮かぶのは1人しか居ない、
「あわわわわみみみみみみみ・・・」
「耳?」
「神子さむぁっ!?」
「ア、ハイ、ミコマリアデス、ドーゾヨロシク」
マリアはもう慣れたもので、サラッと名前を名乗る
店内に自分達以外は見えないので特に隠しもしない
何度か「神子様!?」と叫ばれて、人が集まり大騒ぎになった事もあるので、この程度の驚き具合は日常だった。




