神子と縁談。
ガウェインさんとダンスをもう一度踊るには、
レインに相談したら簡単ですよとレインは言った
「通常の作法に則ってお誘いすれば良いのです」
「でも、ガウェインさんが夜会苦手だって知ってるし・・・」
「ですが言ってみなければ分からないでしょう、これまでガウェイン様に特定のパートナーが居た事は無いと聞いております、ですが魔物と瘴気対策に一区切りついた現在、国としても騎士への恩賞のひとつとして後押しするというお話がありますので必ずしも断られる事はないと思います」
「う、うん」
「気が引けるのなら、単純にダンスの練習をお願いするのは如何でしょう? 個人的なお茶会と合わせても良いと思います」
確かに苦手って言っていた夜会に誘うよりはハードルが低い気がする
うん!
「分かった、ありがとうレイン、もう少し考えてみるね」
「はい、お役に立てて良かったです、さ、マリアさまお着替えを」
「うん、いつもありがとう」
レインに着替えを手伝ってもらい、朝食へと向かった
そして朝食後に父様が深刻な顔で言った
「マリア大切な話がある、ひと息ついたら執務室へ来なさい」
「はい」
普段、私には向けられない貴族当主の顔で言った父様
「来なさい」なんて絶対に言わない父様の口調から、余程大事な話があるのだろうと気を引き締めて執務室へと行った。
トントントン、とノックをする
「マリアです」
「・・・うん」
「・・・」
中からため息混じりの父様の声
でも、入れともなんとも言われない
「父様?」
「ああ、入って良いよ・・・」
ガチャリと執務室に入ると正面には執務机
座席に座る父様と横に控える母様が居た。
そして・・・
「なにこれ?」
執務室には所狭しと何かの冊子が大量に積み上がっていた
色とりどりの紙や布、金ピカ、宝石がくっ付いたものなどそれはもう多種多様な装丁。
本とは呼べない厚さ、でも書類と言うには厚みのあるものが執務室にミッチリと・・・
母様は苦笑、父様は面白くなさそうな顔をしていた。
「ふうー・・・、マリア、既に目に入っている通り、話とはこれら冊子の事だ」
「はい、父様何ですかコレ?」
たっぷり、それはもうたっぷりと溜めに溜めて父様は言う
最後は母様に脇を扇でつつかれていた
「縁談の釣り書き・・・」
「?、全部ですか?」
「全部だ」
「マリア、これは極一部よ」
「・・・なぜ?」
驚きというよりはぼう然といった感情の方が強い
執務室に積み上がっている冊子だけでも数百はくだらない数
それが極一部で、私に大量、いや膨大な縁談の話が来ているのだから。
「昨夜、マリアは成人してデビューしたからね、これを機にと国内外の王侯貴族から殺到したんだ」
「ええ・・・、昨日デビューなのに国外からも来てるんですか?」
辺境にしたって片道2週間掛かるのに・・・
「昨日デビューと知っていたから、既に昨夜時点で王都内にコレらはあったんだよ、早い物だと昨夜帰宅と同時に届いた物もあった、大半は朝一番だけどね」
「極一部って、残りは・・・」
「マリア、第3衣装室は分かるわね?」
「はい」
「あそこが釣り書きで埋まるくらいには来ています」
「えっ!?」
貴族は大量の服を所持する、特に女性はドレスを
ラフィスタ家では母様、姉様、私の3人分でかなりのドレスが保管されているのだけど
衣装室というのはウォークインクローゼット、部屋自体をドレス置き場にしている部屋で
第3衣装室は30畳くらいの大きさの部屋だ。
それが埋まってる?
自分でも顔がひきつったのが分かった。
「え、と、見ても?」
「ああ」「勿論」
取り敢えず、執務机の1番上にある金色の冊子を手に持っ、
「重い!? えっ! 金箔じゃなくて純金製!?」
冊子の表面に金箔でも貼っているのかなと思ったら予想外の重量、なんと金で出来た釣り書きだった。
父様と母様は何とも言えない微妙な顔だ、きっと私も微妙な顔になっている。
持ち上げるのを止めて机の上に置いたまま開く
ゴトリ・・・
およそ、縁談の為の釣り書きの類からする音ではない
中には経歴等の書類が挟まれていた。
ホッとして経歴書に目を通す、中身は普通・・・、じゃない!?
「父様」
「うん」
「コレ、何ですけどね」
「うん」
「えっと、お相手は東の国、ですよね?」
「うん」
「ドゥアライ第一王子殿下、3歳、って書いてあるんですけど・・・」
「うん・・・」
「・・・」
似顔絵を見ると多分王妃様?に抱かれた子供の顔
「・・・」
「・・・」
「・・・」
みんな黙る、いやそりゃ黙るよね!?
私15歳成人なのに3歳の子と縁談どうですか? なんて来たら何も言えないよ。
無言で金冊子を閉じる、もう1冊くらい見ておくかなと
今度は宝石の付いた冊子を開いた。
ペラ・・・
ペラ・・・
ペラ・・・
「母様?」
「なあに?」
「ごめんなさい、この方53歳って見えるんですけど・・・」
「・・・、ええ」
「・・・」
「マリア、その方は今年54歳になるよ」
父様違うよ!詳しく知りたいとかそういう事じゃなくて
もうこの際53も54も大した差じゃないよ!
マリアは珍しくツッコミが止まらない
なんと下は3歳から、最年長は61歳までの縁談がきていた・・・




