神子と舞踏会④
「私と、踊ってくれませんか?」
何故、ガウェインさんが此処に?
警備の仕事は?
予定に無いダンスに誘われたけど受けていいの?
会場内の警備の騎士さんは皆正装を身にまとって各所に立っている
ガウェインさんも会場内に居ると言っていたので正装を着た姿だった。
疑問が頭の中に浮かぶも、兄様も姉様も止めることは無かったので私は差し出された手に自分の手を重ねた。
「よろしく、お願いします」
ダンスフロアに出る
流れたのは知っている曲で、練習していた時に慣れ親しんだ曲だった
易しいし1番踊ったものなのでガウェインさんとダンスをしながら話す余裕もあった。
「あの、どうして・・・」
声が上ずらないように努めて冷静に声を出した
だって、とても近い・・・
握られた手から、背中に回された手からもガウェインさんの体温が伝わってくるし
抱き合っている訳じゃないけど、ダンスをする為に体の距離も近い
パートナーの目を見ないと不格好になるので
教わった通り至近距離からガウェインさんと見つめ合う形
私が好きな色、オレンジ色の目とぱっちり合う。
「あー、その、だな、今回の夜会はある程度の戦勝の意味合いもある夜会でだな」
「はい」
「騎士も2交替で夜会に出る事になっているんだ」
「そうなんですか? 」
「ああ、特に独身の騎士は出来るだけ参加する様にとな、魔物の脅威が格段に減って所帯を持ちたいと思う騎士も多いし、国としても恩賞の一環として後押しするとの事だ」
「所帯・・・、ガウェインさんは・・・」
どうして私に・・・
「俺はこの歳まで殆ど夜会には出てなくてな、誘えるパートナーも居なければ親しい女性も居ない、だから・・・」
ああ、これも職務の内だし、私は丁度知り合いだったから
「そう、ですか」
なんでだろう、少し残念に思う自分が居る
「違うんだ、マリアと踊りたいのは俺の本心だし、決して消去法で誘った訳では、いや、同行してくれる女性が居ないのは事実なんだが」
「本当に?」
「ああ、それに知っているだろう? 令嬢は苦手だ」
うん、文通でやり取りした内容には好きなものだったり苦手なものだったり、他愛のない事でもお互いに沢山の事を書いていた。
ガウェインさんは女性が苦手、ルクシード伯爵家の男性はひとつの例外もなくそうなのだとか。
以前夜会でしつこく言い寄られたり、抱き着かれたりして香水の香りがベッタリ移されたりで余計に苦手意識があると聞いている。
「私も令嬢の1人なんですけど・・・」
「マリアは特別だから良いんだ」
「にゃっ!?」
特別!?
しかもガウェインさんは私の耳元に顔を寄せたかと思えば・・・
「マリアの匂いなら好きになれそうだ、香水は付けてないのか?」
はあああっ、何してるんですかね!? ガウェインさんは!
て、ステップ間違えっ
「わ」
「おっと」
特別だとか、顔を近付けて匂いを嗅いだりとかで
動揺して思い切りステップを間違えてしまった。
バランスを崩した私をガウェインさんは力強く支えてくれたので転びはしなかった。
ふと、視界いっぱいにオレンジ色の瞳が・・・
あれ?そう言えば姉様が、なに、か、言って
ねえ、マリア知ってる? アクセサリーやドレスの色にはね————
想いを寄せる人の瞳の色とか髪の色のアクセサリーを身に付けて想いを伝えたり
逆に自分の持つ色のアクセサリーやドレスを贈って———
え、待って、私、控え室でなんて言った?
身に付ける物が好意を表す事もあるのなら・・・
「あ、私、ガウェインさんのオレンジ色の瞳大好きなんですよね、とても暖かい気持ちになります」
「だからほら、オレンジ色のガーネットのイヤリング選んだんです」
あわわわわっ、ち、違う!
私、別にガウェインさんに好きって言ったわけじゃっ、や、嫌いじゃない、好きだけど!そうじゃなくて!
確かにイヤリングのガーネットの色とガウェインさんの瞳の色は同じだけど、そうっ、偶然!
だって、アクセサリーの色でそんな好意とか告白を意味するなんて知らなかったもん!
「マリア? 足でも挫いたか」
「ぁぁ、わ、いいいえ、何でもないです」
「顔も赤い、戻ろうか」
「いえ、大丈夫、だからっ、ダンスを・・・」
「そうか、なら・・・」
顔が熱い、ガウェインさんも心配して覗き込んで来たから余計に至近距離で見つめ合ったしっ
でも、やっぱりオレンジ色の瞳から目を逸らすなんて出来なくて
ごつごつとした、でも暖かい手を離すことも惜しいなんて思って
結局丸々曲の終わりまでダンスしてしまった・・・




