聖女③
あー、やっと帰って来た!
まあ小旅行も悪くないかな?
でもお城の方が居心地良いし、娯楽も多いから王都の方がいいよね。
ただでさえ娯楽が少ないのに、地方に行ったら本当に暇なんだもん!
カードで遊ぶか本を読むくらいしかなかった。
食べ物は田舎の方が美味しかったかな?
やっぱり新鮮だったね。
意気揚々と3ヶ月の浄化活動を終え、城の自室へと向かうアリス
その耳には噂話に興じる侍女の声が聞こえてきた
「神子様は本当に素晴らしい方でしたわね」
「ええ!神子様がいらっしゃらなければ未亡人になってしまう所だったわ」
「私も義兄が騎士で旦那様がとても感謝していたわ」
「ルクシード伯爵家のハルシオン様なんて片腕を失い、お顔にも酷い傷を負っていたそうだけど・・・」
「治療して頂いて御礼に神子様に話し掛けた方の話では、とても素晴らしい方と」
「なんて?」
「『私は呼吸をしているだけです、あなたは呼吸をしている人に御礼を言いますか?』ですって!」
「まあ!なんて素晴らしい方なの!」
「ねえ、何の話しているの?」
「あ!これは聖女様、申し訳ございません、御機嫌よう」
「「「御機嫌よう」」」
「御機嫌よう、で、何?神子って」
「あ、その・・・、辺境伯領から神子様が王宮に来て下さって、重傷者の騎士様を全部治療して下さったのです・・・」
「北の森の瘴気溜まりも、御自ら浄化の為に行ったとか・・・」
「へえー、そう」
「は、はい・・・」
「どういう子だったの?」
「美しい黒髪でとても慈悲深い方でした・・・」
「ふうん、ありがとう」
何それ、神子? 日本人でしょ?
黒髪なんて珍しくもないし、治癒魔法も浄化も私にだって出来るのに。
神子様は素晴らしい方? 私はそうでないとでも?
重傷者を全員治した? 私だってやれば出来るわ!
なんなの? ぽっと出の田舎貴族程度が愛想振りまいただけでしょ?
自分だって3ヶ月浄化の為に旅をして来たのに、労いのひとつも感謝のひとつもないと不満を持つアリス。
マリアは別に愛想を振りまいてもいないし、そもそも『呼吸~』云々は言っていない
ただ騎士と付き合っている、結婚している人間は王宮にとても多い。
騎士は伴侶としてとても人気がある
危険に晒される事も多いので給金は高く、逞しい身体に頬を染める令嬢も多い
特に今の時分は瘴気と魔物被害が大きい事から特別危険手当が割り増しで支払われており
王国で結婚したい相手の職業人気ナンバーワンとなっている
そんな騎士を救ったとなれば
伴侶の妻、両出身家、親兄弟と芋づる方式で感謝と尊敬の念が拡がっていくのも当然と言える。
悪意の噂が勝手に膨れ上がるのと同じで、好意の噂も勝手に膨れ上がり、神子の名も手伝ってマリアの名声は留まる事を知らない勢いで増して行ったのである。
3年王宮に住んでいて、そんな事を言われなかったアリスは勝手に憤る。
それは自身の行動の評定に他ならないのだが
3ヶ月空けただけでここまで持ち上げられる神子様とやらに身勝手な敵愾心が生まれていた・・・




