ヴェリルナイト王家①
国王シルヴェスターは年甲斐もなく緊張していた。
3年前に友の領地、ラフィスタ辺境伯領に神子様が現れ
今日に漸く会えるのだから。
200年来の降臨、各地では魔物と瘴気の被害報告が続き
騎士団を然るべき規模で派遣していた当時
神子様の降臨はまさに砂漠のど真ん中でオアシスを見付けた気分であった。
問題は完全な同時期に王家で聖女召喚を行ってしまった事だが、これは今は脇に置いておこう・・・
辺境伯クロードの報告も照らし合わせると城で聖女召喚を成功させた同日、ほぼ同時刻に神子様が現れた様なのだがこれは何かの偶然かそれとも・・・
「神子マリア・ラフィスタ辺境伯令嬢ーー!」
コールされて現れた神子様、マリア殿は緊張していた
10歳と聞いているが6、7歳ほどに見える幼い容姿
先代神子様、異世界二フォンの血筋は我らより若々しく見えると伝わっている。
30を過ぎても20で通じる、40の時でも瑞々しい若さに溢れていたと言われていて半信半疑ではあったが、10歳でこの幼さならば今度歳を重ねても同じ様な事になるのだろうと思える。
一瞬パチリと目が合う
ああ・・・、この娘はいい子だ。
解る、伊達に国王をしているのではない
貴族の口調、所作、目などで腹の探り合いをして来た手前
初対面でどの様な人物かは概ね把握出来るのだ。
純粋無垢
仮に魂に色があるとするなら神子様は純白であろう
さて報奨の話になるが、神子様のは無欲だった・・・
シルヴィー殿の自由とエサ、高いお肉を沢山と言われては正直困る
餌付けではないのだ、王家がしっかり礼を尽くす必要がある。
宰相のラディクスが膝から崩れるのも仕方ないだろう
事前に話し合っておけば良かったかもしれない・・・
所でシルヴィー殿は銀狼と聞いていたが、あの大きさおかしくないか?
大きくても1mくらいの筈の銀狼が、どこからどう見ても2mはあるサイズだ
襲い掛かって来ないよな?
それに横に控える護衛、以前第一騎士団長やっていたゴードンじゃね?
お前、俺と同い年だったよな?
20歳前後に見えるんだけど、何があった!?
あー、ラフィスタ夫人は口元を扇で隠して黙礼している
目が緩んでいるな・・・
これはクロの奴に計られたか?
神子様と話したい事も沢山あったが、他にも聞きたいことが増えてしまった。
恩賞の場では国王の意地で顔色を変えなかったシルヴェスターであったが、心の内には嵐が吹き荒れていた。
友クロード・ラフィスタ辺境伯からあがって来ていた報告で知っていたが明らかに伏せられていた要素も多い。
神子様の護衛には銀狼も付いている。
嘘じゃない、だがシルヴィーの立派な体躯は並の銀狼では無い、これはマリアが許可を求めてくるのも理解出来た。
護衛、元第一騎士団長ゴードン。
聞いてない・・・
しかも何故か確実に若返っている、絶対神子様絡みだろ!
神子様の恩賞の要求。
てっきり神子様を通してラフィスタの要求が出て来ると思っていた。
神子様個人の要求も勿論だが、ラフィスタの名を得ている以上は子の功績は家のものとも言える
宰相のラディもきっとそのつもりだった筈だ。
勿論、この場にいる重臣達も同じくそう考えていただろう
しかし、神子様の口から出た要求はペット
いや護衛シルヴィー殿の自由の保証とエサ・・・、いやいや食事の便宜だけだ。
なにか腹を抱えて笑っているクロードの姿が脳裏を掠めた
いつか意趣返ししてやるからなクロめ・・・




