神子と王女。
私は定期的にお城に来て騎士さん達を治療していた。
「お、マリアちゃんまた来てたのか、いつもありがとな!」
「いえー」
「ひひひ、マァリアァ氏、まぁた回復薬を頼むよォ」
「は、はい・・・」
顔見知りも増え、特に第一騎士団、第二騎士団の騎士さんと魔術師団、薬師さん達とはそれなりに話すようになっていた。
騎士さんは私が治療してから気さくに挨拶して来る。
魔術師さんと薬師さんは私の持つ技能、神聖魔法と作り出す謎回復薬の分析で。
分析は上手くいってない
200年振りの神子の魔法、そして有り得ない組み合わせで精製される謎回復薬、魔術師と薬師にとっては垂涎ものの研究素材らしい・・・。
そんなこんなでお城に出入りして慣れて来たこの頃。
「お前が神子か!どんな奴かと思えば大した事ないじゃないか、母上も父上も可愛らしいって言ってたけど、やはり自分の目で確かめないと分からないな、媚びるのだけは上手いらしいが」
突然現れた男の子にそんなことを言われた
「殿下、初対面のレディに対する礼儀がなっていませんね」
お城の中ではガウェインさんが付き人として付いてくれています
殿下、王子様なんだ・・・
「第三王子のケビンですよ、お嬢」
こそりとゴードンさんが教えてくれる
「そうなんだ、初めまして私はマリア・ラフィ・・・」
「俺の許可なく話し掛けるなんて気安いぞ愚か者!」
「・・・」
どうしよう、私はまだあまりマナーとか規則を知らない
王子様がそう言うならそうなんだろう。
「殿下、神子様に対して無礼ですよ」
「黙れ、俺は王子だぞ!騎士ごときが口を挟むな!」
「はあ、ガウェイン、どうなってるのだこれは・・・」
「申し訳ございませんゴードン様」
「こういうのはな拳骨で・・・」
「いえちょっとそれは、それにまた問題になりますよ」
「む、しかしな、おいたが過ぎる」
「お、それが銀狼か、へえ本当に飼い慣らしているのだな、立派じゃないか俺が貰ってやるよ」
「え、だめ・・・」
「お前の許可など聞いていない、俺が寄越せと言ったなら寄越すしかないのだ」
偉そうに言って王子様は私の隣でジッとしていたシルヴィーに手を伸ばしたが、その瞬間、
「グルオオオオオオオッ!!」
ビリビリと空気を震わせてシルヴィーが本気で吼えた。
「ひ」
「シルヴィー?」
突然の威嚇に王子は腰を抜かしぺたりと尻餅をつく
そんな王子にゆっくりと歩を進め睨み付けるシルヴィー
犬歯を剥き出しにして・・・
「グルルルルル・・・」
「あ、あ・・・」
大人しくしていたシルヴィーの威嚇に怯える王子
そんな王子の肩にシルヴィーは前脚を乗せそのまま押し倒す、そして・・・
「グルルル・・・、ゴォアッ!!」
「ひいい!」
目の前で頭を丸齧りせんばかりに大口を開けて噛み付、
くなんて事は勿論せず
スっと身を翻して私の元に来て全身をスリスリとしてきた、尻尾はファサッファサッと穏やかに振られていたから多分シルヴィーはわざと脅したのだと分かった。
シルヴィーは言葉を理解している
文字を環状にして輪の中に「はい」「いいえ」と書いた文字盤で会話出来る位にはとても頭が良い
会話もほぼ分かっている、ラフィスタの、うちの家族だ。
今の王子様の言動は怒って当然、家族を物みたいに寄越せと言われて怒らない筈がない。
私とゴードンさんはシルヴィーの事を知っているから噛み付くなんてしないと思っていたけど
ガウェインさんは流石に冷や汗をかいたようだ
「マリア様、これは・・・」
「シルヴィーは会話出来るから怒ったんです、ね、シルヴィー」
「わふ」
擦り寄っているシルヴィーの頭をワシワシと撫でると目を細めて「うん」と頷いた。
「これは、本当に凄いですね・・・」
「それよりも、シルヴィーより躾がなってないんじゃないのか、第三王子殿下は!」
「な、なんだとっ!」
「おやめなさいお兄様!何を為さっているのですか」
へたりこんでいる王子がカッと赤面したが
そこに青みがかった銀髪のお人形さんの様に綺麗な女の子が割り込んで来たのだった。




