神子、別邸で寛ぐ。
どうにかこうにか王都に到着した私達
王都にあるラフィスタ家別邸で疲れを取る
ヒールで回復しつつ来た道中とは言え疲労感があり、数日ゆっくりしてから謁見となった。
ロイド兄様には久々に会う、2年前から学園に通う為にひとり王都に来ていたのだ。
長いお休みには必ず帰って来ていたけど、数ヶ月毎に会う兄様は身長が伸び、肩幅もがっしりしていてどんどん格好よくなっていく。
「久しぶりマリア」
そう言ってギュッとハグ、おでこにキスをされる
ベル姉様は「もうそんな歳じゃない!」と言ってイヤがるけど、私は大好きだった。
優しい手つき、暖かい兄様
「えへへー」
顔がにやけてしまう、もっとギュッとして欲しい!
「っ!」
兄様はパッと離れて顔を逸らした
「兄様?」
「あ、いや・・・、なんでもないよ、疲れたろう? 湯に入ってゆっくり休むと良いよ」
「うん、おいでシルヴィーお風呂行こう」
「わふ」
ひそひそ・・・
「お母様、見ました? お兄様の・・・」
「ふふふ、勿論」
くすくす・・・
「お兄様ったら、」
「ロイドもそんな年齢になったのねえ・・・」
ソフィアとマリアベルの会話はマリアには届かなかった。
マリア付きの侍女レインが案内する
元々別邸にて働いており、マリアの専属として領地に呼ばれていたので別邸の中は知っていた。
流石に2mを超える狼が屋敷を歩くと、いくら報告されて知っているとは言え初めて見る使用人は目を見張り固まっていた。
だがそれも神子であるマリアが引き連れ、お風呂場では大人しく洗われている姿を見れば、あっと言う間に警戒は薄れたのだった
何しろモコモコの泡に包まれてもじっとしている
ガシガシとタオルで水気を拭くとそれは気持ち良さそうに目を細め
ブラッシングに至ってはゴロリとお腹を見せてグルグルと唸り
最後にはそのままグースカ寝入ったとなれば
野生の欠片も無い様子から完全に家犬扱いへと落ち着いた。
ついでに言えば「神子様が別邸に来られる!」と緊張気味の別邸使用人達も
シルヴィーのお腹にうずまり居眠りするマリアを見て、そちらも認識を改めていた。
領地の本邸からは勿論どういった人間かの報告は挙がっていたし、気楽に接して欲しいとも言われていたが
世界の唯一、神子様となればお屋敷に国王陛下が滞在する様なものだ
勝手に神格化したイメージはスヤスヤと眠るマリアを見て、そうではないと気付いた。
見知った顔のレインも慣れたようにブランケットを掛けてそのまま寝かせている事から、これは日常なのだろう、と。
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今回謁見はソフィア母様、第一部隊隊長ゴードンさん、私の3人。
姉様は呼ばれていないし入学前の準備があるので別行動だ。
シルヴィーは連れてきたけどお城に入れるのかな?
マリアからすれば何処にでもシルヴィーを連れて行けるのは嬉しいな程度の考えだったが実は違う。
シルヴィー程優秀な護衛は居ない
常に付き添って寝所にも浴室にも一緒に居られる
身体は頑強、とても賢く、並の銀狼の倍にもなるその体躯は対外的にも脅しが効くし、耳も鼻も利く。
国王陛下の御前にともなれば今後国内の何処にでも連れて行く大義名分になる
身の回りには密偵が送られていた
その大半は討伐部隊(現状ではほぼマリアの身辺警護専門)のゴードンらの護衛とラフィスタ家に仕える影によって秘密裏に対処されていた。
大きく分けて2つの勢力が動いている
ひとつ、教会の総本山「聖国」
ふたつ、隣国である「帝国」
聖国は絶対的な象徴としての神子を欲し
帝国は魔瘴の森を挟んだ隣国で、王国と同じく魔物と瘴気の被害に喘いでいる為に、秘密裏に神子の派遣を打診していた。
誘拐や危害を加えるといった直接的な危機は今の所ないが
今後を見据えて、出来る限りの対策はしておきたい国とラフィスタ夫婦の親心があった。




