王家と王子と聖女。
神子とラフィスタ家が去っていった王都
王家では粛々と残された問題の解決に動いていた。
第一王子ローディーと婚約者である聖女アリスは離宮を一つ与えられ、そこで暮らす事に決まった。
公爵の地位を与えられるが領地を持たない法衣貴族として。
本件、教会による神子の誘拐から死亡に至る所は
大司教を主犯とし、近衛騎士団長の関与、またその橋渡し役を担ったアリス、
第一王子は落ち着いた様子で
「彼女は王族の妻としては力が足りませんからね」
と言ったことから、国王シルヴェスターと王妃エリステラは大きく肩を落とした。
アリスに出会ってからの第一王子は明らかに人が変わった様に無能になった。
それは結局アリスと婚姻を挙げる為だけにうたれた芝居だったのだ。
可能ならその優秀さを国の為に奮って欲しかったが
ただ一人の女性の為に使われた行動は王族として失格である。
アリスを妻にするのならば王子妃教育は必須だ
しかし彼女は貴族の責務を理解する事はなく、立ち振る舞いも召喚された当初からさほど変わっていない。
当時、次期王太子確実とされたコーディーの隣に据えるのには足りない部分が多過ぎた
かと言って実を取った相手を正妃に、アリスは第二妃に据えるのも、召喚という名の拉致相手には敬意が足りない
コーディーはそれを理解した上で彼女に惚れてしまった
王族の立場と彼女の隣、天秤に掛けた結論はアリスの手を取る事だった。
「すいません父上母上」
頭を下げた王子にシルヴェスターは王として言った
「許さん、勝手な事をして都合がいいとは思わないのか」
毒杯を賜る、病死も有りうる状況にコーディーは怯むことなく答えた
「陛下、日陰者の元王族も必要かと」
「・・・それが答えか」
「はい」
王国の体制も一枚板では無い
魔物と瘴気が片付けば、次の争う相手は人間だった
わかりやすい地位を持った御輿は良い囮になる
そんな提案だ、御輿は軽ければ軽い程都合が良い
女で身持ちを崩した王子と御しやすい聖女
やはり優秀なのだ、「何故」と問い掛けたくなる言葉を飲み込み国王は決める。
「ケビンを助けるんだ、それがお前の責任だからな」
「はい」
末弟の第三王子ケビンが王太子に立つ
ケビンはコーディー程優秀ではない
国の為にと立場を受け入れ、公爵令嬢エリザベスとの婚約も了承した点において次期国王としての意識はコーディーより遥かに国王として相応しい。
本人の足りない物は周りが補う事で支える
勝手な事をしたコーディーも力を尽くせ、今後国の為に動くなら伴侶が多少資質を欠いていても許容しよう。
国王は複雑な想いでいた
全てがコーディーの思い描いた通りの結果になっているであろう事は確かだった。
優秀さをこんな所で認識するなど、皮肉なものだと嘆息した・・・
「手綱を誤る事、二度は無いぞ」
渋面の国王を見た第一王子は本当に申し訳無い様子で頭を下げた。
聖女アリスは神子マリアの死亡の報に茫然とし、心を入れ替えたように努力を始めた。
23歳、王族に嫁ぐ立場としては遅過ぎるが
将来公式の場に立てる程には教養を得る事となるのは先の話である。