元騎士の一日。
俺が辺境へ来て、ふた月が経とうとしていた
いや、俺だけではなく父と母も共に来た
ラフィスタ辺境伯の持つ離れを一軒丸々宛てがわれ、そこで父から領主教育を受けている。
両親は兄夫婦に爵位を譲り、隠居の身となった
母は旧交を温めるように辺境伯夫人と毎日の様にお茶をしている、何か企んでいそうだ・・・
まさか自分が1人の女性の為に今のような立場になるとは思っていなかった
後悔はしていないが、女性全般に苦手意識のあった俺が
職を変えてでも一緒になりたいと想える相手が出来るとは考えもしなかった・・・
一日でも早く式を挙げられるように父から教わる事を覚えていく
騎士団の時とは違って、頭を使う事が大半の領主教育は中々骨が折れた。
そんな中マリアは俺の癒しとなって助けてくれた
眉間にシワのよった俺を見て、膝枕をしながら瞼に癒しを施したり
目や肩こりに効くハーブティーなど細やかな配慮
但し、一番の癒しは彼女との甘いひと時なのは我ながら現金だと思う・・・
俺は一日中実務と勉学に時間を使っている
マリアも暇では無い、母と辺境伯夫人による夫人教育
マリア総合治療院の名誉職とはいえ薬や治癒魔法の研究
屋敷は違えど同じ敷地内に居るが毎日会う事はない。
そんな日々の中で、夜に短時間だけ本邸のサロンで重ねる逢瀬
「おやすみなさい」
ひと言言って触れるだけのキスが励みになっているなど・・・
くっ!日々マリアが美しく愛しく見えるなんて
今では彼女をこの腕に抱、
「ガウェイン」
「・・・」
「ガウェイン!」
「? はい」
「気が散っているな、休憩にしよう」
「あ、いえ、すいません」
しまった、余計な考え事をして疎かになってしまった
癒しを得ていると認識しているのは疲れている証拠だ
「百面相していたがマリアさんの事か?」
「ええ、まあ・・・」
「彼女も忙しくしている様だが会えているのか?」
「なんとか、夜に本邸で半刻程だけ」
「そうか、忙しいから会えない等とは絶対に言うなよ、毎日とまでは言わないが会いたいなら一言だけでも顔は合わせるべきだ」
「何か実感が篭っているような言い方ですね父上」
「篭っているさ、25年は夫婦として先輩だぞ?」
「はは、まさか父上とこんな話をするようになるとは」
「ふふ、そうだな」
「それで何かあったんですか」
「色々あったさ・・・」
父の失敗談は身につまされるものだった
仕事に真面目なのは良いが、家族の時間を犠牲にする理由にはならない
正に今の俺はそれになりかけていた
早く代官としての力を付けなければと、いつの間にかマリアとの時間が少なくなっていた。
そうだ、こちらに来てからあまりデートをしていない
エスコートとしては失格になるかも知れないが彼女に街のことを聞きながら出歩くのも良いだろう。
身内だけで小さな晩餐会を開くのも良いかもしれない
あの時の襲撃のせいで、ドレスやアクセサリーの破損に心を痛めていたとレインさんから聞いている。
確か最近修復が終わったらしいから、母に相談してみるか
それに・・・
あれやこれやとマリアとの事で想いを馳せるガウェイン
父ギルバートは再び百面相をする息子を見て苦笑していた。