神子は故郷で静かに暮らしたい。
領地のお屋敷に帰って来てひと月ほど経った
少し前に届いた報せによれば私の葬式が王都で行われたらしい、不思議な感じ。
道すがらゴードンさんから一連の説明をされた
近年、私に対する外部からの干渉が増えていたとか
主なものとして、教会側からは神子の身柄を渡せ
他国からも私の派遣の要請が数多く来ている。
友好国、敵対国問わずそんな要求が増え
酷い所になると神子が来ないなら交易を止める
関税を上げるといった話が出ているのだとか。
仮に私を他国へ派遣するにしても政争に巻き込まれるのは目に見えている為、簡単にはいかない
「神子の死」は規定路線
神子の名前は私が思う以上に大きくなっていたようだ
「へえー」
なんて相槌を打ったら
「他人事ではなくマリア様の事ですよ」
「そうだな、マリアは神子の立場に関して軽いというかなんというか・・・」
レインもガウェインさんも呆れた様子だった
そんな事言われてもねえ? 私は私だし、神子として表に出たのってデビュタントの舞踏会だけじゃないかな。
「うーん、なんなら「神子」あげても良いけど、ああどうせなら大司教に「神子」あげちゃえば私は無関係に・・・」
「・・・」「・・・」「・・・」
マリアの言葉に皆閉口した
「神子」という特権階級の最たるものを捨てても惜しくないなんて誰が言うと思うのか
ゴードンは九死に一生を得た
レインは仕事として呼ばれた
ガウェインは家族を救われた
始まりは確かに「神子マリア」
しかし神子だからマリアに尽くし、愛した訳では無い
ひとりの人間として真摯に領地と生命に向き合うマリアだからこそ好意を集めてきたのだ。
結果的には神子に対して無頓着だからこそ神子としての価値が高まったというのは皮肉なものである。
「マリア様、旦那様から先触れが」
「来たのっ!?」
「はい、程なく到着するとの事です」
「シルヴィーおいで」
「わう」
身嗜みを簡単に整えた私はシルヴィーとレインを連れて一緒にエントランスへと移動した。
既にエントランスには屋敷のみんなが待機して待っている
「怪我とかはしてないのかな」
「大丈夫なようです」
「そっか」
父様も、そして恐らくシロさん国王陛下も私の為に大掛かりな事をしてくれた
「神子」は死に、私は自由を
何も知らなかったのは父様達が言わなかったのも有るし
私も知ろうとしていなかったのもある、気にもしてなかったから知るも何もないけど、神子の価値を私は見誤っていたのだ。
だから、助けてくれてありがとう? 違う
迷惑かけてごめんなさい? 違う
まずは帰って来たのだから、こうだ
開いた扉に向かって私は言う
「おかえりなさい!」
王都も好きだけど、やっぱり私は家族と出会ったラフィスタが大好きだ。
お父さんとお母さんが亡くなった悲しみを癒してくれた地
ラフィスタで好きな人とこれからも・・・