神子、静かに眠る。
王都から東へ50km程行った所に森はあった
その森は鬱蒼として、昔から近くの街で呼ばれる名がある。
狼の森
多数の狼が生息している森として認識されている。
そんな森の奥で少女は狼にのしかかられていた
狼は少女を押さえ付け、急所である首に噛み付いている様に見える。
「あはっ、ンン、止めて」
狼は少女を噛み殺すなんて事はしない
ただ久々に会えた家族にじゃれついているだけだった。
首を、顔を、手を、ベロンベロンに舐め尽くす
「キュウキュウ・・・」
「んふ、あん!シルヴィー止めて、落ち着いて」
舐められている少女は先程聖堂で攫われた神子マリア
当然、攫った黒狼は全身を黒く染め上げた銀狼シルヴィーだ。
無論、噛まれたとされる首から肩、胸に掛けて傷など無い
優しく咥えたので傷一つ、血の一滴も流れていない
シルヴィーの涎でベチョベチョではあるが・・・
聖堂で流れた血はシルヴィーの口に仕込まれた血で
マリア自身の血ではない。
ガサガサ
「マリア様」
「レイン!」
「ご無事で何よりです」
「うん!」
「早速ですがお着替えを、此方で準備しております」
「着替え?」
茂みから現れたのは旅装に身を包んだレイン
近くには布で覆われた、簡単な着替え場が設置されていた。
言われるままに着替える、着ていた法衣は血と涎と、そして森で押し倒されて舐められたので服も髪も泥だらけである。
レインの手伝いで法衣を脱ぎ、汚れを拭いて
持ってきていた旅装を着る。
髪紐やバレッタなどアクセサリーも全て外し
その際、何故か下着も交換した、教会で身に付けた物は全部外す。
丁度着替えたあたりで、
「お嬢!」
「マリア!」
ゴードンさんとガウェインさんが現れた
私はそこで我慢の限界だった、胸が熱くなって涙が溢れる
「ううう・・・」
「!?」
みんな突然泣かれて困惑したのが分かるけど涙は止まらない
そっとガウェインさんが頭を優しく撫でてくれた
「頑張ったなマリア」
「ゔん・・・」
ガウェインさんは私を抱きしめて、黙って背中を撫でる
「ご飯、」
「ん?」
「ご飯、美味しい、のにっ、全然、美味しく、っなくて、」
「そう、だな、一人で食べてもつまらないもんな」
「外にも、出してくれないし」
「うん」
「ひどりで、毎日、ひっく、」
「ああ、寂しかったな」
「ゔんっ、おとうさんと、おがあさんが居なくなった、こと、思い出して
「大丈夫」
「うんっ」
「大丈夫だから、もうひとりじゃない、こんな事は二度と起きないから」
「うん・・・」
メソメソと、上手くまとまってない事も優しく私が落ち着くまでガウェインさんは聞いてくれた。
閉じ込められていた時は出来るだけ考えないようにしていた、だって考えたら多分泣いていた、寂しくて、今すぐ助けて欲しくて、それに付け込まれたくなくて、意地で我慢していた・・・
ボロボロと泣いたマリアを、ガウェインとゴードンは理解していた。
騎士団でも何度か訓練するのだが、城の牢屋に二週間入るというものがある
城の牢屋で、訓練と分かっていても結構クるのだ
食事は朝夕の二食、行動が制限された状態で時間も分からず、ただひたすらに二週間牢屋に居るだけ。
精神、肉体共に鍛えられた騎士でさえイライラしたり、落ち込んだりする。
衣食住満ち足りていても、行動の制限と暇は毒である。
ましてや箱入りと言っても差し支えないマリアでは、周囲が信用ならない教会ともなればストレスは如何程であったか・・・
せめて教会内部でもいいから散歩でも出来ていれば泣く事も無かっただろう。
(ち、やっぱり攫わせるなんて回りくどい事やってねえで、物理的にぶっ潰した方が良かったな)
(ですが、それでは国とラフィスタ、教会の間に禍根を残してしまいます、泥は全て教会の教皇一派のみに)
(だがなぁ・・・)
(報いは受けて頂かねば)
教会を完全に叩き潰す事は容易だ、武力なんてたかが知れてる
だが宗教は人心の安定に欠かせない
かと言って国政に手を出そうとした者をのさばらせて置く訳にもいかない
現在の教会主流派である権力と金銭を求める教皇一派の力は削ぎ、しかし教会としての体裁はある程度整えてやる必要がある。
教皇派の一人で大司教の失態は教会を見直す良い機会になる
治癒に関する寄付金も教皇一派が強い教会では過大に請求していて民衆は不満を溜めている
しかし、人によっては常識的な寄付で治癒を施している
教会内部でも派閥があるのだと
民衆に染み渡るように王国内で工作をし、意図的に誘導。
選択するのは国民だ・・・




