宇宙
入道雲は天に突き上げた力こぶしに似ている。
その横を僕は上昇し、成層圏に到達したところで大の字に横たわる。
完全なる静謐――
雲なき眼前の空は、宇宙を透かす蒼一色だ。天、と言うよりも、ひょっとしてこちらの方が下方。果てしない水底のようにも思われる。実際、この先は宇宙なのだから、あながち間違いとも言い切れまい。
さすれば、背後に広がる雲の、その立ち上がる面は水面だろうか。つまりは、その先の地上こそが天国だ。してみると、入道雲は、天国から飛び込んだ、高飛び込み選手の、生じさせた渦のようにも見えてくる。
もう一度、視線を宇宙に向ける。
透明な、蒼――
なんだか本当に、身も心も、落ちて行ってしまいそうな――そんな感覚を楽しんだ。
とたん。世界が変わった!
いきなり陽気なミュージックがわき起こり、いつの間にか周囲は遠浅の海!
きわどい水着姿の美女達が、トロピカルドリンク片手にわざとらしく腰をふりビーチを闊歩する。
太陽が熱く輝き、渚から歓声があがる。波の音とともに潮風さえ肌に感じられた。本当に水しぶきを浴びる。髪の毛が無遠慮に掻き上げられる。
なんとも強引。案の定、最後はズケズケと豪華そうなホテルの紹介になって、ようやく1ターンが終わった――
仮想現実の、プロモーションビデオだった。すっと水滴が消え、髪の毛が元に戻る。
『ヤホー、シン! 楽しんで頂けたかな?』声だけが届く。やはりというか、マリだ。
「なんなんだよ? せっかく哲学的なひとときを――」
『ポエムってたか?』
「傑作が誕生し損なった。文学史に残る悲劇と言えよう」
『海行こうぜ!』「聞けよ」
『“魅惑のグアム・7日間の旅。ペア1組ご招待!” どうよ?』
片手で顔を覆う。うん――
いきなりだったが、海はわかった。夏休みだしな。
けど、グアムって、どういうことよ。
『商店街の福引きで当たった』
視界がクルクルしだした。どっちが天か地か、わからない――
『あ、そうそう。出発は明日だから!』
うん――
理解が追いつく。改めて思う。
なに言ってんだこいつ?