海底 2
海の底で、月薔薇のマリーが、涙の粒なくして、大泣きしていたのだった。
『マリー……?』
彼女は気づくと駆け寄り、泣き顔のまま抱きつく。最悪を予感した。
『どうしたの? もしかして……君の原石が、なくなってしまったの?』
首を振る。しゃくり上げて、満足に言葉も出せないようだった。
体が震えている。回した手で、背中をポンポンと叩いた。気が静まるまで、いつまでも待った。
ふと、気配を感じた。
黒い海水の天空を見上げると、光り輝く百の花びら――
美しくも降り落ちてくる。
アイアンガールズだった。
あれだけの鯨の雄叫びだ。察知されたのは仕方ないことだった。
そのブランが迎撃態勢に入ろうとしたので、止めさせる。今更だろう。
やがて、百人が降り立つ。
『ハイ……』エマが青い顔、硬い笑顔で挨拶してくる。これからタフな交渉になりそうだった。できるかぎり気楽に返した。『はい』
不思議なことにエマ一人だけが直立していて、他の女子は、レッドローズもカトレヤも全員、そろって苦しそうに体を折り曲げていた。もしかして硬い態度とは早とちりで、体調が悪いのだろうか?
『大丈夫か……?』
気遣いのつもりだった。そしたら――
キッとして、『あんたらおかしいッ!? 変態だよ!』レッドローズが、吐き捨てるように僕に返したのだった。
『あっ』
ようやく気づいた。たしかに僕は迂闊だった。ここは――
海面下10900m、マリアナ海溝の底だったのだから!
(引用:Google Maps)
暗黒の1000気圧世界。細い指先に、1トンもの力が掛かっている、恐怖の超深海!
彼女らの反応の方が、正常だったのだ。
マリー、キッと顔をあげた。瞳が赤く燃えている。『恐かったら帰んな!』
『なにをこの野良助が!』
『針で突いてあげようか?』
『――!』レッドローズ、素直に震え上がる。
これはもうホームの利というもので、マリー、百人相手に対等以上に渡り合っている。おかげで少し、元気を取り戻したようだった。




