アメリカ旅客機
アメリカ航空長距離型旅客機、機内。
周囲の壁面が、“透明”から本来の素材色に戻り、シートベルト着用のサインが灯る。
しかし、最上クラスの乗客らはまるで無視している。好き勝手に寛いでいる。
栗色髪の若手の客室乗務員が、着陸準備を促そうと足を踏み出しかけたそのときだった。そっと、制止させるチーフの声が届いた。
『干渉なしでいいわ。彼女らは、“アイアン・ガールズ”よ……』
びっくりして素直に目を丸くする若手CA。このクラスの座席ほぼ全てを占める、あどけないこの美少女集団があの、噂の、アトランティス人兵士だったなんて――!
思わず百席にも及ぶスペースに視線を走らす。
その中の一人、各国各地の混血が誕生せしめた結晶とでもいうべき、長い金髪、深い青紫色の瞳の美少女が、まさか業務通信を傍受したわけでもあるまいに、こちらに視線を向けて、思わせぶりに唇を緩ませる。背中がぞっとしたのだった。
そのときだ。「すみませ~ん……」とぼけた声。
瞬時に、副音声が、“その人の声音”で通訳する。同時に拡張現実が視界の横に、会話記録と、パーソナルデータを羅列する。
黒系の衣装。ひょろ長なスタイル。わざとな無精髭にライオンヘアー。薄いサングラスはもちろん伊達だ。
そんな、色気のある笑み顔の日本人。左端将軍・29歳。
コールのために、声に出し、わざわざ手を振ってくる男。
“ほぼ全て”のその例外、たった一席を確保している男――!
職務の誇りを胸に、足を踏み出す。
「シートが、うまく戻らないんだけど……」
周囲の子供たちの軽い失笑を集めながらも、この時。心が温まる、そんな触感を受けたのだった。