海底
そして僕たちは、地に降り立ったのだ。
やわらかく、足が砂に沈んだ。
『ようこそ、どん底の世界へ』気取って言う。
だが僕は、その洒落っ気に乗っかる余裕も、初めての海底の様に感動するゆとりもなかった。
『すごい!』その一言だった。
彼女はその前に立つ。
『たった一個だけだけど、これがワタシの原石』
ああ――!
海の底の、薄く砂を被っている海溝の壁面。
近づいて手で砂を払う。
クリスタルだった!
一歩後ずさる。二歩後ずさる。三歩後ずさる――
海溝――
遠く、右の地平線から遙か左の地平線まで――
その巨大な溝がなす、地球自身の裂け目。連なる岩壁が、一個の原石――
オリハのクリスタルなのだ!!!
目の前で、マリーが壁にさわる。指先で、名前を筆記する。とたん、名前の跡が、強く美しく発光する! それは原石、いや、いや、大陸プレート(?)が、彼女を第一発見者、オーナーと認めている、マーキング済みであるということを示していた。そう、これは、彼女のものなのだ!
ブランが自身の発光を弱める。代わって、控えめなマリーの銀のグラフィックが、原石からの光を反射し、このときばかりはキラキラと金以上の輝きを打ち放つ。それはまるで夢の世界のようで、しばし。声なく立ちすくむのだった。
『買わせてください……』
『――どっちを?』ほほを染めながらも、いまや自信あふれた立ち姿。赤く美しく見つめ返してくる。
そのときだった。ブランの意識が自分とシンクロするのがわかった。身体の感覚が重なる。後押ししてくれる。
くちびるが微笑みの形になった。
僕は――!
二人分の思いを乗せて。
答の方に口づけをした。




