02
ごろり、寝返りを打つと身体は床に叩き付けられた。携帯電話のアラームに手を伸ばすも、目を開けてすらいない私にはなかなか止めることが出来なかった。仕方なく眩しい電子機器の画面に目をやりアラームを全て止める。しかし、大音量で流れるニュースを消さなければ、騒音被害は終わらない。リモコンに手を伸ばし、消音ボタンを押す。時刻は6時30分。最近は早起きが習慣になっており、いつもの30分前には起きる様になった。今日も変わらず、早起きだ。
さて、今日の支度を済ませようと身体を起こすも背骨が痛い。ソファで寝ているせいだろうか。大きく伸びをした後、拳を固めて腰を軽く叩く。リビングを出て洗面所へ向かえば、タオルを小脇に抱え、顔を洗う。顔を上げ顔を拭き、鏡に映る自分を凝視する。そこに映るの私の顔は、首から上の緑色のしっとりとした肌、キュートで大きなつぶらな瞳と口に、小さな鼻。私は、いつからか蛙になっていた。しかしながら私はそれを気にしない。むしろ気にするべきは基礎のなってない生活だろうと、そう思う。寝床はソファか床だし、今顔を拭いたタオルだって、きっと庭の土の上で日向ぼっこした後のものだろうし、第一、いつ取り替えられてるかすら分からない。リビングへ戻って制服のシャツに腕を通せば、何故か糠漬けの様な匂いが鼻を通り抜けた。体操着なんかもっと酷い。花の女子高生がこんな生活で良いのだろうか。こんなにも可愛い私への仕打ちがこの不衛生さと異臭なら、私はこの家の主人にボイコットを起こしてやりたいと何度も思うが、それで田んぼの中でこれからゲロゲロするだけの生活にでも追い込まれたらたまったもんじゃない。つまり、花の女子高生蛙子は、何も出来ないのであった。
ああ、忘れていたけれど、そういえば食事も不味かった。それに準備されるのも遅い。シェフ・お婆は台所に人を入れたがらないので、どれだけ早起きの習慣が身につこうと、料理が不味かろうと、まず私が準備することは不可能。シェフ・お婆に全てを任せるしかないのであった。
さて、出来るのが遅い料理を待つ間何をしようか。ニュースはまず不穏かつ不快な為見ない。大声で話すシェフ・お婆と女王の声が不快なため、私はまた洗面所へと向かった。
高校は厳しい校則によって、髪型は3通りしか許されていないのだけれど、その中でいかにおしゃれが出来るのかはこの高校にとって女子力そのものを示していた。今日は時間があるし、身だしなみを整えておくことにしよう。乾燥しないよう肌にクリームを塗りたくる。最近になってようやく私はリップクリームなる物も扱う様になって少々得意気だ。ばっちり身だしなみを整えれば、時刻は7時。する事が無くなったため、仕方が無いのでご飯を食べる事にする。リビングへ戻るとシェフ・お婆と女王の話は口論になり朝から不快音を周囲に撒き散らしていた。いつの間にか妹も起きており、外は雨が降っている。
4分の1にカットされたアンパンが今日の朝食。私は珈琲を入れ、席に着いた。前国王の写真が今日もこちらを向いている。胸糞悪いので倒してやった。これではきっとシェフ・お婆がカンカンになって怒るだろうが、訳が分からないのは寧ろ私の方だ。前国王は悪逆非道の暴君だったじゃないか。