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お金が……

「……どうしましょう。お金が無いわ」


 そのことに気が付いたのは、食料を買いに商店街に来てからだった。私は嘆き、リサは苦笑する。


「ええ、まさかここにきてこんな障害があるとは……、お嬢様なら持っていると思っていました」


「馬鹿ね」


 私は肩を竦める。


「私が持っているわけないでしょう。大体今までお金って何?って生き方だったのよ」


 欲しいものは欲しいと思う前には用意されていた。

 だから今まで金策のことなど考えたことがない。

 なので当然お金などは持ち歩かない。


「それよりリサ、あなたはなんで持ってないのよ。家から出てくる時に多少はスってきなさいよ」


 主に私への慰謝料として。


「その時間はありませんでしたから。まあ、私自身のお金ならありますが、これは使いたくないんですよね?」


 私は頷く。


「ええ、そっちはいらないわ。落ちぶれたとはいえ、貴族としての尊厳までは捨てたくないもの」


「野宿をしようとする時点で尊厳も何もないと思います……、というか本当によろしいのですか。私は別に全てお嬢様に渡してもいいと考えているんですが……、元々お金には頓着はしていないので」


「くどいわね。いらないわ」


 私は自分の髪を纏めていた髪留めを外す。


「この髪留めと私のこのドレスと靴を売りましょう」


「ドレスを売るって……、お嬢様まさか全裸で過ごすのですか? ダメですよ! そんなの野生に戻りすぎです! 貴族としての尊厳どころか人としての尊厳すら捨てるつもりですか?」


 何を言っているのかしらこの阿呆(メイド)


「そんなわけないでしょう。元々このドレスは動くのに邪魔だし、私ほどの高貴な身を覆うこれなら多少高く買ってくれるでしょう」


 私にはあまりものの価値が分からない。だからこれがどれだけのものかは分からないが、きっとそれなりに高く買い取ってくれるだろう。


「動けないことをドレスのせいにしてはいけませんよ、お嬢様。それは単なる体力不足ですから」


「いちいちうるさいわね。それにそれだけではないわよ。どの道この格好では目立ち過ぎるし、変装をする必要があるでしょう」


「まあ、そうですね」


「それでは売りましょう。リサ、もう大丈夫だから下ろしなさい」


「はい、わかりました」


 私は立ち上がり、近くの雑貨屋に向かう。


「お嬢様、それを売るなら私にお任せください。お嬢様よりは多分私の方が上手くことを運べますよ」


 この子、私をどんな風に見ているのかしら。

 そこまで出来ない子ではないわよ。

 私は歩き、店に飛び込む。


「経営者を出しなさい!」


 そのクレーマーのような私の第一声を聞き、リサは咄嗟に私の口を抑える。


「むぐっ」


 何するのよ。

 口を抑えられて、言葉を発することもできないので、私は目でリサに訴える。


 ぱくぱくとリサが私のみに聞こえる声で言う。


「お嬢様、そんな悪質なクレーマーみたいな態度ではいけません。ただの私物の売却とはいえ、これも一種の商売です。上から目線で、私達にいいことはありません」


 ふーん、そういうものなのね。

 分かったわ。

 私の納得を汲み取ったのか、リサの手が私の口から離れた。

 それから店の奥から肉付きの良い小太りの男が出てきた。


「はい、私がここの経営者ですが」


 そこでリサが私の髪留めを取り、交渉を始めた。

 淡々と。ただ、淡々と交渉を進めていく。

 そうしてお金を得た。

 運良くふっかけられることなく済んだのは、私の装いが貴族のそれだったからだろう。





 

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