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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幻ノ月音の童話シリーズ

if ヘンゼルとグレーテル ~マリオネットは誰?~

作者: 幻ノ月音


昔々あるところに貧しい木こりの夫婦がいました。そこには2人の子供、兄のヘイゼルと妹のグレーテルがいました。ところが、あまりの貧しさで男の子は病にかかりそのまま死んでしまいました。グレーテルは悲しさと寂しさのあまり毎日落ち込んでいましたが、ある日父の手伝いで森へ行った時、落ちていた男の子の人形(ドール)を見付けました。その人形の瞳は亡くなった兄のヘイゼルとそっくりでした。


「あら可哀想に一人ぼっちで、右の瞳は青空の色ね。太陽の下にいたときのヘイゼルの瞳と同じだわ。左は黒に近い青なのね。こっちは夜空を見上げていたヘイゼルの瞳にそっくりだわ。あなた、行くところがないのなら私とずっと一緒にいましょう。」


そう言ってグレーテルはその人形を大事そうに抱えて持ち帰ったのです。ヘイゼルと呼びいつでも一緒に遊び一緒にベットで寝たり片時も手放しませんでした。グレーテルはそれだけでとても幸せでした。


だが、貧しさがさらに厳しくなった頃夫婦はとうとうその女の子を口減らしの為に森へ置き去りにしてしまいました。それは継母(ままはは)である妻の入れ知恵でした。

ところが女の子はあの迷路のような森を無事に家まで戻ってきたのです。グレーテルは


「道が光に照らされ、導かれた。」


と話しました。後悔していた父は喜び、気味悪がった継母は心配したふりをして近づき夫に内緒でグレーテルを森の更に奥深くへ連れて行ったのです。

疲れていたグレーテルは人形と共に居眠りをしてしまい気づいたら帰る道が全く分からなくなってしまいました。さ迷う事3日、もう疲れ果て動けないでいると何処からか甘い香りが…


「こんな甘くて美味しそうな香りに出会った事がないわ。ヘイゼル行ってみましょう。」


誘われるようにフラフラと近づけば…


「まぁお菓子の家!?」


そこには屋根がクッキー、壁はチョコレートで出来た可愛らしいお菓子の家がありました。

お腹がすいていたグレーテルは夢中でムシャムシャ、バリバリとチョコレートやクッキーを剥ぎ食べてしまいました。そこへ


「おやまぁこの子は可哀想に。お家へお入り。そのお人形さんも汚れてしまっているねぇ。私が綺麗に拭いてあげよう。」 


優しそうなお婆さんに安心してしまったグレーテルは一度も手放さなかった人形をとうとう「大切な物なんです。お願いします。」と手渡してしまいました。不安はありましたが本当に2人はボロボロだったのです。


ところが、お婆さんは親切なふりをしたとても悪い魔女でした。人形を心配するのは嘘で人形の目に嵌め(はめ)込まれた宝石が欲しかっただけでした。


(ヒッヒッヒッ、これでまたワシのコレクションが増えるわい、バカな娘だねぇこの価値をしらないなんて。左は…黒ずんでてダメだが右はブルーサファイアじゃないか!高級品だ!ヒャッヒャッヒャッ)


突然豹変したお婆さんは人形を秘密の小屋へ移しグレーテルを部屋の奥へと監禁してしまいました。魔女はグレーテルを「私のマリオネット」と呼び、料理や裁縫、汚い掃除など命令しこき使い続けました。ご飯もろくに食べさせてもらえず薪割りも含め辛い仕事を寒い中薄い服で毎日毎日働かせられておりました。


「逃げようと思わんことじゃ。この森はワシに呪われておる。たちまちお前を食べてしまうからね。」


と脅します。グレーテルは諦めると同時にヘイゼルが心配でたまりません。グレーテルにとっては唯一の親友で兄の代わりだった。


「お婆様、どうかヘイゼルに会わせてください。寒い思いをしているあの子にこの服を着せてあげたいのです。」


魔女の目を盗んで夜な夜な余った布を使い服を縫っていました。


「お婆さん最後のお願いです。もし叶えてくれたら私、これからはなんでも言う事を聞きますから。」


「そうかい、そうかい。私のマリオネットよ。それなら特別会わせてやろう。服が綺麗ならこのまま骨董品としても高い値で売れそうだねぇ。(この娘ももう少し大きくなったら娼婦館にでも売ってやろう)」


言葉は優しいが魔女は自分の欲の事しか考えおりません。

ヘイゼルにやっと会えたグレーテルは優しく撫でながら埃を払い拭いてやり自分が縫った洋服を着せてあげました。それは王子様のお洋服。


「これで大丈夫…。きっと素敵な人に出会って気に入ってもらえるでしょう。ヘイゼル兄さん…あなたは幸せになってね。さようなら…私の王子様。」


とキスをして安心したように去っていきました。




ーーーどうして、僕は人形なんだろう。大好きなあの子が苦しんでいるのに何もしてあげられない。あのときだってボクは彼女に道を照らすことしか出来なかった。一度目は大丈夫だったが、二度目はあまりにも深い森のせいで月の光が届かず光を照すことさえできなかった…ごめんなさい。ごめんなさい。

あぁ神様どうかお願いします。彼女を助けてください。ボクに力をください!どうか、どうか。ーーー


月に照らされて瞳の宝石が怪しく瞬いた。




この呪われた森は動物も人も近寄らず鬱蒼(うっそう)とした暗い深淵(しんえん)が続いており、普段なら動物や鳥の鳴き声などは聴こえず風で葉の擦れる音さえもしない、そんな深夜…


トン、トン、トン…


誰かがドアを叩く音がする。


「なんだい!こんな夜更けに人様のドアを叩くなんて!商品はワシが持っていくと言っただろう?」

魔女はてっきり宝石や魔女の(よこしま)な薬を所望する商人かと思い声をかけました。が、


トン、トン、トン…


返事はなくただ、外からドアを叩く音だけ。元々静かな森と時刻のためなお其れが不気味に響いた。部屋ではチリチリと釜にある灰が僅かに音がするばかり…


「おかしいねぇ。仕方ない。おいっ!グレーテル!お前は絶対出てくるんじゃないよ!」


「はい、お婆様。」


元より監禁されたグレーテルにはドアを開けるすべはありません。


魔女は外へのドアを開けたもののそこには誰もいませんでした。


(もしやワシの宝石を盗もうとしてるな!)


そう思った魔女は斧をもち宝石を隠している秘密の小屋へと向かいました。そして、そこにいたのは


「人形…?」


ヘイゼルと呼ばれた人形だけだった。(おかしい…)閉まっていたはずなのに何故外にいる?

そして月の光が人形に差し込んだその瞬間、左の瞳が輝いた。〝赤く〟


「おや?よく見ると左もただの石じゃないねぇ。なんともまぁ美しく光るもんだ!やっぱり売るのは惜しいかねぇ。この瞳をくり貫いて大事に閉まっておこうか。」


そう思案していた魔女だったが、次の瞬間、


(…っ!?…体が…動かない…?)


人形の瞳から目を離せないまま数秒、ふらりと勝手に体が動き出しす。それは魔女の意図するものではなかった。


(…!?何故じゃ!)


手が斧を握り締める。

そしてそのまま腕を挙げ

おもいっきり降り下ろした……自分へ。


「ぎゃっーーー!!!」


あまりの痛みに叫び呻く(うめ)が腹に斧が食い込み続ける。

魔女はなんとかもがきながら家へと逃げ込んだ。部屋では釜にまだ火があることに気づく。


(そうじゃ!あの人形を燃やしてやる!)


そう思った束の間、そのまま魔女は暖炉へと近づき…近づき…体ごと暖炉の中へと入っていく、まるで何者かに操られるかのように。それと同時に炎が業火の如く燃え盛ってきた。


「何故じゃ!ヒーッ…ヒーッ…!熱いっ!熱い…私のマリオネットよ!助け…ておくれー!」 


そう叫ぶが炎のゴウゴウという轟音にかき消され、段々と声がか細くなってゆく。奥の監禁部屋で寝ているグレーテルには届きません。

そして、魔女はそのまま燃え盛る暖炉へと身を投げ出すようにズルズルと奥へ奥へと這っていき焼け死んでしまいました。

その釜の(ふた)がパタンッと閉まる。何故釜の火が突然燃え盛り、風もないのに蓋が勝手に閉まったのか分からぬまま…。

そばには怪しく光る赤い瞳をした人形一体があるのみだった…


そうとは知らないグレーテルは、ヘイゼルの事を祈りながら涙を流し夢の世界へと誘われておりました。その夢では家族仲良く笑い合い生きているヘイゼルと優しかった実の母と共に幸せに暮らしている夢でした。

微笑んでいるヘイゼルに「君はいい子、いい子」と頭を撫でられて…

彼女には外の物音も全く聴こえない静かな夜でした。




翌日、鳥の鳴き声や葉の囁き、そして獣の足音がしていた。魔女がいることで深い闇に閉ざされていた森は息を吹き返したかのように明るい朝を迎えていた。そんな騒がしい森に混じって人の足音もする。パリパリ、ザッサッと葉や枝、土をを踏む音。

それはグレーテルの父だった。後悔していた父は妻に出し抜かれた事を知り、自ら深い森に足を踏み入れグレーテルを探しに来ていたのだった。そして鬱蒼としていたはずの森がいつの間にか明るく開け、そのおかげで一つの建物に辿り着いた。

それはお菓子の家ではなく蔦の這うボロボロに錆びれた小さな家だった。お菓子に見えたのはあの魔女の魔法だったのだ。


「誰か!誰かいないか!?森でさ迷っているはずの女の子を探しているんだが、知らないか!」


「お父さん…?」


「グレーテル!?お前なのか!どこだ!」


娘を見つけた父は自分の持っていた斧で監禁されていたドアを壊し無事に娘を助ける事ができました。グレーテルが経緯を話したあと


「良かった。本当に申し訳なかった。もう離さないよ。ずっと一緒に暮らそう。妻には出ていってもらうよ。」 


「お父さん、怖かった…でもヘイゼルがいたから頑張れたのよ。」


「そうかい。ヘイゼルも一緒に帰ろう。彼は何処だい?」 


人形の事だと分かっている父は娘の話を優しく聞き、いるはずの小屋へと一緒に探しに行った。そこにはちゃんと王子様の洋服を着た人形が置いてあった。


「なんだこの小屋は?」


父がその小屋の奥を覗くとそこにはたくさんの金貨と宝石が山積みとなって輝いていた。父は「悪い魔女なら懲らしめなければならないな!」と言ってグレーテルと共にそれらを持ち帰る事にした。


グレーテルはなぜあの魔女が居ないのか不思議に思いましたが、きっと町へ商品を売りに行ってるのだろうと考え、ヘイゼルを抱きしめ父と共に家へと帰ったのだった。


2人で家へ帰ると継母は驚き狼狽(うろた)え、更に父に出ていけと言われると激怒し「お前を殺してやる!」とグレーテルに向かって怒鳴り逃げていった。

だが、少しした頃あの女は精神が病んでいるのでは?という噂が聞こえてきた。なぜなら…


ーーー赦さない、赦さないーーー


そのこだまする声に継母は日々悩まされ、精神を次第に病み奇声や奇行を繰り返すようになったためだった。しまいには何かから逃げるように森の奥深くへと入り込み「目がっ!目が追い掛けてくるー!」と狂ったように逃げ惑ったあげく、崖から転落して死んでしまったのだった。その血肉を狼たちが貪り、醜い姿へと変えていったーーー。

ヘイゼルはあの時、医者になど行っていなかった。途中熱にうかされているヘイゼルを森へと置き去りにし殺したのは継母だったのだ。2人には間に合わず医者の家で看取られて死んだと嘘を伝えていた。最後の継母の言葉は「ヘイゼル…生きていたのか…」と。その言葉は誰も聞くことはなかった。



その後、グレーテルとその父は宝石や金貨を村の人々に配りました。そして自分達もようやく裕福な暮らしができるようになりました。

歳で父が亡くなった後もグレーテルのそばには必ず人形があり一人の生活も寂しくはなかった。

ただ、一人暮らしのはずの家では不思議な事に、二人分の笑い声が時たま聴こえてくることもあったそうなーーー。




めでたし、めでたし。




作中に登場したブルーサファイアとは別の黒に近い青い宝石の方は「ホープ・ダイアモンド」または「ブルー・ダイアモンド」と言われるものです。それをイメージして物語を創りました。この宝石はいわゆる【呪いの宝石】と呼ばれ様々な逸話を残している有名な宝石です。ヘンゼルとグレーテルのお話とはズレたものを加えてしまいましたがご容赦くださいませ。


ちなみに、この呪いの宝石にまつわる歴史を少し調べてみたので一部ご紹介致します。


・初期所有者また年号は不明

農夫がペルシア軍の司令官に渡しそれを国王へと献上。

その農夫はペルシア軍に殺害され、司令官は親族のミスが理由で処刑された。

国王は謀反で殺される。

・フランス革命の頃

ルイ14世が宝石を入手した頃からフランスの衰退が始まる(フランス革命の原因)。

ルイ15世は天然痘で死亡。

ルイ16世と王妃マリーアントワネットは揃って処刑される。

・1792年頃

窃盗団が宝石を売り飛ばす。それを買った宝石商の息子が横領しそのショックで宝石商は死亡(自殺?)。盗んだ息子も自殺。

・年号不明

イギリスの銀行家ホープ家が崩壊した後あるブローカーが購入したが発狂し自殺。

パリの女優が買い取るが舞台上で愛人に射殺され、その愛人も革命家に殺される。

ギリシア人ブローカーに渡るが自動車事故で家族全員が死亡。


とまぁ調べたら切りないほど出るわ出るわ。宝石の呪いにまつわる話はありすぎて…とりあえずここまでにします。


読了ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただきました。面白かったです。 人形に憑き物があるという話はよく聞きますが、ヘンゼルとグレーテルに取り込むという話は斬新でした。それの触媒に、呪われた宝石をモチーフにした点もよか…
[良い点] 企画から参りました。 欲に操られるとロクなことにならないですね。 それにしても、そんなおっそろしい宝石が実在するとは……(怖)
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