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異世界でも商売!商売!  作者: ろでぃあ
02 旅は道連れ
16/19

旅立ち

『グランドツーリング』とか『グランツーリスモ』という言葉を聞いたことがあるだろうか。


 といってもゲームの事ではなく『グランドツーリングカー』略して『GTカー』と言われる車の話だ。

何をもってGTカーと言うか?は議論があると思うが、個人的にはゆとりのあるパワー、ある程度の居住性、しなやかながらも腰のあるサスペンション等、長距離運転しても疲れない車だと思う。

というのも、元々グランドツーリングとは『大旅行』とでも言う長旅を語源にしており、旅に向かない車をGTと言うのはどうか?と思ってしまうからだ。


 ところが、その車の語源となった『大旅行(グランドツアー)』の元々の意味は、いわば修学旅行のことだと知った時は驚いた。

英国貴族の子女達が教育課程の最終段階として、欧州各地など諸外国を家庭教師と共にまわるのだが、時にその期間は数年にも及ぶというからすごく長~い修学旅行だったようだ。


 で。

当時は車なぞある筈もなく、当然馬車を使っていたわけで。

それもフランスやイタリアとかの工房カロッツェリアが仕立てた高級品だったそうな。


「たまにはそんな高級馬車に乗りたいよなぁ……」

「なんじゃ、おぬしがこれでいいと言ったんじゃぞ?」


 俺は今、年単位でこそないが元の世界の感覚ではそれなりに長い旅に出ており、異世界の森を貫く街道を南に進んでいるところだ。


GT(グランドツーリング)カーというより廃車(スクラップ)に近いような馬車に乗って……



***



「あの馬車が使えない?」

旅に出る直前、準備でバタバタしてる時に城主のエドが

「君がレースに使った馬車だけど、宣伝に使いたいけどいいかな?」

と言ってきた。


「祭りでの展示が好評だったのもあるけど、うちを訪れる客人に見せたくてね」

「そんなに客が来るのか?」

「そりゃねぇ。一応このアルディンは交通の要所だからね。できるだけ多くの人に見せて噂を広めてもらいたいのさ」


 なるほど。それは一理ある。

情報ツールが豊富な元の世界でさえ『人の噂』はやはり馬鹿に出来なかったが、この世界ならなおさらだ。

発売前に噂で煽っておくのは有効だろうと納得する。

それにあれはレース専用車だから、荷台も小さいし耐久性を考えると別の馬車にしたほうが無難だろう。


「じゃぁ、俺が旅に使える馬車ってあるかな?」

「アレクシス卿が旅行用に良いのを貸し出してくれるけど、持ってくるのにちょっと時間かかるんだよ。君とレースで競ったあの6頭立てならすぐ貸してくれるけど、どうする?」


 あの6頭立てか。

車台も豪華であーゆーのも一度乗ってみたい気はするが、馬の世話が大変すぎるからパス。

馬の世話をしてくれるお付きの人でも雇えばいいのだが、今回の旅はリーナの目的があるので2人だけで旅をする必要がある。


「いや、さすがにちょっと豪華すぎるよ。手頃なやつなら何でも良いんだが」

「お、それなら試作車を使うかい?おいらの個人用を改造したやつだから、2人の小旅行にはちょうどいい具合の筈だぜぇ」

「いいのか?助かる」


***


……と言う流れでララガから借りたのだが、


「見た目がここまで悪いとはなぁ」

「メイドのアデルも乗りたくないと言っておったわ」

 

 やや古めの幌付き(カバードワゴン)1頭立て荷台広め、ってのはまだいいが、普通の馬車に無理矢理ゴムパーツを組み付けてあるので、違和感だらけの代物になっている。


 例えばタイヤ。

レース専用車だと、リムのような構造でゴムを固定してたがこれはクギで打ち付けてあるだけ。

見た目悪い。


 例えばフローティング構造。

木のフレームと車台を引き剥がし、シャックルをぶち込んでゴムベルトを通してある。

見た目悪い。


 そして強度が不足したのか適当な木切れでフレームを補強してあったりする。

見た目悪い。


 ただ、

「この幌だけはいいな。雨漏りは無さそうだ」

「その分重そうじゃがの」

幌は帆布のような丈夫な布をそのまま使ってある馬車が多いのだが、これは


「『ゴム引き』とはララガも考えたな」


ゴムを塗って加硫させたゴム引布。レース用には採用されなかった一点ものの試作品だ。

たっぷりゴムで固めてあるので、当然雨には強く旅行用には最適だろう。

元の世界でこの布を使った高級コートが欲しかったが、高価すぎて買えなかった……!

いや、コート一着で10万円超えですよ?本当に。


 それに見た目は悪いが、一応ゴムを多用した試作車だけあって走破性や乗り心地は良い。

まぁ、今度は急がなくても良い旅なのでゆっくり行こう。


 というか。

この世界に来てからすぐレースだったし

ゴールしたら祭りの主役?で飲み潰されるし

二日酔いで目が覚めたら今度は貴族様と交渉だし

さらには婚約話なんてのもあったし。

それが終わったかと思ったら、今度はこの旅の準備でバタバタだった。

しかもそれが僅か数日の出来事という。

 ……なんだかもう、ブラック企業に勤めていた頃より慌ただしい気がする。


「せめてこの旅行中はのんびりしたいなぁ」

「ま、わらわの探知魔法範囲に例の魔法使いがひっかかるまでは良いがの」


 この旅の目的は色々あるが、俺のほうは『どんなゴム製品を開発すべきか?』の調査で

道連れであるリーナの目的は『物凄い魔法を使った魔法使いを見つけて調査すること』だ。

このリーナは見た目こそ10歳くらいの北欧系ゴスロリ少女だが、砂漠のドラゴンが姿を変えてるだけの人外少女だ。


「そういや、そもそもおまえが探してる魔法使いだけど、何か特徴とかあるのか?それにドラゴン達がそこまで興味持つ強力な魔法って何なの?」


 そのバタバタのせいでこれまでリーナとちゃんと話せていなかった事を聞く。


「通常、強力な魔法を放つには魔素(マナ)がたっぷり必要じゃ。であるから魔素の貯蔵容量が極端に大きな者を探せばよい。そしてその魔法じゃが……のう」

 珍しくリーナの歯切れが悪い

「正直、わらわ達にも魔法の詳細は掴めておらぬのじゃよ……ただ、このまま南下すれば『その魔法の使われた場所』にたどり着く筈じゃから、自ずとわかろう。今はそれしか言えん」


 あ、だから行き先は南を主張したのか。

まぁ冬が近いので北行きは勘弁してもらいたかったからちょうど良いが。


「そりゃ詳細わかっていれば調査なんて必要ないわな。で、リーナは他人の魔素貯蔵量もわかるのか。ちなみに俺はどうなんだ?魔法使いの才能はダニーには無かったらしいが、中の人が変わった今ならもしかしてワンチャンあるのかな?」

「そういや調べてなかったのぉ。おぬし、本当に知りたいのか?」


どれどれ、と言いながら隣に座っていたリーナがピタッと俺に寄り添う。

「ほれ、顔をこっち向けるのじゃ」

手を首に回されてぐいっと引っ張られて耳元でささやかれる。

「そういえば、アリスと良い雰囲気だったようじゃの。乙女の唇は甘かったか?」


 ぐはっ!

そういえばコイツ、俺の視覚と聴覚をハックしてたんだ。

当然、婚約者候補のアリス(14歳の猫っ毛金髪少女)にキスされたところもバッチリ見られてたわけだ。


「今は探知魔法を起動しておらぬから、脳に近いところから『直結』しておぬしの魔法素質を探るぞ。じっとしておれ」


そうリーナは言うと、突然舌を耳にいれてきやがった!


「おふひょひょひょぉ!ほえぇひゃははぃ」

すごくくすぐったい!

「な、何するんだいきなり!」


体を引き剥がすと、一瞬、耳からなにか金色の糸のようなものが出ている気がしたが、すぐ消見えなくなった。


「今、耳に付けた魔素の『コード』は見えておるか?」

「ん?金色の糸のようなものか?」

「ほぉ、今も見えておるのか?」

リーナが何かくるくる指で糸を巻いているような動きをしている。

「いや?今は見えないがさっき一瞬なにか見えたような気がする」


 ふーむ。

とリーナが腕組みしたかと思ったら

「おぬし、魔法の素質は無いのぉ」

と断言されてしまいました。


「残念。俺も魔法使いになれるかと思ったが甘かったか」

「そんなに魔法使ってみたかったのかえ?」

「まぁせっかく別の世界に来たんだから、どうせなら使えた方が面白いじゃないか」

「そんな理由かっ!あのなぁ、魔法使えるのはだいたい千人にひとり位の『れあすきる』じゃ。ま、親が魔法使えると子供に受け継がれることはよくあるがの」


 そんな家系でひとりだけ魔法使えないと悲惨だ。

元の体の持ち主ダニーもそうだったのだが、おかげで相当なコンプレックスを抱えていたようだ。


「とはいえ、魔素のコードが一瞬でも見えたのなら可能性はゼロではないぞ。精進すれば少しは使えるかもしれんのじゃ」

「まじか!練習すればいいのか?」

「深呼吸して、まず魔素の存在を感じ取るようにすると良いらしいがよくわからん。なにせわらわはヒトでは無いからの」

「うーん。いいコーチについたりして魔法のトレーニングとかすればまだ可能性あるのかな?」


 ゼロではないとわかったのはまだ救いだが、今のままでは厳しそうだ。

こんな話は城にいるときはさすがに出来なかったから、ついでに色々と疑問をぶつけてみる。


「そういやこの世界の魔法使いって、空も飛べるのか?前に飛空魔道士とかちょろっと聞いた気がするが」

「ああ、飛べる者もおるぞ。数少ない魔法使いの中でもさらに少ない『れあ中のれあ』スキルじゃが、ちょうど今飛んでおるのが見えるぞ」

「どこどこ?!」


 馬車を止めてあたりを見渡す。

ヒトが魔法で飛んでる姿なんて、いかにも異世界という感じで見逃せない。


「あっちじゃ。見えるかの?」

リーナが前方上空を指さす。じっと目をこらすと小さな小さな点が見えた。

以前の体なら目も悪くなっていたのでわからなかっただろうが、今は遠くも近くもハッキリ見えるから本当にいい。すばらしい。


「あれか!あれって本当にヒトが飛んでるのか?!すげぇ!」

「なかなかに高度をあげておるの。相当能力の高い飛空魔道士じゃな」

「あれ?でも何かおかしくないか?」


 見ていると、なんだかその高度をどんどん落としているようで小さかった点がだんだん大きくなってきた。


「本当じゃ。あれは『落ちる』やもしれんぞ」

「墜落するのか?」

「待て。何か『あいてむ』を使うようじゃぞ」


 飛空魔道士は右手をかざしたかと思ったら、巨大な円錐形の雲(ベイパーコーン)が数秒発生し、遅れて雷のような轟音が響く。


「風魔法で減速かけたようじゃが……あれではまだ足りぬの」

確かに、速度はゆるやかになったようだがまだ落ちてる事には変わりない。

そしてもう1回、ベイパーコーンが広がりさらに減速する。

 

 だが、

「まだ減速が足りぬ。このままでは落ちるぞ!」


なんてこった。

ようやくのんびり旅が出来ると思ったらすぐこれだ。

だが、迷ってるヒマは無い!

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