ダニーとの決別
「迷った時、答えは自分の中にある」
なんてちょっと格好つけた言い方をするときがある。
俺もたまに使っていたが、だいたい第三者から見て
「どうにもアドバイスしようが無い事」を相談された時に便利だったなぁ。
いやほら
「彼女がいるのに別の子を好きになってしまいました。どうすればいいですか?」
とか言われても困るよね?
「いいかい?俺に相談した、って事はだよ。つきあいの長い君なら、そんな事言われた時に俺がどう言うのか想像出来るよね?つまりはそれがもう答えさ。ただ、後押ししてもらいたいだけなんだよ。『迷った時、答えは自分の中にある』わけさ」
と、いうような事をあと10倍くらい言葉を飾って、なんとなく納得させてしまうのが大人のテクニックです。
大人の威厳を保ちつつ、後から「あんな事言うから!」とか恨まれる事も無い、実に安全な答え。
ただ、今回は本当に「自分」を見つめ直してみる。
数奇な運命というかリーナのやらかしでここに来た俺ではなく、
深呼吸して、元の体の持ち主の記憶と向き合う。
***
「ダニー、また領主試験落ちたんだってな。成績良くても面接でダメだったのか」
「魔法使えないのが減点だったのかもな。あいつの家系は皆すごい魔法使いばっかなのによ」
「アルテミエフ家も大変だね。長男があれじゃさぁ」
「いや、弟も妹も超優秀らしいから安泰じゃね」
「そんなっ!兄さん!きっと次こそは……」
「どうだ、自分の限界がわかったであろう。悪いことは言わん、おまえはこの土地で生きればよい」
「家を出て商人になったって?今年一番驚いた話だよダニー」
「失礼ですが『貴族の商法』『武人の商法』という言葉もございます。どちらも成功しないという意味です」
「なんでぇ。酒に酔ってケンカとは元気いいじゃねぇか。ウチに来な。カネは無ぇけど薬草ならたんまりあるってもんでぇ」
「ほぉ。おめぇ、おいらの話が理解できるのかよ。じゃぁバカじゃねえな。この世は本当バカばっかで面白くなかったところでよ」
「ダニー、おめぇ、本気か?確率は薄いってもんじゃねぇぞ。でも面白いじゃぁねぇか。おいらとおめぇの将来の大工場に乾杯だ!」
***
――そうか、ダニーは全部自分でやる気だったんだ。
嫉妬、羨望、劣等感、焦燥、憤怒、自尊……さまざまな感情とセットになった強い意思。
工場を建て、この国を席巻し、自分の力でのし上がる!という若者らしい燃える炎。
それもいい。だが、俺は違う。俺の考えは違う。
ここまで俺はこの異世界でダニーのひいたレールの上を通っただけだが、それもここで終わりだ。
すまない。ダニー。
いつか君の墓を必ず作るよ……
さぁ、いくぞ。
海千山千であろう貴族相手に交渉だ!
「今回の新素材は100年単位で時代を先取りしたものです。馬車の乗り心地が少々よくなる、程度の話では無いのです」
俺は立ち上がり、歩きながら話を始める。
「馬車に限らずこの新素材は世界を大きく変えかねない、と思っています。いや、私は変えるつもりです。例えば、靴につかえば長時間疲れず泥でも平気で歩け、そして雨でも足は濡れません。またズボンに使えばヒモが無くともずり落ちません、他にもこれで管をつくれば、水が漏れない長い管が出来ますから、畑の灌漑範囲が飛躍的に広がります。こんな秘法をお売りすることはとても出来ない、ということをご理解ください」
プレゼンテーション、開始。
以前の世界で学んだテクニックはどこまで通用するか?!
やってやろうじゃないか!