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ショート・ショート(11〜20)

SS16 「嫁入らせてください」

あっという間に始まって、あっという間に結論が出てしまう話です。

書いている本人さえビックリしました。

個人的にはこれの続きを書きたいのですが、ただのお惚気話になりそうなのでやめています。

 

 トンネルを抜けるとフロントガラスに雨粒が散らばった。

 山を燃やすような太陽の下で、細い雨粒が降り注ぐ。

 触れても濡れるとは思えない天気雨だ。


 僕は車を路肩に寄せ、周囲を見回した。国道を外れると細い農道が続き、その向こうに海が見える。振り返ると緑深い山。ゴミを捨てるな、の標識の下に赤い空き缶が幾つか転がっている。太陽光が乱反射する山道を誰かがこちらに走ってきた。それはキャミソールとジーンズ姿の少女で、薄く透けて見える白い着物を頭上にかざし雨よけにしている。少女は車の横まで来るとガラスをコンコンと叩いた。

「入れてください」

 ドアを開けると少女は助手席に座った。短めの髪についた雫が僕の頬に飛ぶ。

「入れてくれありがとうございます」

「災難でしたね。でも、すぐに上がるでしょう」

「いえ、もう少し降る予定です」

 少女は黒くて大きな瞳で僕を見つめた。少しつりあがった目尻に薄く紅が差されている。

「早速ですが、嫁入らせてください」

「え?」

 聞き返すと、少女は大真面目な顔で言った。

「私はこの近くに住むキツネです。嫁入らせてください」

「どうして?」

 少女は上を指差した。

「キツネの嫁入りなんです。だから、嫁入るのです」

「あの……」

「迷惑ですか?」

「いえ」

 何故だかわからないが、反射的に答えてしまった。

「では、嫁入らせてください。決まりです」

「……そんな簡単に決めていいのか?」

「迷惑ですか?」

 少女が強い口調で尋ねた。小さな手が僕の腕を掴んだ。

 僕は考えた。重要な決断ほど、こうやって決まっていくのだろう。

「いや、迷惑じゃない」

「では、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

 差し伸べられた少女の手に触れた。

 早速、貴方の家に参りましょう。うつむいて頬を赤らめつつ少女は言った。

「少し寄る所があるんだけどいいかな?」

「構いません。ご一緒いたします」

「何か買うものある?」

「とりあえず、歯ブラシを。後は送ってもらう手筈ですので」

「了解」

 車を発進させた。いつの間にか雨も止んでいる。雨に濡れた海沿いの国道は陽の光をあびて綺麗だった。


「しかし、なんだか、キツネにだまされたみたいだ」

 

 僕が呟くと、少女は楽しそうに笑った。

 

 


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