私は元勇者 一話
女神の加護により、勇者となる者は無差別に教会へ集められた。
まずは平民、次に貴族と死んでも代えがきく階級の順番に数名ずつで女神像の前へ立つ。
そして女神像の反応はなく、勇者は決まらないままだった。
『お前が勇者候補アーシエか……』
◆◆
「ラヴァルネ」
「うーん?」
―――誰かに呼ばれている。
「今晩は、いい夜だな我が魔王よ」
私の側近にして魔神のダルリス・パーが玉座の後ろに頬杖をつく。
ああ、さっきの夢は私が魔王になる前のそれだ。
勇者が決まらず王族が女神像の前に出て、皇帝の娘である私が選ばれた。
一人娘である私が魔王退治にいくという城内の重たい空気に嫌気が差し、庭園へ出たのだ。
正直にいって婚約者のバカな隣国王子から逃げられて幸運だった事は覚えている。
そんなときに庭園でダルリスと出会う。彼はすぐに去り、私が魔王の城へ着くと配下として彼がいた。
なぜ魔神が魔人族の王に従っているか問うと、彼は昔に女神と戦い力を半分無くしていたからだという。
私はダルリスが女神と戦って力を無くしたと聞いて、力を取り戻してあげたいと思った。
それはつまり彼を口実に全てから逃げたくて、魔王を倒した後に魔王となったという事だろう。
ダルリスが魔王をどう思っていたか、人間の国がどうなったかなんて魔王を倒すという目的を果たした後は関係なかったのだから。
ラッキーな事にこのエリアの魔王は嫌われていた。けれど人間の私が魔王となることに表立って反発はしないが賛同はしない派閥も多い。
ぶっちゃけ派閥とかどうでもいい。権力とかどうでもいい。
ただ何故だか彼といたいと思った。
「魔王様どうなさったのですか?」
「顔が険しくておられます」
「私はダルリスから力を奪った女神を許せなくて」
理由は知らないが、その事実がとても腹立たしい。
「それは恋ですよ」
「あと嫉妬心ですね」
魔人族といえど女子は恋ばな好きということかしら。
「なぜ?」
「だって宿敵が男神ならモヤモヤしないですよね?」
たしかに魔神と女神は肩書きからしてお似合いだろう。
「そういう意味じゃあないと思うけど」
「貴女様は人間の国の高位すべてを捨てて魔王となられたのですし……」
愛というより打算、純粋に彼を愛してというより違う欲から選んだというのが正しいと思う。
「大変です!!」
「なんだ」
城のしたっぱ兵士がやってきたので威厳を作る。
「王子率いる新たな勇者と他エリアの魔王がタッグを組んで攻めてきます!!」
「は?」
魔王が王子を拐って勇者が来るのはわかるが、王子と勇者と魔王がパーティーなんてあり得ないだろう。
「だいたい拐われた姫なんていない……」
「アーシエ皇女!」
扉をバン、と開いてやってきたのは婚約者の隣国王子カーバンと勇者と魔王。
「うわぁ……」
こんなコテコテの連中は胃もたれがする。
「こんなバカな真似は止めてって来ておくれ!!」
「バーカン王子はさておき、勇者と魔王はなにしに?」
「オレ魔王を討伐に来たんだ。今すぐ殿下と結婚するなら見逃そう」
「今すぐ魔王を辞めてジョブを変えろ。貴様がいると僕の魔王キャラが霞むんだ」
「カーバン王子を消せばみんな消えるのかしら?」
私はダルリスに助言を求める。
「カーバン王子が消えても魔王が消えないとな気がするが……」
「ああ」
「人国の王子の結婚など魔王の僕には関係ないからな」
「いやでも君たち、私が彼女と結婚すれば問題が一気に解決するじゃないか」
「……結果的にはそういうことですね」
「じゃあなんで結婚しないんだ?」
魔王の問いかけにカーバンが冷や汗をかく。
「彼女が魔王になったから?」
「だから、そもそもはなんで人間の皇女が魔王になってるかなんだよ」
「アーシエ皇女、勇者になって前魔王を倒したからなんだよね!?」
――暫定システムとかなかったから。
「そうなのかしら?」
「違うけど?」
再びダルリスに問うと手を降られた。
私は玉座を降りて王子と面と向かって話す事にする。
「皇女!その男は一体!?」
私の後ろについているダルリスを指指す。
「……そっき、マジで魔神ダーリン」
「魔族戦における資金援助やアチャー領とロイヤースの同盟はどうなさるおつもりか!?」
同盟も何も婚約が決まったばかりでつい先日までは領地間で戦をしていた。
「アチャー領は資金援助するすると言いながら、しなかったでしょう?ロイヤース領に及ばないのに同盟を持ちかけるなんて……」
戦におけるアチャーの劣勢からロイヤースへカーバンを婿の一人へと願ったのは向こうだ。
ロイヤースでは皇帝・女帝、伴侶を好きなだけ持てる。
まあそうでなくとも自由の暴君の代名詞たる魔王となった今は関係のない話だ。