記録その七 ヤンデレ兄妹とコンビを組む?
ラルーは無色透明の、
ライムが沈んだ“ジントニック”を一呑みすると
チラリと私の方を目をやった。
「・・・イヲナ・・・貴方・・・
博士の命令で私を監視してたのでしょう・・・?」
そう、澄んだ紅い瞳で私を見据え
彼女は無表情で囁いた。
その様は氷のように冷ややかだった。
彼女の兄 ルクトはその横ですっかり酔いつぶれていた。
・・・ラルーは随分と酒に強い・・・。
つい先ほども“スピリタス”を一気飲みしておったからな・・・?
一気飲みしておきながら、真っ白な顔をほんのり赤くするだけで
“これぐらいきつくないとねぇ~”などとほざきおった。
本当に有り得ない・・・化け物か
「・・・その通りだ」
「・・・でも、私に危害を加えるつもりはない・・・
という事で良いのかしら?」
「博士殿の命令次第で全てが決まる
博士殿がぬしを捕らえよと命じれば私はそれに従うが、
今はぬしをただ監視せよと命じられているから
私はぬしを監視するだけに留めている」
「・・・そう」
「・・・すでにその“簡単な監視任務”すら破綻しておるが」
「ふふっ・・・!」
もう変装を解いたラルーは黙々と“ジントニック”を飲み干す。
・・・私は強引に“チェリーブロッサム”という
透き通った深紅のカクテルをラルーに一口、飲まされた。
おかげで気持ち悪い・・・。
だから酒には弱いと言うておるのに・・・。
「・・・ねぇ、貴方・・・
“力”を、持っているでしょう・・・?」
「・・・ああ、そうだ」
「・・・武闘派って嘘を吐いたねぇ・・・?」
「・・・すまぬ、なるべく気付かれとうなかった」
「ほう・・・? 私が心を読めるって事を知っておきながら?」
「常に心を読んでるよう・・・ではなさそうだから
嘘を吐いたのだ」
「・・・やっぱ、常時
他人の心を読んでないって、分かっちゃう?」
「分かるだろう・・・?
あんな簡単な反応の違い、小学生でも見抜ける」
「そんな事はないと思うけどねぇ~」
そう言いつつあの軽いオーナーにラルーは“マティーニ”を注文する。
おいおい、一体それは何杯目だと思っている・・・?
酒豪にもほどがあるぞ・・・。
・・・羨ましい、など断じて思うて無いぞ・・・。
「ところで・・・イヲナ
相談があるのだけれど・・・」
「博士殿の情報をよこせ、というのなら答えぬぞ」
「私とお兄ちゃんの“死神コンビ”に入りなさい」
「・・・は? 冗談であろう・・・?」
「冗談じゃないし、酔ってるわけでもないから
真剣に考えて頂戴」
「・・・私とぬしは・・・敵同士なのだぞ・・・?」
「そうね、でも
貴方という人間はそれほど積極的に戦うワケでもないし
敵対してると言いつつ、むしろ私と戦う事を避けてるようにも
見えるわ?」
「・・・」
すっかり見抜かれてしまっているが、
もうそんな状況に慣れてしまった私は黙り込む。
確かに、私はこやつとの戦いを避けている。
・・・前の、あの“黒く染まった”直後のこやつとの戦いは最悪だった。
かつての あの“白い”頃の面影もなく
あまりにも狂気満ちるその様は、忘れられない・・・。
年に似合わない強烈で冷酷な戦い方に驚いた。
かつての姿と現在の姿への変貌ぶりに戸惑った。
出来れば、もう・・・こやつとは戦いたくない。
「で、どうなの?」
「・・・」
ラルーに返事の催促をされる。
・・・私はもうこやつとは戦いたくない・・・。
なら、仲間になれば・・・戦わずに済むのか・・・?
監視も出来る
反応実験も可能
彼女について更に分析出来れば
今後、彼女の成しうる災害も予知が可能になるかも知れぬ。
・・・損など、ないようだが・・・。
私は単純に、こやつに恐れを抱いている・・・?
「・・・ならば克服するまでだ」
「・・・?」
「いいだろう、その話・・・乗ろうではないか」
「おー! イヲナが仲間になったー!」
「・・・だが、一時的な協力だからな? そこを吐き違えるでないぞ?」
「おーけー!」
「・・・」
すでに監視任務は破綻している。
ならばいっそのこと、開き直ってやろう。
・・・私自身の弱点を克服する為にも。
やがてオーナーが鼻歌交じりに
ラルーから注文された“マティーニ”を
カウンターの上に置くと、ラルーめがけて滑らす。
優しく受け止めるようにしてラルーは“マティーニ”を受け取った。
そして嬉しそうに、はにかんだ笑みをもらした。
こういうバーではよくある手渡し方法かも知れんが
私のような人間からすれば、冷や冷やしてならん。
なのにどうしてこのような輩はこういう無謀を働くのだろうか。
ラルーのはにかみ笑顔を見たオーナーは
小さくガッツポーズをした。
本当に・・・信じられん人種だ。
そんな謎の人種を唖然として見つめていると
不意にグラスを視界の横から差し出された。
無論、差出人はラルーだ。
グラスには先ほどの“マティーニ”
それを無理やりラルーは私に飲まそうとする。
「おい! ぬし! 勘弁してくれ!!」
「いいじゃない! マティーニ美味しいよ?」
「私は酒には弱いと言うとるだろが!!?」
「あ、ラルー!? 無事!?」
「今更、起きてくるでないルクト!!」
不意に酔いつぶれていたルクトが起き上がる。
真っ先に妹を心配するのはいいのだろうが、
今さら過ぎる・・・。
「お兄ちゃん! イヲナが仲間になったから歓迎会しよー!
ね? いいでしょ、オーナー!」
「お? 面白そうだなー?
盛大にやろうぜー!」
オーナーが軽いノリでおもちゃのバズーカを取り出す。
は? なんでそんなモノが・・・。
と思ったらその銃口は私に向けられる。
反射的に避ける私は不覚にも椅子に足を引っ掛け倒れる。
その衝撃で私は頭を強く打ち、感覚全てが一瞬、綺麗に途切れる。
意識が元通りに戻るその瞬間、我が目に映ったのはラルーの手であった・・・。
それを最後に、私の意識は完全に途切れた。
イヲナさんこれでも結構ピンチです