記録その参 ラルーの兄救出作戦その弐
「イヲナ、待って・・・!
早すぎる・・・!」
「ぬしが遅すぎるのだ」
「いやいや、貴方が早すぎるのよ・・・!
だって普通、二階と三階の間くらいの所から4階までワイヤーを
あっという間に登れないからね?」
「・・・そうであったな・・・」
「イヲナ、さっきから思ってたけど・・・
かなりの運動バカ?
何でもかんでも自力で解決しようとしたり、
エレベーターの天井裏に登るために壁を走り登ったり・・・
トンデモナイわよ・・・? 貴方」
「・・・言葉もない」
私は四階の扉前をワイヤーに捕まりぶら下がっていた。
ラルーがまだ三階付近のワイヤーを登っているからだ。
要するに、ラルーを待っている。
私はラルーを待っている間の時間を利用して扉を開ける事にした。
扉にはロック解除のひもが垂れ下がっていた。
私はそれを引き、扉を開ける事に成功・・・。
外に敵がいないか、確認を惜しまない・・・が
いないだろうな、
当然、このマンションは一般の裏を知らない人間が住んでいる。
裏を知られたら面倒な事になる為、分かりやすく
エレベーター前に武器を持って待ち構えるワケにはいかない。
「はぁ・・・! やっと・・・!
追いついたッ・・・!」
「随分、手間取ってたな」
「手が痛いし、イヲナ何かやってるっぽかったし!」
「・・・そうか」
私は素っ気なく対応をして
ワイヤーから扉の向こうへ飛ぶ。
無事、着地に成功した。
ラルーも私の後を追うように軽々と飛び、
ストンとこちらに着地する。
体重6キロしかないのならば身体が軽くて
身動きが取りやすいのか・・・?
もはや人外なのは確定している。
「さて、後は409号室へ・・・と」
「409号室はこの奥だ
変に目立つでないぞ? ここには一般人も住んでいるからな」
「そのときはここにいる人間共全員を殺せばいいじゃない
派手に目立つなとか、まどろっこしい」
「ぬし、気は確かか――――」
私はラルーの到底、無視の出来ぬ一言に反論しようとした、
その瞬間、いつの間にかラルーはショットガンを手にし
奥にある409号室の扉にその銃口を向けた。
そして気付けば409号室の扉には複数の穴が空き
扉は歪んでいた。
「なッ・・・!」
私はまたも驚愕に震えていた。
ショットガンは弾数が少ない代わりに威力は高い。
しかし威力が高いがために銃声も大きいし、反動も激しい。
それにも関わらず・・・銃声がしなかったのだ・・・!
私はラルーがショットガンを持った場面を見ていたが、
彼女が引き金を引いた所は見ていない・・・。
だというのに、いつの間にか発砲された弾丸・・・。
しかも彼女の足元を見れば既に落ちている薬莢・・・。
一体、何が起きたと言うのだ・・・?
「この程度の事で驚いているの?
イヲナ、隙だらけよ?」
ラルーは私を横目に一言、言い放つと走り出した。
409号室を外から強襲したのだから
今頃、部屋の中の者共が黙っていない・・・。
私はラルーの一言を受け、ラルーの後を追う。
そして409号室まで
あと4メートルの所で扉が内側から蹴破られた。
蹴破られた扉は簡単に倒れる。
その向こうには随分とイカつい大男が
大きなガトリング砲を私とラルーに標準を合わせている・・・。
「かなりはちゃけてるオッサンだねぇー」
「そんな事、呑気に話してる場合ではないぞッ!?」
そうこうしてる間も、ガトリングは回転し始める。
まずいッ・・・逃げられぬ・・・!!
だが、それよりも先にラルーは私の肩を掴み
持ち上げるとマンション外に飛ぶ・・・。
私の思考回路はもう・・・完全に停止していた。
パシッという微かな音の後、
凄まじい銃声が延々と轟く。
ひたすら、延々と、やかましい音と、硝煙の匂いが鼻を付く
長い長い、銃声の連続音・・・。
しばらく経つとやっとガトリング砲の弾丸が尽きて
カランカランと薬莢が落ちる音が虚しくも響く。
辺り一帯は白い煙で充満していてとても息苦しい・・・。
まともに周りの様子が見えない・・・。
「イヲナ、無事? 蜂の巣になってない?」
コソコソと囁くラルーは私を見下ろしている。
・・・今、私はどういう状態なのだ・・・?
そんな自身の疑問が浮上したと同時にそれは解決した。
ラルーは今、右手で
マンションの外廊下の外塀を掴み、ぶら下がっている。
空いている左手では私の肩を掴んでいる為
私はラルーと一緒に外塀の裏をぶら下がっていた・・・。
「蜂の巣になっているか? だと?
ぬし、それよりも最悪の状況ではないかッ・・・
いっそのこと蜂の巣にされた方が清々しいぞ!」
「イヲナ、自殺願望持ち?
辞めなさいよ? 自殺したら問答無用に地獄行きだから
ルシファーの奴が喜ぶわ?」
「余計な事を言っている余裕があるのであれば
どうにかこの状況を打破せい!」
「・・・ら、ラジャー」
少々、身の危険が迫りイライラしながら
小声でラルーに怒鳴ると
ラルーは何故かピシッとして足を前後に揺らし始める。
「おいッ・・落ちるぞ・・・!」
「大丈夫、これも作戦の内!
私、見た目に似合わず怪力持ちなんです・・・よッ!」
“よッ!”の辺りでラルーは宙を蹴り、外塀を掴む手を離す。
その勢いでラルーは宙を上へと飛びマンションの外廊下に舞い戻る。
その間、私は非常に安定しない状態でまたも私の思考回路が停止した。
あまり暴れなかったおかげで少しの打ち身程度の怪我に済んだ・・・。
「小娘・・・なかなかやるじゃねーか・・・」
「そういうオッサンも
一般のマンションでガトリングをぶっぱなすなんて・・・
とても肝が据わっているのね?
一体、どうやってガトリングなんて一般のマンションに
持ち込めたのかしら・・・?」
「バラバラに分解しておいて、時間をじっくり掛けながら
バッグに入れてこの部屋に運び込むのを繰り返し、
この部屋の中で組み立てたんだよ・・・お嬢さん」
「へぇー、そんな手間と時間のかかる事を地道にやったんだ・・・
オッサン、見かけによらず慎重なのねー?
んな、面倒のかかる事をしてでもこの部屋にガトリングを用意したかった
つまり、私達みたいな襲撃者は想定済みってワケ?」
「その通りさ、お嬢さん
だが、素直に驚いてるんだぜ?
この狭い通路では逃げ場なんてねぇーワケで
ガトリングを適当にぶっぱなせば簡単に勝てるはずだった・・・」
「・・・お兄ちゃんを誘拐したのは・・・
私を誘い出すためね・・・?
お兄ちゃんを誘拐して人質にすればコチラから勝手に
ここに襲撃に来るワケだから・・・
ガトリングで待ち構えて私を殺せれば・・・
“狂気の死神”を殺せれば、名を売る事が出来る
これほどに良い宣伝法はないって事・・・!」
ラルーとガトリング男は真相について話す。
途中でエレベーターを留めたのは
ガトリングを組み立てる時間稼ぎのため、
そう言う事か・・・。
「ふふっ・・・!
私も随分と・・・舐められたモノねッ・・・!
お兄ちゃんも同様に・・・
私とお兄ちゃんのコンビの力を・・・見くびらなければ
貴方達はそれなりに大きなグループになれたでしょうに・・・」
だが、ラルーは勝利を確信したと言わんばかりに
狂気的にその男を嘲笑う・・・。
何故、勝利を確信出来る・・・? ラルー・・・
やはりまだラルーの兄救出作戦は終わらない・・・。
・・・いちいち無駄口を叩きおって・・・ラルーめ・・・。