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ヤンデレ死神少女 監視記録  作者: 黒炎 ルカ
ラルーという娘は
26/31

不吉の呼び声 記録その弐拾弐時 ラルー視点





・・・ハッキリ言って、心臓が止まるかと思った。


ディアスと戦って、

負けて、

だけどお兄ちゃんが駆けつけてくれて、

助かって。


私は混乱と動揺を治す為に

一旦、イヲナと別れて“仕切り直し”に挑もうと思ったのに。


消えていた“時間操作能力”が戻ったのを合図に

へティーが待つレストランに行ったら

イヲナが勝手に私の過去をディアスとへティーに話しているなんて。


どうして、よりにもよってディアスとへティーに話すの?


なんで、簡単に人の過去を抉るの?


イヲナだって自分の顔や過去を知られたくないくせに。

そんな事も分からないだなんて、想像もしなかった。


その光景を見た瞬間、私は時間を止めた。


たくさんの感情が一瞬で吹き上がってしまったから、

これを鎮めないといけない。

このままイヲナと接していたら、私はイヲナに何かしそうで・・・。

もし、取り返しのつかない事をしてしまったら・・・。


そう考えて、あくまでも“冷静”を心がけた。


ダッテ、イヲナは冷静ナ人が好きダカラ。

お利口デいなきゃ・・・?



「ラルー?

大丈夫・・・?」


「大丈夫、お兄ちゃん・・・」


「・・・ほら、僕の言った通りだった

イヲナはやっぱり“ロクデナシ”ってやつだ

今からでも遅くないよ? イヲナを殺そう?

この時間が止まっている中でアイツの首を刎ねてしまえば・・・」


「止めてっ!!」


「っ・・・!?」


「私のイヲナは首を刎ねられないの!

マリー様みたいな事にはさせない! 絶対に!」


「あの男とマリー様を一緒にするなんて

ラルーもどうかしているんじゃないのか!?

アイツとマリー様とでは根本から・・・!」


「それでも、時間が止まった中で首を刎ねるなんて

そんな不意打ちみたいな事をするのは許されないわ・・・!」



最初からイヲナを良く思わないお兄ちゃんが

私にイヲナを殺すよう、唆す。


確かに、今ならばどんな人間でも

無抵抗に殺せるだろう

あの出鱈目(でたらめ)な能力を持つディアスだって、ひとたまりもない。


しかし、どんなに憎んでいる相手でも

それは私の思いに反する。


時間を止め、その中で殺す。

たったこれだけで何だって出来るのに

そうしてこなかったのは、礼儀に反するからだ。


どんな外道でも、礼儀を重んじて接しなくては。


・・・でも、お兄ちゃんの

“イヲナとマリー様を一緒にするな”

という発言は正しい。


思わず“無抵抗に首を刎ねる”という言葉に

過剰反応してしまった私が悪いわ。



「・・・お兄ちゃん、声を荒げてごめんなさい」


「う、そんな申し訳なさそうな顔しないで?

僕だってうっかり怒鳴りつけてごめん・・・」


「なら、お互い様ね

ひとまずイヲナの話は後回しにして

この状況をどうするか、決めましょう?」


「うん、そうだね

たらし野郎とお喋り女に僕らの過去が知られたのは痛恨だ」



たらし野郎はディアスの事

お喋り女はへティー・ルアナの事

お兄ちゃんは人を名前で呼ばず、あだ名を付ける癖がある。


ディアスの、“たらし野郎”には納得するけれど・・・

へティーの、“お喋り女”は言いすぎだと思うわ?

彼女のお喋りは仕事なんですもの、仕方のない事よ?


彼女がいくら親切でも、

それがあくまでも“仕事”なのは私も知っているから

私はただの一度もへティーを信頼した事はないし。

だから、お兄ちゃんが心配するような事は起きない

・・・いえ、起こるはずがない。


それでも彼女の腕前は確かだから、

“仕事上の関係”を続けているだけ。



「まず、2人にはこの場の会話を忘れてもらわなくちゃね?

だから2人は私が“食べちゃう”

そんでもって、この“大事な話をする”という状況は

この状況を作ったイヲナ自身にどうにかしてもらいましょう」


「うん、それがいいね

あとはイヲナをどうする?

コイツは正真正銘の有罪だろう?」


「ええ、そうね

心がとても痛むけど、罰は受けてもらわなくては・・・」


「ねね、じゃあ僕が罰していい?

出来る限り手加減するからさ」


「うーん・・・まあ、そうね

いいわ、お兄ちゃんお願いね?」


「やった」



私はディアスの背後に回り込んだ。


丁度その向かいにイヲナが座っているから、

この位置ならイヲナに見える。


一方、お兄ちゃんは黙ってイヲナの隣に座るカルムの背後に立った。


むむ、よっぽどカルムと仲良しになったからなのかしら?

嫉妬しちゃうなぁ・・・。



「―――イヲナ、本当にどうして?」



だが、そんな可愛い嫉妬の感情は束の間に失せる。


向こうにいるイヲナを見て

また、感情が荒れてくる。


だめだ、駄目・・・耐えるのよ・・・。

どんなに怒っていても衝動に身を任せたら最後だ。

何もかもを失う。



「私は貴方の仮面の下を知らなくても良いと決めた

貴方が、どこの誰なのかも知らずとも

愛すると誓ったの


―――なのに、どうして私の過去を追い求めるの?

振り返っても、変える事すら出来ない過去なんて・・・

何の価値も無いのに

人の知られたくない過去をどうして、好き好んで・・・


イヲナ、イヲナ、嗚呼・・・イヲナ・・・?


・・・私ってば、貴方の事は名前しか知らない・・・

自分の事は知られたくないくせに、

私の事は暴きたいなんて、酷すぎるわ・・・」



私はイヲナの事を愛している。

そう、私はイヲナとの関係じゃなくて

イヲナの仲間として、隣に居続ける事を望んでいるの。

恋愛なんて出来なくても良い。


なのに・・・イヲナは私との関係を壊す望みを抱いている。

このままじゃ、このままじゃ・・・。



「ラルー

一体、何をどうしたいの」


「・・・隣に居れさえすれば良いの」


「それ以上は何も望まない?」


「ええ、当然よ

この気持ちは永遠に隠すと決めた

そりゃあ、気付いて欲しいとは思うけれど・・・」


「・・・面白くない、とことん」


「そう言われたって、私だって面白くないわ

イヲナは鈍感なのやら冷たいのやらで」


「イヲナとの関係を、夢に願ったりしているの

デートとか、チューとか、そういうのが良いの」


「・・・具体的に、想像した事は無かったわ」


「ふーん・・・

それってつまり、ラルーも理解しているんじゃん」


「・・・? 何を?」



私がぐちぐち、時の止まった中で

イヲナに問い詰めているのを見て

お兄ちゃんはさぞ不機嫌そうに、話し始めた。


まるで他人事のような、だけど確かに苛立った様子で・・・。



「現実的に考えて、

イヲナがラルーの事を好きに思うなんて

イヲナがラルーの気持ちに気付くなんて、無いね


だって、ラルーがさっき言っていたけど

2人はお互いの事を何も知らない


イヲナはラルーが小さい頃から知っていても

ラルーがどうして今みたいな事になったのか知らないし、

イヲナは博士の奴隷だ、憎き宿敵の味方だ

そんな敵同士の関係で恋愛関係になれる?


特にイヲナはその事を深く自覚してるはず

だから、ラルーが敵でありながら

自分に好意を寄せてるなんて想像すらしない! 

イヲナがラルーの気持ちに気付くなんてもっと無い!


ラルーに至ってはイヲナの顔さえ知らない!

イヲナがどこの誰で、どうして博士の奴隷になったのかも!


これって、どう考えても“無い”ぜ?


ラルー、その気持ちは

その“愛”と形容する思いは、無謀過ぎるよ」



冷酷に、お兄ちゃんにしては珍しく

長々と話した。


お兄ちゃんからすれば私の気持ちは無謀極まりないものでしかない。


悲しい事にも

私にはその言葉に反論出来るだけの情報がなかった。


正しく、お兄ちゃんの言葉は正論だった。


私がいくら思おうと

イヲナは私の思いに気付くの?

イヲナが私の事をどう思っているのかも良く分からないのに?


私はイヲナの事を何一つ知らなかった。

そう、私は何も・・・


そんな私とイヲナが恋人になれる?

互いを何一つ、知らずに

これまでの敵対関係を水に流して・・・?



「―――有り得ない!」



そう、有り得ないのだ。

私とイヲナとでは、とても・・・。


その事にやっと気付くと

私の目が熱くなり、痛み出した。


っ・・・まただ・・・!


痛みのあまり、私は目蓋を固く閉ざす。

そして苦しいばかりの涙が溢れる。

だが、私には涙よりも重要な事が“見えていた”


目蓋を閉じているのに

鮮明な映像が浮かび上がっていた。



・・・怒りながら、泣き叫ぶ私の姿


異様な雰囲気を纏ったイヲナとカルム


暗い夜、どこかの大きなビルの玄関口・・・

血まみれで、誰かが横たわっている・・・?



その誰かの顔を覗こうとした途端

映像が激しく入り乱れる。

そして、それが誰かも分からないまま映像が切り替わる。



ディアスの嬉しそうな笑顔


その手には、何か細かい字がびっしり書き込まれた紙が


それを受け取るイヲナ


“まさか、私が・・・”


確かに、イヲナがそんな驚愕の声を上げた。



すると、またもや映像が乱れ

一瞬だけ断頭台に頭を固定される私の姿が現れると消える。



そして、またもや映るのは

血濡れの剣を手にしたイヲナが血まみれの私を抱きかかえ

ジッと私を見下ろしている姿


血まみれの私は笑顔だった。




ぐっ・・・。


その不吉極まりない映像を最後に、

遂に私の“予知”は終わる。


そう、これが私の“未来予知”


私は時間や空間を自在に操れても

この予知能力だけは何一つ、制御出来ない。

いつも勝手に始まって、いつも不吉なモノばかり見せる。



嗚呼、不愉快な未来予知・・・!

こんなモノを見せたからって、何になるというの!


過去が変えられないのなら

決まっている未来も変えられない。

矢が放たれた軌道から外れる事の無いように・・・

人間に出来る事は軌道を歪める程度・・・




軌道を、歪める?




ふと、私は思い出した。

あのイカれた麻薬組織を。


組織でありながら、宗教的に

イヲナの事を最初から神として崇めていた。

イヲナの事を、知っていた あの組織を。



「知らないのなら、知れば良い・・・!

決められた未来なら、歪めれば良い・・・!」



その瞬間、頭の中で爆発でも起きたかのようなショックが走った。


歪める程度

それが丁度良いのだ。


問題なんて、少しずつ埋めていけば良い

少しずつ埋めていって、イヲナとの距離も縮めるのだ。

イヲナの現在の気持ちを少しずつ歪めるのだ。


無関心ではないのだから

今の気持ちを正反対に歪めれば・・・!



「お兄ちゃん!

ありがとう・・・!」


「え、え? 何、どうしたの」


「お兄ちゃんのおかげで問題点を正確に理解できたわ!

私は頑張るわ! 運命を歪めてみせる!」


「運命って、何の?」


「イヲナが私の事を憎む運命よ!

そんな運命になる前に、愛されるようにするの!

少しずつ距離を詰めて・・・!」


「ラルーラルー、落ち着いて!?

意味が分からないんだけど・・・!?」


「とにかく! お兄ちゃん、愛しているわ!!」


「!?!?!?」



今はまだ、イヲナの事は何一つ分からない。


だけれども、

イヲナの事を知るヒントなら、ある。


あの組織の始まりを調べよう

組織の設立者を見つめるの

設立者がイヲナを神に立てようと決めたはずなのだから

イヲナが誰なのか知っているはず・・・!


イヲナの事が分からなくても良いと思ってきたけど

それももうお終い。

イヲナが私の秘密をあっさりバラすんだから、お返しよ?


私はイヲナの秘密を知ってやるわ。

こうすれば、何かが変われる。


こうすればきっと・・・運命を歪められる・・・!



「――――――ちっ」



不意に、どこか遠くの方で舌打ちが聞こえた。


・・・そういえば、誰が

私とイヲナの関係を“有り得ない”と叫んだのかしら・・・?

あれは確かに、お兄ちゃんの声ではなかったけど・・・。



って、空耳を気にしている暇はないわ


とにかく、まずはディアスとへティーの記憶を食べて

イヲナを“私の時間”の中に導いて・・・

私の過去を隠蔽しなくては


私はイヲナに念じた。

私の時間の中でも動けるように、と。




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