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ヤンデレ死神少女 監視記録  作者: 黒炎 ルカ
ラルーという娘は
25/31

記録その弐拾参 ヤンデレ兄妹と悪魔憑きの討論




「私の元に帰ってこい

さきほどの戦いで分かったが、ほとんど丸腰も同然だぞ

今の今まで無事に済んでいるのは運が良いだけだ

自分が強い、などと勘違いするんじゃない」


「はぁ? 一体、誰が

“自分は強い”って言ったわけ?

今まで無傷で勝ててきたのはドイツもコイツも雑魚だからよ!

それに私は一人ではない、お兄ちゃんがいるからこそ

誰にも負けない・・・!」


「じゃあ、その兄が寝ている間に襲われたら?

兄と完全に別行動している時は?

お前の言うことは何一つ、信用に値しない・・・」


「ああ? 貴様なら妹を守れるってのかよ?

同じく、てめぇが寝ている隙にラルーが襲われたら?

完全に別行動してる時は? 穴だらけなのはてめぇの方だろ、ほざけ!」


「私はあくまでもラルーと話しているんです

しゃしゃり出てくるんじゃない、ルクト!」


「僕はラルーの兄だ!

赤の他人のてめぇとは違う

ラルーのこれからは僕のこれからでもあるんだ、家族なんだぞボケが」


「なんで、満面の笑みで口汚く私を罵っているんですか・・・

普段はポーカーフェイスなのに・・・」


「どう怒ろうが人の勝手だろが、このアホンダラが」



・・・これほどにないレベルでうんざりしている。


ヤンデレ兄妹とディアスによる熱い討論が展開されているが

どちらも譲らない。

両者が主張を続けているせいで、話が平行線のままだ。


正直に言えば、結論が出るとは思えない。



「私はお兄ちゃんがいなければ生きていけない

お兄ちゃんあっての“私”なの

それなのに、そのお兄ちゃんを不当に扱う貴方をどうして

師匠と仰がなければならないの? どうして尊敬しなくてはならない?

貴方の教えには感謝するけど、お兄ちゃんを悪く言うなんて許せないわ

考えを改める気が無いのなら 私が貴方の元を去るのは当然の事よ」


「兄妹同士でどうしてそこまで依存し合う?

両者がいなければ生きていけないなど、そんなワケはないだろう」


「いいえ、私たちの場合に限って

お互いが必要で、お互いがいなければならないの

貴方は家族・・・いえ、双子の絆を見くびり過ぎだわ?」


「そんなものは絆とは言わない、ただの共依存だ

こういう仕事をしている以上、互いがいつか死ぬ事を考えろ」


「もしも、どちらかが死んだのなら・・・

もとい殺されたのなら、まず復讐をしてから

・・・後を追うわ」


「そのようでは話にならない

お前たちの下らない“絆ごっこ”に付き合っている暇はないんだ

これは命懸けの仕事なんだ、血で血を洗う善も悪もない職業

互いの死すら許容出来ないで何が“殺し屋”だ

この半人前の小娘、いいか 何の覚悟もなく人殺しを続けるヤツには

必ず報いが来る、否・・・必ず来る苦痛に耐える事が出来ないんだ

お前ほどの汚い人間なら分かるだろう?」


「今さら師匠ヅラ? はっ!

久々にごもっともな“お説教”を聴かされたわ!」


「おい、私はお前のためを思って言ったんだぞ

舐めるのも大概にしろ」


「私のためを思っている、ですって?

あっははははははは!!! 笑わせるわねぇ・・・! 

貴方が私に対して抱いているのは、ただの所有欲と独占欲よ! 

私という、貴方の言う事には全て忠実に従う“お人形”が欲しいだけ!」


「・・・ほう、それが事実だとしたら

私は今頃、貴女の四肢を切断して

邪魔者は躊躇無く排除し、家に持ち帰りますけどね?


・・・私が大人しくしていく事こそが、

貴女を“都合のいい玩具”と思っていない証拠と主張しましょう」




・・・もう嫌じゃ


このような会話があと何時間も続くと考えるとなおさらじゃ

こやつらをどうにか出来ないだろうか。


あの、知りたがりの情報屋へティー・ルアナですら

ドン引きしているほどだ。

早く止めた方が・・・否、話を解決させた方が良いじゃろう。


考えよう。



「悪いが、てめぇの主張をどうして信じられる?

前科があるくせによお?」


「その話はこの場で出すには相応しくない

何の関係もない話だ」


「いいや! 関係あるね!

てめぇが昔にやった事、全部調べたぞ

さすがの僕でさえ、てめぇほどのドクズは見た事がないよ

下手すりゃ、あの“邪魔男”の方が人間的に良いかも知れないと

思わせるほどだ! 僕がそう思ったんだから、相当だぜ?」


「ワケの分からない比較対象を出されて侮辱されるとは

今日という日は忘れられなくなりそうです

私は好き好んでこんな風になったわけではないんですよ?

しかし、ルクト君にそこまで“ひどい人間”と思われたのは事実

私の人格が悪い事は謝罪しましょう

が、誓ってラルーには“ひどい事”をしません


・・・これで良いんだろう? 満足したか、白小僧」


「おい、自分は舐めるなと言いながら僕の事は舐めるのか、

人間じゃないクセに“人間”を自称するんじゃねぇよ

気色の悪い“悪魔憑き”の分際で」



どんどん論点がずれていっている気がする・・・。


白熱した討論はやがて

相手を罵り合う口喧嘩に変化していた。


もはや考えている暇はないぞ、早く止めさせねば

殺し合いに発展しかねない。

こやつらはそういう連中だからな・・・。


一刻も早い解決が望まれる・・・!



「ぬしら! 少しは平和的な討論を続ける努力をせい


ディアスよ、何ゆえにルクトを弟子に迎える事を拒む?

いくら性に合わないとはいえ、それさえ我慢すれば

ラルーは当たり前のように戻るはずだぞ


そうであろう? ラルー?」


「・・・ええ、そうよ

でも・・・!」


「それ以上は黙れ、例えディアスの事を不愉快に思っていたとしても

一度は“師”と仰いだ男じゃろう?

今までの態度を見るに、実に無礼ではないか

人格や、その手法がアレでも、その腕を認めたから弟子になったはず」


「・・・」


「その過去も無かった事になるのか?

ほんにぬしは手の付けられぬ狂犬よのう・・・!」


「ちっ・・・

ええ、気に食わないけど、そうね」



悪態を付くラルーは乱暴に椅子に座り込むと

舌打ちをして、ディアスと私にそっぽ向く


その態度は子供のようだ。


・・・が、それも無理はない

こやつはこの見た目で13歳の娘だった。


子供のよう、ではなく本当に子供なのだ。


何故、うっかりラルーが子供だと忘れてしまうのか

自分でも不思議で仕方がない。



「おや、仲裁してくれるのですか?

とっても親切なんだな? イヲナ」


「相当に気が立っているようじゃな

ぬしの肩を持つわけではないぞ

あくまでも私はこの討論を無事に終わらせたいだけだ


ラルーが殺されたり、ぬしによってラルーが拐われたりすれば

私の仕事に支障が出るから手を打つのじゃ」


「あくまでも、“監視人”としてか・・・

中立の(てい)で偉ぶられるのは大変、不愉快だが

安全に討論を終えるためにはお前の協力が必要。

・・・手伝ってくれ」



“不明の悪魔憑き”ともあろう者が、たかが13の娘にお手上げか。


その点に関しては同情する。

理不尽な力を持っているために、いくらディアスでも

彼女と戦うとなれば無事では済まないだろう。


それは私だって同じこと

この二人が全力で戦うとなれば、私だって何かの飛び火を被る事になる。


何よりも遠慮したい事だ・・・。



「ディアスよ、先ほども言ったが

もう一人の弟子としてルクトを受け入れれば

ラルーだって戻ってくるはずだ、何故、それさえ我慢出来ない?」


「元より我慢がならない性格だから、というのもある

あと、男の弟子を迎える趣味だって無いのもあるし・・・

そもそも弟子なんて面倒だから、気に食わない」


「・・・そのようで、どうしてラルーを弟子にした・・・」


「とても可愛らしかったから」


「・・・ぬしの女好きにはつくづく関心するのう」


「呆れられるかと思いきや、逆に関心されるなんて

不思議とムカつきますねぇ・・・」


「まあ、よい

その点に関しては一切、妥協するつもりはないのか?」


「ええ、もちろん」


「そうか・・・」



ディアスの清々しいまでの女好きには本当に感心させられる。


そもそも、何故そこまで女に固執するのか理解に苦しむ・・・。

何らかのコンプレックスがあるのか

単純に生まれ持った性癖のためか


恐らく後者の可能性が高いだろうが。



「困った話だ

これでは結論は“両者共に縁を断ち切る”以外に無いぞ?」


「それはまるで負けたみたいで嫌ですね!」

「ええ! 是非、そうして頂戴!」



「「「・・・・」」」



「ほんに、この師弟はどうにかならんものか・・・

私はそろそろ諦めたい

このままではぬしらを死ぬほど嫌いになりそうじゃ・・・」



真っ向から意見の食い違う

縁切り賛成のラルーと縁切り反対のディアス

・・・両者には一切の妥協を認めるつもりは無し。


一体全体、これをどうしろと言うのか。


頭が痛くなってきたぞ・・・。

解決の糸口は完全に絶たれた以上、私には策の一つも浮かばぬ。



「ねぇ・・・ちょっと良いかな?」


「・・・!

へティー・ルアナ、もしや何らかの良案があるのか・・・!」


「良案かどうかは本人たちに聞かない限りは分からないけどね・・・」



そこですっかり静かになってしまっていた

情報屋へティー・ルアナが手を上げた。


もしや遂に、この見るに耐えない論争を終わらせられるのか!?



「“不明の悪魔憑き”

あくまでも、死神ちゃんには弟子でいてほしいの?

別に弟子でなくても友達とかでもやっていけるんじゃない?」


「・・・!」



へティーの案は

師弟関係を止め、友達としての関係は考えられないのか?

というものだった。


まさに意表をつく案に

ディアスが“その手があったか!”と言わんばかりの表情をしている。



「え、ちょ・・・

ディアスが求めているのは

“自分の言う事を何でもこなす奴隷”・・・

噛み砕けば、上下関係なのよ・・・!?

そんなの、ディアスが許容するわけが・・・」


「良いですね、その案」


「・・・ねぇ? 聞いていい?

貴方、本当にディアス? ヤクとかキメてないわよね?」


「なぜ、そこまで私の人格を疑われているんだ・・・?」


「じゃあ、頭でもぶつけた?

道端に生えてた変なキノコとか食べた?

身体はディアスでも中身は全くの別人とかじゃない?」


「なんでそんなに疑われているんでしょうか・・・

私はそこまで最低の男に思われているなんて

ハッキリ言ってショックです・・・」


「・・・!?」


「“え? お前、最低野郎でしょ?”

とでも言いたげな表情をしないでください・・・

ショックを通り越して、大真面目に泣きたくなってきました」


「大の大人のガチ泣きなんてキモいから

泣くんなら、人のいないところでして頂戴」


「未だかつてないレベルで冷たすぎません?

どれだけ怒っているんですか・・・」


「あれ? 泣きたいんじゃなかったの~?

嘘を吐いて、私の機嫌を取ろうだなんて

かの“不明の悪魔憑き”も落ちたものねぇ・・・!?」


「・・・」



やっと、やっと

話が解決するかと思いきや

ラルーは納得がいかないのか、ディアスを挑発し出す。


何がいけないんじゃ、何が気に入らない・・・!?


また私は頭を抱えた。



「・・・時間をかけて関係修復に努めましょうか

それまで、友人として仲良くしてくれませんか?」


「何よ、嘘吐きの“喰われ者”

なんでそこまで私にこだわるの?

今日だって、どうしてこんな大胆な行動に出たのかも分からないし・・・」


「・・・事情があって、貴女と関係を修復しなくてはならなくなった」


「事情? 自分勝手で傲慢な貴方が

私と仲直りしなくてはならなくなる状況が理解出来ないわ

今度は何をたくらんでいるの?」



しかし、意外な事にも

ディアスの方からラルーに歩み寄り

ラルーとの関係修復を望む考えを表した。


確かに、ラルーの言う通り

ディアスは少なくとも今日に至るまではラルーの事を放置していたのだ。


なのに、突然にも

“十字剣の神父”を使って“死神兄妹”を挑発し

結果的に今の討論にまで話を持ち込んでいる。

あまりにも急すぎる展開だ。


今回のこの騒動には異常なまでの手間暇を掛けている。


そんな手間暇を掛けてまでも

今さらラルーと接点を持ちたがるなど相当な理由があるのだろう・・・

思えば


教会の最上階での戦闘において

ディアスはラルーを家に連れ帰ろうとしていた。


まるで



“何か”からラルーを庇おうとしているかのように。



ラルーが私を捕らえている間に起こした

警察署の殺戮に関しても関心を持っていたし・・・。


何やら、裏があるのは確実だろう。


しかし、このディアスがその本心を簡単に話すように見えるだろうか?

きっと話す気などサラサラ無いのだ。


ディアスは相当なひねくれ者だ。

事情を説明すればラルーも分かってくれるはずなのに

あえて、事情を説明せず強引に自分の都合の良い展開にしようとしている。


だからこそ、ラルーの問いに対しての

ディアスの返答は決まりきっていた。



「貴女が自分の過去を話そうとしないのと同じですよ

事情を説明する気は毛頭、ありません」


「・・・貴様のそれと、私の過去を一緒にしないで頂戴」



ディアスは最初から事情を説明する気が無い。


彼の性分上、許せないだけなのか

話すワケにはいかない事情があるからなのか


私はディアスがどういう男なのかよく知らないがゆえに

ハッキリとその真意を判断する事が出来なかった。

いや、むしろこの男の考えを読み取れる者がいるのか・・・?



「ラルーよ、ディアスとはどうする気じゃ

はっきりと答えを出さねばこの男

いつまでもストーカー行為を続けそうじゃぞ」


「イヲナの私に対する扱いがだんだん凶悪になってきているが・・・」


「早う、答えを出さんかラルー」


「無視ですか」



私はラルーに答えを迫る。

この下らない討論を終わらせるために。


・・・眼鏡の男が視界の隅で何か言っている気がするが

気にする必要はないだろう。

気にかけるだけ、無駄だ。



「ラルー

忘れたワケじゃないと思うけど

この男は何度も僕らを嵌めた


コイツの目的がなんであれ

何かを企んでいて、それに僕らを利用しようとしているのは・・・」


「分かっているわ、お兄ちゃん

でも・・・この男の思い通りにならないと

どうなるかも覚えているでしょう?

やはり、この男を“拒絶”するのはハイリスク過ぎる」


「じゃあ、どうしろと?

この男とこれ以上に付き合ったところで

その先にあるのは途方も無い面倒事なのは明らかだろ?」


「・・・」



ルクトはラルーに語りかける。


ディアスは危険な男だと。


それには私も同意見だ

これほどにまで、考えの読めない男はうかつに信用出来ない。


博士も考えが読めないが

彼は確実に結果を出す、悪い結果ではなく

誰かの為になるものを。


しかし、話を聞くに

このディアスがもたらすものは


彼自身の傲慢を叶える業だけ。


あの面白そうな事なら何でもやりたがる

ラルーが嫌がっているのだ。


それがどれだけの被害をもたらしてきたのかがよく分かる。


討論を円滑に終わらせようと躍起になった私が

いよいよ答えが出そうになった途端に、これでよかったのかと

考えてしまうのはなんと愚かな話だろう・・・。


私は優柔不断だ。



「・・・どっちも選ばないわ」


「は?」


「まるで二択しかないみたいなのがムカつくわ

私の意思なんて関係なく話が進んでいるのが特に!

だから、貴女の弟子も辞めるし友達にもならない」


「・・・縁切りを目論んだところで私が許すと思うか?」


「ええ、だからそこは開き直る事にした」


「え」


「時間を掛けて私との関係修復に務めるんでしょう?

なら、そうなさい

私はもう逃げも隠れもしないわ

仲良くできるのなら、それでいいし なれないならそれまで

そこんとこは貴方の努力次第、どう? 割と良い結論でしょう?」


「・・・最後の最後で全てが面倒になっただけでは?」


「うっさい」



もっと優柔不断なのがいた。


へティーの案を主に

あとはディアスの努力次第という

ざっくり言えば、全てはどう転ぼうがどうでもいいという事だ。


こやつ・・・。

面倒くさがりも大概にせい・・・。


まあ、何はともあれ

乱闘だの、殺し合いだの、騙し合いとか

起きずに済んで良かった・・・。


話も無事、丸く? 収まったし。



「・・・こんなにワケの分からない場に立ち会った事は多分

人生で初めてだと思う・・・」


「ぬ、カルム

おぬし・・・いたのだったな」


「うん、息を殺して

いないふりしてたから」


「・・・ぬしも悪い奴じゃ」



討論に一切、参加していなかった吸血鬼カルムは

死神兄妹とディアスの気迫に恐れをなして

気配を殺して、関わり合いを持たないようにしていた模様。


・・・これほどにまで情けない吸血鬼を私は他に知らない。



「まあ、拒否られずに済んで良かったです

必ずや貴女を連れ戻します」


「それほどの仲になれるとはとても思えないのだけど

今まで女を取っ替え引っ変えしてきたディアスの腕の試しどころね」


「その話はよしましょうか」


「はいはい、分かりました

この女の敵が!


・・・・て、どうして私はこんなにも女の敵と接点を持ってしまうのかしら

女としてちょっとヤバイ気がするのだけれど・・・」


「え、私の他にそういう人がいるんですか・・・」


「うん、メゴロウって言うヤツと・・・

って、ディアス・・・とうとう自分で認めたわね」


「・・・!?

・・・認めちゃあ、いませんが何か??」


「頑なね・・・」



何だかんだ言いながらこやつら仲が良いではないか。


こやつらの関係について

私は更に混乱してきたぞ・・・。

・・・今までの修羅場の意味は一体・・・。



「・・・で、死神ちゃんが

“不明の悪魔憑き”の弟子だって情報は流して良いの?

割と、死神ちゃんの強さの秘密を知りたがるヤツは多いから

物凄い高値が付くと思うんだ!」


「売らせませんよ?」


「・・・やだ、怖いなぁ~

せっかくの色男が怖い笑顔で脅さなくてもいいじゃないかー・・・・」


「ごめん、そこんとこは我慢して頂戴

この男の機密主義は貴女だってよく知っているはずよ?

いえ、むしろ・・・“貴女”だからこそ、と言ったところかしら?」


「・・・死神ちゃんにまでそう言われちゃうなんて残念

まあ、仕方ないね」



討論が一段落したのを確認したへティーはいつもの調子でふざける。


嫌がられるのは分かっていただろうが

へティーはきっと、この二人の“仲直り”に協力したいらしい。


口では自重すると言うが

どうにもへティーの言葉は信用出来ぬ。

情報屋である以上、それは仕方のない話だが・・・。



「ん、じゃ失せなさい」


「・・・え、私に言っているんですか?」


「そうよ、こっちはここで仕事するためだけに

日本からはるばる来たんだから

貴様のために手ぶらで帰るわけにはいかないのよ」


「物凄く勝手な理屈じゃありません?

こっちに来てから十分、貴女も稼いでいるはずですが・・・」


「なんで知っているのよ」


「どちらかというと、こっちの方が手ぶらで

帰ると大損なんですよね・・・」


「・・・じゃあ、久しぶりに仕事をしなくちゃねぇ・・・!?」


「なんで半ギレなんですか」



そして、討論の結果を受けて

ラルーはいつもの調子でディアスと接し始める。

教会での態度を見れば、すごい先進じゃ。


しかし、やはりこの二人の関係がよく分からん。


少し仲良くなったかと思えば

次の瞬間、お互いを追い立てようとしている。

・・・どうしてこんな頭の逝かれた二人が出会った?



「・・・へティー、そういえば

仕事の斡旋もしているって言ってなかったか?」


「え、そうだけど? カルム君、どうしたの?」


「あ、いや・・・

ラルー、車で移動中に

“何か非常事態が発生した時用にお城一つ買えるくらい貯金してある”

って、言っていたよな・・・?」


「・・・何を企んでいるの・・・? カルム・・・」



すっかり空気になっていた吸血鬼のカルムが

やっと口を開けたと思いきや

突然、奇妙な事をへティーとラルーに聞き始める。


それにはラルーもカルムを疑うが

ディアスの時とは疑い方が完全に違う。


ディアスの時が本当に恐ろしい事態を想定した疑いなら


カルムに対する疑いは、子供の幼稚な冗談に対しての反応と一緒だ。


こうも疑う対象が変わるだけで重要度が変わるとは。

仮にも吸血鬼であるカルムの方の扱いがひどいぞ・・・。



「そんなにディアスと離れたいんだったら

へティーに外国の仕事を斡旋してもらえばいいんじゃ・・・

金が無い、とか言っているけど貯金があるわけだし」


「いやいや、非常事態のための貯金よ?」


「ディアスの出現は十分に非常事態だと思うんだけど・・・」


「・・・確かに」


「ちょっと、本人を前にして言ってくれますね

そこの吸血鬼?」


「こちとら仕事で来ているんだよ

個人的ないざこざで仕事妨害されるなんて堪らない話なんだけど?」


「・・・そういえば、貴方もイヲナ同様に

ラルーの監視人でしたか・・・」



仕事に触れる問題だから提案をした、と言っているが

それが本当の理由ならもっと早くに提案をしているはず。


恐らく、本当の理由は・・・。


ディアスから離れたかったのは何も、ラルーだけではなかった。

カルムもそうだったのだ。

極力、ディアスと関わりを持たないようにしたいだけ。


それは吸血鬼であるカルムからすれば仕方のない話だが・・・。


・・・やはり情けない。



「まあ、ディアス

カルムの提案を受けましょう

私と貴方が、“一応”師弟関係を持った事を悟られないように

完全に別行動を取るのが、当然の行動でしょう?」


「・・・それもそうですね」


「じゃあ、へティー?

何か遠くの国の、面白い仕事ってあるかしら?」


「もちろん!

死神ちゃんの頼みならいくらでも紹介するよ~!」


「無関係の私が商談話を聞いているのはマズイだろう

そろそろ私も帰るとしよう」


「何を格好付けているの、ディアス」


「自分の監視人とは仲良くしておけ“狂気の死神”?」


「・・・絶対、小馬鹿にしているでしょ」



ディアスはラルーの説得を受けて

自ら席を立つと最後にラルーをからかう。

嫌味として“監視人”である私の頭を叩いてきたが

その時、ディアスはさりげなくを装い


私の仮面の隙間に小さな紙を押し込んできた。


物凄く驚いたが、不意に

“ここで動揺してはいけない気がし”

私は押し黙った。



自分の顔面付近にある紙が煩わしくてかなわないが

こんな紙を無意味に押し付けてくるほど、ディアスは変人ではない。


・・・・はず。


とにかく、ラルーに気付かれぬよう

気を付けねば。



「それでは失礼します」


「もしよかったら、別の機会に話そうじゃないか~」


「情報屋、私に寄るな?」


「・・・情報屋嫌いは相変わらず、か」


「・・・ちっ」



最後の最後でディアスが部屋を出る時に

へティー・ルアナとディアスの間で

パパラッチと有名人のような会話が繰り広げられる。


へティー・ルアナの情報屋としてのプロ根性には感服させられる。

最後の最後でディアスから何らかの情報を引き出そうとしたのだから。



・・・にしても、仮面と私の顔の間にある紙が不愉快で仕方がない。

早くこの紙を取り除きたいが、どうすればよいのやら・・・。



「それで? へティーおすすめのお仕事って何かしら?」


「死神ちゃん、熱いリゾート地って好き?」


「熱いリゾート地って・・・まさか」


「そうだよ、南の島で有名なリゾート地のはわ」


「火山地帯!?」


「・・・火山地帯っちゃ火山地帯だけど

え、そっち??」


「え?」


「え」



・・・ダメだ、阿呆の会話をするラルーとへティーを見ていると

どうしても脳裏に学生姿の二人がよぎる・・・。


へティーが場所の名前を言うより先にラルーが

そこが火山地帯だという事に嫌そうな顔をする。

どうやらへティーが予想していたラルーの反応とは違ったらしく

両者、一時停止。


熱いリゾート地で、火山地帯・・・。

ハワイの事か。


豪華な仕事先じゃな。



「じゃあ、そこに行けば良いんだな」


「おー、死神クンとは久しぶりに話すねぇ~」


「・・・・」


「・・・無表情で睨まないで?

ごめんって・・・あー! 詳細は現地で依頼人に聞いてね?」



ルクトが嫌そうな顔をするラルーの背中を撫でると

受け答えをしないラルーの代わりに話す。


すると、へティーは相変わらずの嬉しそうな笑みを浮かべる。


それを見たルクトは更に不機嫌になる。

・・・どれだけへティーが嫌いなんじゃ、ルクト。



ともあれ、かくして私たちはハワイに行く事となった。

その先の仕事がどんなモノか、とてもイメージ出来ずにいるが

無理もないと思いたい。


有名なリゾート地での殺しとは・・・。


嫌な予感が早速するのは言うまでもない。

とそれよりも、早く一人にさせて仮面の中の紙を取らせろ。

まぶたに紙の角が突き刺さって瞬きをする度に痛いんじゃ、憎いの。






前半の、ラルーとルクトとディアスによる

暴言合戦を考えるのにかなり苦労しました。

悪口ってむつかしい。

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